天抜き 其の六十三






 三千百一「ジャンキー」

 琥珀「そう言えば、秋葉様」
 秋葉「どうかしたの?」
 琥珀「翡翠ちゃんとお昼にカップ麺というものを食べてみたのですが」
 秋葉「兄さんが時々話題に出す、あれを。
    で、どうだったの。そんなに魅惑的な料理だった?」
 琥珀「うーん、何と言うか、普通にラーメンでしたよ。ね、翡翠ちゃん」
 翡翠「はい」
 琥珀「普通に作ったものの方が美味しいと思いますが」
 秋葉「だったら、何故にあんな固執を。
    久々に食べるというのがポイントなのかしら」
 琥珀「わかりませんねえ」



 三千百二「温かい食卓」

 志貴「今日の夕飯は何かな」
 琥珀「外は寒かったですから、こういう日は……、何と思います」
 志貴「温かい鍋物とか、煮込み料理とか」
 琥珀「キンキンに冷やしたカルパッチョや冷製パスタなどお出ししようかと」
 志貴「何、その嫌がらせ」
 琥珀「寒い外界の中、温かくした部屋で、冷たいお料理を楽しむ。
    非常に趣があると思いますよ」
 志貴「あれ、本気で言ってる。そうか、そういうものか」



 三千百三「今ならさらに」

 アルク「これは凄く便利そうよ。切るスピードが二倍だって」
 志貴 「確かに速いんだろうけど」
 アルク「セットで野菜の型抜きもついてくるし、お買い得よ、志貴」
 志貴 「使わないだろ、おまえ」
 アルク「えー、でも」
 志貴 「案外、通販番組にはまるタイプなんだな。
     意外……でもないか」



 三千百四「チェンジ」

 セイバー「キャスター、そのような服を着るように勧めますが、私でなくても
      良いでしょう。例えばリンであるとか」
 キャスタ「お譲ちゃんねえ。悪くは無いけど……、でも、却下」
 セイバー「それは何故です」
 キャスタ「普通に似合うような娘を着飾っても面白くないわ。
      着なれないものを着せるのが良いのよ。普段からあなたもこういう
      服を着ていたら、わたしも強制はしないわ」
 セイバー「なるほど。……私にとって結果は同じではないですか」



 三千百五「こたつでヌクヌクと」

 アルク「あ、志貴、いらっしゃい」
 志貴 「ああ」
 アルク「お茶飲む?」
 志貴 「貰う」
 アルク「まだ、ポットにお湯が残っていた筈。
     それとお茶菓子はええと、菓子鉢に。
     ねえ、志貴、だいぶわたし日本に馴染んだと思わない」
 志貴 「否定はしないけど、馴染むのとは少し違うような。
     だいたい少しは立ちあがれ」
 アルク「えー」



 三千百六「温泉旅行か米一俵か」

 藤ねえ「士郎、福引き券よ」
 士郎 「商店街のか。それがどうしたんだ」
 藤ねえ「セイバーちゃんにやって貰うと当りそうな気がするのよ。いる?」
 士郎 「その商店街に行ってると思うぞ。買い物も頼んだし。
     もしかしたら、もう福引きやってるかもな」
 藤ねえ「ぬぬぬ。そんな抜け駆けを。邪魔したわねッ」
 士郎 「ああ。……って、藤ねえ、やっぱり勘がいいな」



 三千百七「クリスマスパーティ」

 藤ねえ「今年はいっぱいいるし、賑やかにやれるわね」
 士郎 「毎年賑やかだろう、藤ねえは」
 桜  「でも、大勢なのは良いですよね」
 士郎 「確かにな。料理もいろいろ作れるし」
 藤ねえ「そうそう。さてと、ちゃんと人数分用意しないと」
 士郎 「何で、あんなに好きなんだ? 鼻眼鏡」
 桜  「わかりませんね」
 凛  「鼻眼鏡?」



 三千百八「夜を彩る」

 キャスタ「宗一郎様、あちこちの家にあるイルミネーションは何なのです」
 葛木  「よくは知らないが、クリスマスの飾りつけだろう」。
 キャスタ「そうですか。
      あんな電気仕掛けよりも、光と炎の飾りならば、もっと魅惑的な
      ものが出来ますけど、どうでしょうか」
 葛木  「差し障りがあると思うが」(キャスターの表情をちらりと見て)
     「一応、寺の者に訊いておこう」



 三千百九「頼まれたらしい」

 葛木「衛宮、訊きたい事があるが」
 士郎「何でしょうか」
 葛木「鹿の肉、鳩の肉、それに七面鳥の肉というものは、この辺で手に入るのか」
 士郎「普通にはなかなか置いてないと思います。でも、肉屋で頼めば」
 葛木「なるほど、すまなかった」
 士郎「お役に立てませんで」
 葛木「自分で仕留める方が手っ取り早いかもしれぬ」(呟き)
 士郎「え」



 三千百十「試作品始末」

 セイバー「正直にと言うので、多少の指摘はしましたが、これでも充分に美味しい。
      シロウは完全主義すぎるきらいはありますね。
      まあ、失敗作とはいえ何度も食べられるのはむしろ喜ばしい。
      ん、という事は、私が合格を出さなければ、何度でも……いやいや」



 三千百十一「将来」

 士郎「遠坂は今まで、なりたい職業とか私の夢みたいな作文とかどうしてたんだ」
 凛 「あったわねえ」
 士郎「魔術師とは書けないし、嘘を書いてたのか?」
 凛 「嘘? 嘘って、あ、でも嘘よね、そうね……」
 士郎「あれ、何だか変なとこ突いたみたいだな」

 

 三千百十二「包み」

 志貴 「それ、何?」
 シエル「琥珀さんがお土産にくれたんです。お肉の端切れとか筋とか。
     カレー作る際に使うといいですよって」
 志貴 「それはある意味贅沢だな」
 シエル「高いお肉なんですか」
 志貴 「ステーキになった部分はひとり前で、学食のカレーだったら
     半年近く食べ続けられた筈」
 シエル「牛肉というだけで喜んでいたのに」



 三千百十三ノ一「組合せ」

 シエル「コロッケカレーってありますよね」
 志貴 「カレーにコロッケ乗っけた奴だね」
 シエル「そして、カレー味のコロッケもありますね」
 志貴 「コロッケのバリエーションではポピュラーかな」
 シエル「でも、コロッケ単体にカレー掛ける食べ方ってないじゃないですか。
     これは恐るべき盲点と思うんですよ」
 志貴 「誰かやってるんじゃないかな。でも、何でそんな話を?」
 シエル「別に」
 志貴 「(あっちでカレーコロッケ食べてる人がいるの見て、か)」

 
 三千百十三ノ二「バリエーション」
    
    帰途にて

 志貴「そう言えばカレーコロッケパンも見た事ないな。
    うわ、先輩に言いたくてたまらない」



 三千百十四「望み」

 士郎「もしも聖杯戦争で本当に願いがかなったら、遠坂は何を願った」
 凛 「後で考えるとは言ってたけど、実際に勝った場合ね。
     聖杯戦争の終了かも」
 士郎「それは俺が言ってたのと同じじゃないか」
 凛 「違うわよ。今回を止めるのと、次回以降無しにするのとは。
    結果的にはかなったと言ってもいいわね。
    という事は、願いをかなえたわたしが聖杯戦争の勝利者と言っても
    過言ではない、違う?」
 士郎「え、ちょっと待て。もう一回言ってくれ」



 三千百十五ノ一「強い人」

 凛 「士郎と藤村先生が竹刀で戦ったら、どちらが勝つかしら」
 士郎「藤ねえ」(迷いなく)
 凛 「即答か。
    でも、あれだけ死線の中を駆け抜けて、今も鍛えられてるのよ」
 士郎「俺が藤ねえに勝てる訳ないだろう」
 凛 「そういう位置づけなのね、藤村先生は。
    なるほどね、了解」


 三千百十五ノ二「それ故に」

 士郎「実際、ある程度腕が上がるほど、藤ねえの強さが理解できるように
    なっているのも確かなんだけどな」



 三千百十六「もしも」

 桜「この人が、もしもわたしのサーヴァントとして現れていてくれたら、
   どうなっていたんだろう?」

    遠く、赤い弓兵の姿に視線を向けて



 三千百十七「心配したのだが」

 凛 「カップ数が大きくても可愛い下着を売っている店か。
    それだけでも何だか居心地悪かったけど。
    姉さんはいいですね、とかリンが羨ましいとか、言われて。
    弄られるとか、冗談でなくて。
    本気で羨ましがられるのって……、なんて屈辱感。
    と言う訳で珍しくも気落ちしていたの。わかったかしら?」
 士郎「……」(逃げ場所を探す表情で)



 三千百十八ノ一「兼用」

 幹也「ここは年末に大掃除とかしないんですか」
 橙子「簡単にはしてもいいが、大がかりな事は不要だろう。
    家と仕事場では違う」
 幹也「住んでるじゃないですか」


 三千百十八ノ二「身軽なわたし」

 橙子「いずれ引越しの際には不要なものは自ずと整理されるものだ」
 幹也「そんな予定でもあるんですか」
 橙子「今のところはないが」
 幹也「仮に引っ越すとして、これだけの荷物だと相当に手間取りますよ」
 橙子「何、身一つと多少の資金さえあれば、後はどうにでもなる」
 幹也「結局、整理も掃除もしないつもりじゃないですか」



 三千百十九「片づけるもの」

 志貴「大掃除とかするよね」
 翡翠「もちろん、行います」
 志貴「幾らなんでも一人じゃ無理だろう」
 翡翠「さすがに敷地内全てというのは難しいので、業者を呼んで任せる
    部分もございます。志貴様はご心配なさらずとも」
 志貴「そうか。まあ、自分の部屋くらいは自分でやるか」
 翡翠「……」(依然何もない部屋を見て、ほんの僅かに表情を変える)



 三千百二十「重箱三段」

 アルク「志貴、おせち料理なのよ」
 志貴 「随分とパンフレットやら通販の申し込みやら集めたな」
 アルク「これなんか凄く奇麗でいいわよねえ」
 志貴 「そうだな」
 アルク「一流料亭のなんかもう予約切っちゃうから、早くしないと」
 志貴 「まあ、好きにすればいいけど。
     そんなにおせち料理に関心持ってるしは思わなかったな」
 アルク「新年のお客様の歓待には必須なのよ」
 志貴 「ふうん。待て、客って誰だ。
 アルク「志貴に決まっているじゃない。わたしは別にいらないもの」
 志貴 「これを一人で始末しろと? 却下」



 三千百二十一「身分証明書ではどう書くか」

 幹也「ところで魔術師と言うのは職業なんですか」
 橙子「違うだろう。スキルというか、在り方というか」
 幹也「なるほど。橙子さんみたいに人形作りとかしていない魔術師は
    単なる無職な訳ですね」
 橙子「何か違う。いや、違わないのか」



 三千百二十二「そこに山が」

 士郎  「何か最近、泰山の周りが混んでる気がするな」
 セイバー「ああ、あれは登山客です」
 士郎  「登山客? 何であそこの中華料理食べに来るんだ」
 セイバー「何でも、あそこの激辛麻婆類にチャレンジする人を登山客と
      称するらしいです」
 士郎  「そんなの初めて聞いたぞ」
 セイバー「テレビで取り上げられてから、ちょっとしたブームだとか」
 士郎  「随分と遭難が多そうだな」



 三千百二十三「カテゴリー」

 橙子「考えてみると、式も鮮花も妹なんだな」
 幹也「そうですね」
 橙子「……」
 幹也「あ、でも、二人とも長女ですよ」
 橙子「うん、なるほど」
 幹也「(何かを未然に回避した気がする。何かはわからないけど)」



 三千百二十四「いわくつき」

 橙子「その後の巫条ビルの噂は聞いているかね」
 幹也「いろいろとバリエーションあるようですね」
 橙子「元となる種があるだけに、もっともらしい話が出来やすいのだろう。
    しかし何か新しいものについて怪異を生み出すスピードは凄いものだな」
 幹也「怪異を生み出す?」
 橙子「怖い話とか、都市伝説と言い換えてもいい。
    新しい家電、テーマパーク、タレント。すぐにまことしやかに創造される」
 幹也「なるほど」



 三千百二十五ノ一「不在時の出来事」

 志貴「ただいま。もう先輩来てる?」
 琥珀「はい、30分ほど前にいらっしゃいました」
 志貴「そうだよなあ、用事済ませたら随分と待たせちゃったな。
    お茶とか出してくれたよね」
 琥珀「お茶菓子と一緒に。それと秋葉様がお相手を務めています」
 志貴「そうか、よかった……秋葉?」
 琥珀「ええ、秋葉様。話は弾んでいるご様子ですよ」
 志貴「話が弾む? それは……、誰かに頼んで、早く帰るんだった」


 三千百二十五ノ二「不在時の会話の流れ」

 琥珀「でも、険悪な空気にはならずにそれなりに和やかですよ」
 志貴「へえ。ホスト役だと秋葉もそれなりに対応するのか」
 琥珀「主としてシエル様による会話の誘導で。なかなか巧みですね」
 志貴「ふうん。でも、何を話しているの」
 琥珀「そんなの志貴様についてに決まっているじゃないですか。
    最初にシエル様と一緒だと危ない目にと非難めいた矛先になったのを、
    そうなんです、遠野君は困り者ですと返したのは良い呼吸でした。
    そしてしばらく文句の言い合いをして、頃合を見て庇って、秋葉様も
    同調して、二人していい所探し。互いに自分だけが知る情報の開示。
    そこからまた、不満が出てきて……、なかなか聞きごたえがありました」
 志貴「ご様子どころか、しっかり把握してるじゃないか」
 


 三千百二十六「道」

 セイバー「お汁粉には塩を入れると?」
 士郎  「ああ。もちろん甘くするのは砂糖だけど、砂糖だけだとそんなに
      甘くならない。最後に少し塩を加えてやると甘みが増すんだ。
      甘いも辛いも塩次第って言葉もある」
 セイバー「なるほど、それは深い。武術の深奥にも通じます」
 士郎  「それほどの事でもないだろう」
 藤ねえ 「さすが、セイバーちゃん。わかっているわねえ」
 士郎  「あれ、俺が未熟者って事なのか」



 三千百二十七ノ一「在中」

 士郎「よく、大人数いるのがあたりまえな家で、一人になってみると
    凄くがらんとした感じになるって言うだろ」
 凛 「この家こんなに広かったんだな、みたいなやつね」
 士郎「そうそれ」
 凛 「わたしが帰って来るまで、そんな感じで寂しくなってた訳?」
 士郎「桜達が出掛けたと思ったら、遠坂が帰って来たんだ。
    一人になっている事がほとんどないなって思ったんだ、この家」


 三千百二十七ノ二「束の間の」

 士郎「じゃあって言われて、皆で相談して俺一人留守番させられてもなあ。
    そのうち戻ってくる訳だし。
    しかしまあ、こんなに開放感があるとは思わなかった。
    そうだ、誰もいないなら…………、いやいや、駄目だ。
    遠坂あたりが何か仕掛けているかもしれないし、駄目だ、駄目」



 三千百二十八ノ一「ご要望は?」

 凛「年越し蕎麦のリクエスト?
   まだ大晦日まで何週間もあるわよ」
 桜「ニシンそばがいいとか、鴨南蛮のつけ汁でとか、すぐに手に入るものなら
   構わないけど、予め揃える算段取るものがあると困るじゃないですか」
 凛「そういうオーダーに全部応えてるんだ。ふーん」


 三千百二十八ノ二「回避策」

 凛「でも、みんな集めてまとめて訊いたほうが効率よいじゃない。
   士郎と二人していちいち訊いて回るより」
 桜「ええと、姉さんは温かいお蕎麦ですが、それとも冷たいお蕎麦?」
 凛「温かいやつ。冬だもの、当然でしょ」
 桜「その時点で、温かいのは邪道だとか、蕎麦は冷たいのが当然とか、
   意見の対立を見る訳です。そして天麩羅のタネをどうするかとか」
 凛「なるほどね」



 三千百二十九ノ一「それ以前に」

 士郎「聖杯戦争になる前に遠坂に俺が魔術師だってわかってしまってたら、
    どうなってたんだろう」
 凛 「別に、どうもしないわよ。他の魔術師を排除している訳ではないし。
    軽く監視して、変な動きは無いか確認するくらいかしら」
 士郎「そういうものなのか」
 凛 「どのみち聖杯戦争になったら嫌でも集まるんだし」
 士郎「確かに」


 三千百二十九ノ二「本人には言わないが」

 凛「もっとも、わかっても魔術師として認めたかどうか……。
   魔術師未満で問題なしって判断して終わりだったかも。
   生兵法はとか思って介入……は、しないか。しないわよね」



 三千百三十「眠りからさめたお姫様」

 シエル「あなたがここにいるという事は、遠野君は辿り着いた、
     そういう事ですね」
 アルク「ええ、そうよ。
     ねえ、何で手助けしたの? 
     あなたにとっては余計な事じゃないの
 シエル「説得して諦めるなら、苦労してでも説得しましたけどね。
     途中で消息不明になったりするのは嫌だった。
     そんなところです」
 アルク「ふうん。
     ……ありがとう」(姿を消す)
 シエル「遠野君に対しての好意です。結果はともかく」(呟き)



 三千百三十一ノ一「祭りの後のあるある」

 晶「帰ってから確認すると、買ったどころか手にしたおぼえも
   ない本が毎回あるのは何故なんだろう」


 三千百三十一ノ二「もうひとつ」

 晶「それと、何で買ったのか本気で分からない本も毎回」



 三千百三十二ノ一「新年の挨拶」

 鮮花「え、橙子師、年賀状出すんですか。なんだか意外」
 橙子「意外と言われるのが意外というか心外だ。
    とりあえず、鮮花から来れば返すだろう、一般の儀礼として」
 鮮花「言われてみると、不思議ではないんですね。
    でも、うーん」
 橙子「それほどか」(意外だという顔で)


 三千百三十二ノ二「新年の過ごし方」

 橙子「では、三が日は寝正月だと言ったら意外かな」
 鮮花「それは別に違和感ありません」
 橙子「そうか」(また意外そうな顔で)


 三千百三十二ノ三「新年の格好」

 幹也「橙子さんに会ったんだけど、和服姿で初詣だって。
    なんだか異様に迫力あったなあ」
 鮮花「ふうん」



 三千百三十三「我が家の雑煮」

 志貴 「素直にカレー仕立てか、ただのカレーの中に餅。
     いやいや、一見普通で餅の中にカレーを仕込んでいる。
     あるいはそんな予想を外して、普通の雑煮。
     それくらいしか思いつかない」
 シエル「ふふん、どうでしょうかねえ」
 志貴 「余裕の表情。他の手ねえ、ううん」



 三千百三十四「邪魔なんだよ?」

 幹也「へえ、さっきまで藤乃ちゃん、来てたんですか。
    鮮花も式もいなくて、橙子さんと二人。何か検査とかですか」
 橙子「いや、今日は違う。着物の着付けのコツを教える事になってな」
 幹也「式はともかく鮮花はあまり経験ないと思いますよ」
 橙子「式や鮮花とは違った着方なのでな」
 幹也「そうなんですか」
 橙子「ああ。質量というか量感というか、余るというか」
 幹也「はあ」(ピンとこない顔)



 三千百三十五ノ一「名より実」

 シエル「つまり遠野君はプライドよりお金を選ぶ人間だと」
 志貴 「確かに話をまとめるとそうなんだけどさ」
 シエル「冗談ですよ、気にしないで下さい」
 志貴 「妹からお年玉か」


 三千百三十五ノ二「贈り物」

 シエル「妹からではなく、遠野家の当主からと思えばいいのでは」
 志貴 「まあ、そうだよね。
     一応は気遣いはしてくれたみたいだし」
 シエル「と言いますと?」
 志貴 「直接手渡しでなくて、目を覚ましたら枕元に置いてあった」
 シエル「そうなんですか」
 志貴 「それもどうかなと思うけど」



 三千百三十六「追加」

 士郎  「まさか、足らなくなるとは夢にも思わなかった」
 アーチャ「ふ、元旦の消耗の様子で気づくべきだったな」
 士郎  「そんなのわかるか」
 アーチャ「いいから、黙ってつけ」
 士郎  「わかったよ」

 セイバー「シロウ、お餅はまだでしょうか」



 三千百三十七「定義」

 セラ 「要は、スープに餅が入っていれば良いそうです。
     地方ごと、いえ家ごとに具や味付けも様々だそうです」
 イリヤ「でも、何か違う、これ」 
 リズ 「素直に士郎に聞くべき」

 

 三千百三十八「なくて」

 凛「優しい味わいで飲み食いに疲れた胃にしみる……のは確かだけど、
   妙に美味しすぎる七草粥って、何だかありがたみがないわね」



 三千百三十九「宝石」

 幹也「さすが、式の作ったおせち料理は美味しいよ」
 式 「そう言われると悪い気はしないが、本当にそれで良かったのか?」
 幹也「あれこれと重箱に詰めてもらっても一人だとちょっと食べきれない
    だろう。好きなものを中心にして貰った方がありがたいよ」
 式 「ならいいけど。
   (黒豆を重箱の半分か……)」



 三千百四十ノ一「最初の運だめし」

 セイバー「大吉です」
 藤ねえ 「大吉、大吉」
 凛   「当然わたしも」
 士郎  「……」



 三千百四十ノ二「木の枝に」

 士郎  「厄払いに、おみくじ縛っとこう」
 アーチャ「何だ、貴様もか」



 三千百四十一ノ一「ご趣味は?」

 志貴「仮に、音楽に関心持ったりしたら、道具とか揃えてくれるのか」
 秋葉「ええ、もちろんです。
    私のようにヴァイオリン演奏をというのなら、一流の指導者を
    つけて、ストラディバリウスでもグアルネリウスでも用意します。
    鑑賞の方でしたら、そうですね、一室改装してオーディオ類を
    揃えましょう。海外で生の演奏をというのも良いですね。
    それから」
 志貴「あ、いや、例えばの話で」
 秋葉「そうですか。
    ところで、揃えたものを売ってお金を手に入れようとか、
    そういうよからぬ事をお考えでは」
 志貴「まさか」(真顔)
 秋葉「……」(笑顔で、しかし目は逸らさずに見つめ続ける)
 

 三千百四十一ノ二「蒐集」

 秋葉「でも、何かコレクションなどしてみるのはどうです」
 志貴「コレクションかあ」
 秋葉「何でもいいから物に執着してくれるなら、むしろ歓迎します」
 志貴「そうか」
 秋葉「はい」
 志貴「ああ、何かしんみりとした雰囲気に」



 三千百四十二「樽のディオゲネスについても」

 エルメロイII世「アリストテレスが家庭教師だったんだよな、
         考えてみると。
         ちょっとでも話きいとけばよかったなあ」
 


 三千百四十三「一瞬の美の創生」

 橙子「いけそうだな」
 幹也「何を見てるんですか、さっきから」
 橙子「わかるか」
 幹也「ええと。あれ、このビルの図面じゃないですか」
 橙子「その通り」
 幹也「何でまた」
 橙子「ある種の芸術についての情熱が沸き起こったとでも言うか」
 幹也「壁にペイントでもするんですか」
 橙子「いやいや。ここと、ここ、後はこの支柱に少しばかり爆発を
    起こせば、奇麗に崩れ落ちると思うんだが」
 幹也「思うんだが、でなくて。何ですか、それは」
 橙子「だから、芸術さ。束の間しか鑑賞できない類いの。
    形作るのと同じくらい、崩壊というのは……。
    いや、やらない。やらないって」



 三千百四十四「制服姿」

 秋隆「お嬢様、クリーニングに出していた服が戻りました」
 式 「制服って? ああ、礼園のか。そのまま送ってくれても良かったんだが。
    橙子にでも渡すから、そこに置いといてくれ」
 秋隆「はい」
 式 「あれ、余り物をくれたんだったっけ?
    でも置いといても使い道もないしな。
    こんなの着たところを見たがるとも……、ん……いやいや」



 三千百四十五「地方の物」

 橙子「ふと思ったんだが」
 式 「なんだ」
 橙子「調べ物とかで遠方に行くと、必ず土産を買ってくるだろう、黒桐は」
 式 「そうだな。現に今もこうしてお茶受けにしている」
 橙子「かかった旅費経費は当然支給しているんだが、この土産代はどこから
    捻出しているのだろう」
 式 「さあ」
 橙子「そういう場合は少し割り増ししたものかな」
 式 「好きにしろ」



 三千百四十六「冬の目覚め」

 志貴「寒くなってくると布団から出るのが嫌になるよなあ。
    翡翠は、そんな事ない?」
 翡翠「ございます」
 志貴「寒いは寒いんだ」
 翡翠「早朝は特に冷えますね」
 志貴「そうだよな。
    なら、仕方ない。起きるか」
 翡翠「?」
 志貴「翡翠や琥珀さんも普段より負荷がかかっているけど、
    いつも通り働いているんだからさ」
 翡翠「……」(やや恥ずかしそうに)



 三千百四十七ノ一「それはそれで嫌か」

 シエル「闇鍋するのはいいですけど、あなたは見えますよね」
 アルク「そうね、光はなくても問題ないわ。シエルもでしょ?」
 シエル「ええ。あくまで電気消す程度でしょうしねえ。
     まあ、黙っていましょう」
 アルク「そうね」
 シエル「でも、考えてみると何が入っているかわかってしまうのも
     決して利点だけではないような」


 三千百四十七ノ二「何になるかな」

 アルク「ところで、自分の持って来た食材をお鍋に入れるというのは、
     調理に入るのかしら」
 シエル「妙な質問ですね。
     それは調理の一部なんじゃないですかね」
 アルク「全員参加だったわよね」
 シエル「持って回った言い方を……、あ、翡翠さん」
 アルク「あたり」
 シエル「それは、本当に闇鍋になりそうですね」



 三千百四十八「玉子はおでんの金塊だ」

 シエル「調子に乗ってつくりすぎちゃったんです。
     いっぱい食べてくださいね」
 志貴 「味のしみ具合が絶妙。うんうん、うまいよ」
 シエル「ウインナ巻きとか袋、ちくわぶなんかもありますからね」
 志貴 「じゃあ、ひととおり貰うよ」
 シエル「どうぞ」
 志貴 「なるほど。確かにどれもうまい。
     しかし、先輩の皿にあるのは大根と白滝とこんにゃく。
     もしかしてダイ…」(口を噤む)



 三千百四十九「不定型のダイヤモンドだ」

 志貴 「戦闘中はそれどころでないけど、こうして終わってから
     動かなくなったの見てると気持ち悪くなってくる」
 シエル「その感覚が普通ですよ。死者とか死徒とか、本来は存在も
     知らなくて当然なんですから。
     むしろ、慣れてしまわないで下さい。
     内臓が地面に氾濫する中で、最近もつ焼き食べてないなあ
     とか考えられるようじゃ、駄目ですから」
 志貴 「うっ」(思い浮かべてしまい吐き気)
 シエル「軟骨とか、レバ刺しとか、連想して食欲わいてくるとか」
 志貴 「ううっ……、お願い、それ以上言わないで」



 三千百五十「なんたるやさしき穴子」

 秋葉「兄さん、お寿司を食べたいと仰ってましたよね」
 志貴「仰ってましたよ」
 秋葉「ほとんど召し上がらないようですけど。
    もしかして、ここのお店ではご不満なのでしたら」(小声)
 志貴「めっそうもない」
 秋葉「では、お好きなものを召し上がってください。
    白身で今日は何がお勧め?」
 親方「そうですね、平目がなかなか上物で」
 秋葉「ひとつ頂くわ」
 親方「へい」
 志貴「……自然だなあ。
    こっちは場違い感で萎縮しちゃうんだけど。
    いいや、言ってやる、大ト…、……赤身ください」
 親方「はい」



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