パルフェ天抜き・六号店
作:しにを
「パルフェ」と「フォセット」の絵無し4コマ漫画風の何かです。
クリアしてるのを前提として、ネタバレとか気にしてませんので、
未プレイの方は読まない方が無難かと思います。
いえ、先にぜひプレイして下さい。
と、一応の注意書き。
201.「夢に生きた男」
由飛「ねえ、仁は将来のは夢はなかったの?」
仁 「夢か」
由飛「ファミーユは仁というより恵麻さんの為よね。
仁自身にはやりたかった事とかなかったの」
仁 「そうだなあ、玉子料理の専門店をやってみたいと思った事は
あったかな」
由飛「ふうん。でも今もそんな感じじゃない」
仁 「そうなんだよな」
202.「情報をもつもの」
明日香「友達がね、ファミーユに来るっていうの」
かすり「別にいいじゃないの。
明日香ちゃんのお友達ならそんなにうるさくしないだろうし」
由飛 「制服姿も見せてるんでしょ、恥ずかしい訳じゃないよね」
明日香「それはそうなんだけど……」
かすり「これはあれね」(小声)
由飛 「え、なになに」(小声)
かすり「何かとんでもない嘘をついている」
由飛 「あー、なるほど」(小声)
203.「情報をもつもの2」
かすり「あるいは、本当の事を言い過ぎているって可能性もあるわね」
由飛 「うん?」
204.「ときどき」
由飛「ファミーユで働きたいけど、演奏とか行かないといけないし、
ねえ、仁、じゃなくて店長、どうしよう」
仁 「じゃあ、臨時工という事で」
由飛「うん」
かすり「どことなく間違っている気がする」
明日香「うん」
205.「ボツ企画」
仁「そうか、普段から卵料理ばかりだから、うちで卵料理フェアやっても
少しも目新しくもなんとも無いのか。これは盲点だったな」
206.「ゆっくりゆっくりと」
かすり「ねえ、仁くん、恵麻さんが手作りバウムクーヘン売りたいって」
仁 「何か問題でもあるの」
かすり「あれね、作る時にけっこうつきっきりに近い感じになるの」
仁 「へえ」
かすり「でね、作るからにはすっごく大きいのをとか言ってるのよ」
仁 「姉さんには無理なのか」
かすり「馬鹿ね、凄く美味しいの作るに決まっているでしょ。
つまりね、そっちで長時間取られると普通のケーキはどうなる?」
仁 「あ、なるほど。当然時間が足りなくなるな」
かすり「それ指摘したら、大丈夫よー、両方作るからとか言ってるのよ」
仁 「無理だろ?」
かすり「無理なのよ。でも、もうわたしには止めるのは無理。」
と言う訳で、説得係GO! 最後は店長権限だッ!」
仁 「はいはい。手ごわいよなあ」
207.「行き来」
由飛「ねえ、玲愛ちゃん。
一度ね、二人でおんなじ制服来て働いてみたい」
玲愛「お店が違うんだから、ダメでしょ」
由飛「それは大丈夫。仁からも板橋さんからもOK貰ってるから」
玲愛「え? ……まったく、店長失格どもめ。
でも、私がそっちに行けばいいの? それとも逆?」
由飛「どっちでもいい。そうだ、玲愛ちゃんが決めて」
玲愛「それこそどっちでもいいけど。
いえ……、待って。ちょっと考えさせて。
自分の権限が及ぶ所にいて被害を受けた方が良いか、姉さんが
慣れた職場の方に行くか。後者が無難だろうけど、絶対あっちに
行ったらオモチャにされるわよね。
これは意外と難問ね……」
208.「悔いてはいない」
里伽子「ほぼ、元通りの動き……。長かったな。
こうして快復すると、ずっと黙っていた事のも、去った事も
何だか取り返しの付かない事してただけのような気がする。
絶対に正解を選んでいるのに」
209.「アマデウス」
かすり「どう?」
仁 「正直、違いがほとんどわからない。
良く出来てる。姉さんのケーキだと言われて気づかないよ」
かすり「ありがと。ここまでは行けるのね。
でも、自分で食べると違いわかるのよね。
わかるだけで、違いをなくしたりもっと美味しくする事までは
できないのよね。
わからなければ幸せだったかのかな」
210.「結婚前の憂鬱」
恵麻 「うう、仁くんが結婚しちゃうよう」
里伽子「何度目ですか、まあ、いいですけど」
恵麻 「ごめんねえ、里伽子ちゃん」
里伽子「いいですから。お酒くらい付き合いますよ」
恵麻 「ううう」
里伽子「前に恵麻さん言ってたじゃないですか、自分も結婚したから、
仁の結婚も仕方ないし、祝福するって」
恵麻 「言ったけど、それはあ…」
里伽子「あ、電話。ちょっと席外しますね」
恵麻 「うん。
……ごめんね、里伽子ちゃんにだけは愚痴を言っちゃいけない
かもしれないけど、里伽子ちゃん以外には言う事ができない」
211.「ありったけ」
かすり「今日かなりはケーキ類売れたわねえ」
仁 「ああ、追加分もはけたよ。
お客さん多かった。何かイベントでもあったのかな」
かすり「ショーケース、本当にすっからかんなのね」
恵麻 「余りものが何も無い」
仁 「何で悲しそうな顔なんだよ」
212.「仮面夫婦」
恵麻「今だから言うけど、一人さんとの結婚は打算の産物でもあったわ」
仁 「ちょっと、待て。冗談でも聞き捨てなら無いぞ、その言葉」
恵麻「本当よ。冗談でなくてね。
もちろん愛し合っていたけど、二人の思惑と都合が折り合ったの。
わたしはね、一人さんと夫婦になったら、仁くんを名実共に弟に
出来るって思ってたの」
仁 「義がつく弟だけどな」
恵麻「それでね、一人さんはわたしと結婚すれば、仁に本当の姉さんを
作ってやれるって思ってたんだって。そう言ってたわ」
仁 「それって打算の産物っていうのか?」
恵麻「ええ。目的は同じだけど、出発点は違うし」
213.「お前の為に店があるのでなく、店の為に…」
仁 「昨日はすまなかったな、みんな。
一晩薬飲んで寝たら、すっきりした」
明日香「無理はしないでね、てんちょ」
由飛 「もう半日くらい休んだらいいのに」
仁 「後が大変だしな。
でも、俺がいなくても店は回るんだな。当然なんだけど。
料理の方も誰か代わってやってくれたんだ」
明日香「ううん、料理は昨日はお休み」
由飛 「ケーキと飲み物だけにしたの。
あんなオムライスとか他の人には作れないもの」
明日香「うんうん」
仁 「そうかあ。じゃあ今日はしっかりメニューに載せないとな」
明日香「嬉しそうだね、てんちょ」(小声)
由飛 「うん。何か急に元気になってるし」(小声)
214.「夢叶いし時」
仁 「まあ、よくは憶えていないんだけど、打倒キュリオを果たした
ところで目が覚めてさ」
玲愛「それはそれはよかったわね。
わざわざそんな夢の話しに来るほど嬉しかったんだ。
願いが叶ったんなら、もう起きずにずうーーっと眠っていれば
良かったのに。死ぬまで止めないから」
仁 「いや、だからさ、半年前なら、いい夢だったとか正夢かなとか
思ったろうけど、今朝は何だか不安になってさ。
まさかそっちの店、水面下で何か起こったりしてないよな。
玲愛「していません。
……心配して来たとしても、それはそれで失礼じゃない」
215.「オンリー」
仁 「寿司屋で玉子焼きを巧く焼けたら、腕がいいって言うだろ?」
里伽子「玉子焼きだけじゃだめでしょ。玉子焼きもじゃないと」
仁 「そうだな。お、うずら納豆来た」
216.「日々是」
恵麻「毎日、ケーキを食べて暮らせたら幸せよねえ」
仁 「実際に毎日食べてるじゃないか」
恵麻「味見したり残り物でお茶したりするのは別腹だもん」
仁 「あれだけ食べて何でもっと欲しがるんだろう。不思議だ」
217.「ひよっこならば」
玲愛「ちょっと、高村、あんたうちの女の子に向かってセクハラ発言
したって本当なの。まさかとは思うけど、本当なら最低よ!」
仁 「違うって、本当に。
あれは、板橋さんが本店のパティシエ見習いが来たからって
紹介してくれたんだ」
玲愛「ああ、他のお店も見学するって話が来てたわね」
仁 「で、まだまだパティシエの卵ですって挨拶されて。
思わず……」
玲愛「思わず? 何よ」
仁 「卵って言葉に反応して、それは美味しそうだって言っちゃって。
ちゃんと謝ったし、板橋さんもとりなしてくれたし、その子も
別に泣いたりしてないから」
玲愛「はあ……、いいわよ、もう」
218.「花は花」
由飛「ねえ、仁、一番美味しい卵料理って何かな」
仁 「ははは、卵料理は全部一番美味しいよ」
由飛「えー」
仁 「別な言い方すると、その日その日の条件でよっても変わる。
熱いご飯に生卵が一番美味い事もあれば、ふわふわの掻き玉汁を
飲んで幸せになる事もある。ゆで卵で考えても、固ゆででなきゃ
駄目な時もあるし、半熟が食べたい時もあるだろう。
卵焼きだって同じ。甘いの、しょっぱいの、だし巻きとその日で
食べたいの変化するだろ。
逆に俺はこれが一番好きなんだって、何かに固執するのもそれは
それでありだけどね。
卵料理に違いは合っても貴賎はない。全て卵なんだから」
由飛「何、この慈愛に溢れた表情と喋り方」
219.「つゆだくだくで」
由飛「ふうん、こんななんだ。牛丼屋さんに入ったの初めて」
仁 「そうか」
店員「お待たせしました」
由飛「え、もう出来たの」
仁 「そういうもんなんだ。
由飛、少しこっちの肉やるよ」
由飛「ありがとう……って、お肉ほとんど全部じゃない」
仁 「卵かけご飯が食べたかったんだ」
由飛「だったらねご飯と卵だけ頼めば良かったんじゃないの?」
仁 「いやいや、それじゃダメ。卵かけご飯を醤油でなくて牛丼の汁で
食べたかったんだ。
ご飯に頼んでなで、汁をかけてくれって言っても断わられる」
由飛「ふうん。何だか訳わからない。まあ、いいや食べようよ。
いただきまーす。お肉凄いなあ」
220.「量が変わるのではじきます」
由飛 「うわあ、何これ」
かすり「うん、見るの初めてなんだ。
凄いよね、仁くんが次々と卵割る手つきと速さ。これだけは
マジで惚れちゃいそう」
由飛 「機械的な動きのようで、凄く滑らかで強くて」
仁 「うん? かすりさん、これ双子」(差し出す)
かすり「お、はいはい」(受け取る)
由飛 「え、え、今の何? 音が途切れないのに卵が出てきて。
それに、双子の卵って、まだ割ってないよね。凄い……」
221.「言われるのも嫌だが」
恵麻「仁くんが結婚してからね、それまで再婚しろしろってさんざん
言われてたのがすっごく少なくなったの。
楽になったのは確かだけど、何だかそれも寂しいじゃない」
222.「誕生の時」
由飛 「あ、あ、あああ。これ、これよ。
浮かんできた、このメロディ、ああ、何か紙、ううん、ピアノ。
あー、もう、ダメ、すぐに。頭から消えちゃいそう。
そうだ、歌う、歌って憶える。
らー、ららら、ららーららーら、らーららーーーらら♪」
かすり「もしかしたら音楽史に残るような瞬間に今立ち会ってるのかも
知れないけどさあ」
明日香「そうでないなら、ちょっとした怖い体験だよね」
仁 「ああ」
223.「蕎麦屋にて」
仁 「月見にかき玉に鍋焼きってところかな、ここだと」
かすり「相変わらず卵基準のメニュー選びなのね」
仁 「別に頼んで卵落として貰う手もあるよ。
天ぷら蕎麦に卵ってのも美味いんだ。衣と汁と卵がマッチしてさ」
由飛 「おかめは? あれって伊達巻入ってるんじゃなかったっけ」
かすり「そうだね。仁くん、ここのは食べたことある?」
仁 「……」
由飛 「仁?」
かすり「ないのか。何だか凄くショックだったみたいね」
224.「本人にしかわからぬ何か」
恵麻 「失敗作で悪いけど、良かったら食べてね。
さて、もう一回焼いてみよう」
由飛 「え、美味しいよ、これ」
明日香「うん。どこが失敗なんだろう」
かすり「恵麻さんにしかわからない何かの失敗があるのよね」
由飛 「ドラマとかでよくあるよね。
陶芸とかで失敗作じゃとか言って割ってるシーン」
明日香「あるある。そんな感じなのかなあ」
由飛 「あれよりいいよねえ。こうして食べられるもの。
もっと食べたいけど、また失…痛い」(頭、ペチン)
かすり「それは口が滑りすぎ」
225.「ゴールと過程」
里伽子「もっとずっと早くにこうしていてくれれば、全然違っていたのに。
恵麻さんの事も、ファミーユの事も。
でもそれだと、仁は昔のままだったかな。
ねえ?」(ほっぺをつんと突いてから自分も目を閉じる)
226.「そこにわたしがいない事が寂しい」
かすり「お、来たな、受験生。
そろそろ寂しさに耐えかねる頃だと思ったわ」
明日香「うう」
かすり「冗談、冗談。いらっしゃい」
明日香「お店の方、どう?」
かすり「明日香ちゃん抜けた穴、正直大きいけど、何とかね。
いなくても平気なんじゃなくて、いなくても何とかしている。
その違いはわかるでしょ」
明日香「うん」
かすり「だから、たまには顔出してもいいんじゃない」
明日香「でも、忙しいのに接客して貰うの悪いよお」
かすり「お客様へのおもてなしがここの売りじゃないの。
それともただでお茶とケーキをせしめようとしているのかな」
明日香「違うよー。じゃあ、モンブランとミルクティー」
かすり「今日はわたしがおごったげるけど」
227.「師匠と弟子」
恵麻 「……」
かすり「何かおかしいところありますか」
恵麻 「ううん、美味しい。逆なの。感心して見てただけ。
結局、わたしってかすりちゃんがここまでの腕になるって見抜け
なかったし、後押ししてあげる事も出来なかったのね。
もっと親身になって手助けして、機会も与えてあげてればもっと
早くに上達していたのに。」
かすり「あ、でも、その、料理人は習うんじゃない、味を盗むんだって
言いますよね」
恵麻 「でもここにいた間に盗んでくれなかったし。
もしかするとわたしのじゃ盗み甲斐もなかったのかなあ」
かすり「え、恵麻さん、へこまないで下さいよう。
そんなの盗むほうの技量の問題ですから。
ああ、困ったなあ、仁くんか誰か来ないかなあ」
228.「機械的動作」
仁 「あ、もしもし。明日香ちゃんか。どうし……、ああ、お母さん。
はい、え、休む、はい。早退した。
何か病気か怪我でも…、はい、違うんですね、良かった。
えっ、ああ、それは……、ええ、休ませてあげて下さい。
それでは。失礼いたします」
由飛「ねえ、明日香ちゃんどうしたの?」
仁 「お休み」
由飛「それはわかったけど、学校早退とか言ってたでしょ」
仁 「昨日、片づけしてて制服汚しちゃっただろ。
それで、染み抜きするって自分で持ち帰ったんだ」
由飛「ああ。クリーニングするほどじゃないけど言ってた気がする」
仁 「そう。それで家で綺麗にして部屋に吊るしておいたんだってさ」
由飛「ふんふん」
仁 「それで朝起きて、自然にそれを着て出掛けたって」
由飛「え、それって。うわあ。学校まで行っちゃったのかなあ」
仁 「そこまで聞いてないけど。
帰ってベッドもぐっちゃって、ずっと出てこないんだってさ」
229.「当社を希望した動機は?」
由飛 「このお店の採用基準てあるのかなあ」
かすり「どうだろう、わたしは面接らしきものもろくにしてないわね」
明日香「うん。ほとんど二つ返事で採用」
由飛 「わたしも。でも、それで結果オーライなんだ。
仁ってけっこう人を見る目があるのかなあ」
かすり「オーライというか、強引にしたというか」
明日香「それに、前は里伽子さんも判断してたよね、きっと」
230.「何処に」
仁 「二人は、三号店勤務になってここに部屋とって貰ったんだよね」
瑞奈「そうですね」
玲愛「うん」
仁 「あと板橋さんも出向組だよね。どこに住んでるんだろう」
瑞奈「さあ」
玲愛「うーん」
仁 「考えた事も無かったって顔だな」
231.「呉越同舟」
仁 「やっぱり鍋は何人かでやった方が旨いだろ」
玲愛「そうね。材料費も割り勘すれば経済的だし」
仁 「締めの雑炊作りは任せてくれ。
絶妙なかき卵の味わいを教えてやる」
瑞奈「昔ならこんなの考えられませんでしたね」
仁 「そうだなあ。宿敵キュリオの人間を迎え入れるなんてな」
玲愛「ここ、私の部屋だし、人数で言えばファミーユの人間を混ぜて
あげているんだけどなあ」(まあ、いいけどの表情で)
232.「ぐるぐる」
里伽子「……ッ!!
ど、どうしたの、仁。
え、両手に卵持ってて、由飛さんがぶつかったんで倒れた?
でも、卵は一個たりとも割らなかった。ああ、そう。
その包帯巻いたの由飛さんなのね、なるほど」
233.「人変わり」
玲愛「ねえ、聞いてる?」
瑞奈「聞いてるよう」
玲愛「それでね、その時に仁ったら、私にね……」
瑞奈「あーあ、あの玲愛がこんなにノロけまくるようになっちゃうんだ。
こんなうんざりするほど。
高村さん、恨みますからね」
玲愛「もう、聞いてないじゃない」
瑞奈「ごめんごめん。ふぅ」
234.「クリスマス前に」
仁「ボーナスかあ。
普通なら期待して待ってる側だよなあ、俺の年齢だと」
235.「別の道に行かなかった道」
かすり「よし、我ながら改心の出来映え」
仁 「食べるのが惜しいような綺麗なケーキだな」
かすり「食べられて喜ばれてなんぼだから。さ、食べて、食べて」
仁 「はいはい。ん……、うん、美味いよ、これ」
かすり「本当? 嬉しい。
頑張って続けていれば、上達できるのね」
仁 「そうだね。かすりさん本当に頑張ってるもの」
かすり「ありがと、仁くん。
もしも、あのまま姉さんを目指していたら、どうだったろう。
姉さんに誉められるような、こういう域まで来れたのかな」
236.「才あるものの鍛錬」
玲愛「今日ね、姉さんの練習を見学させて貰ったの」
仁 「へえ。何とかいう凄い先生がついているんだろ」
玲愛「うん。幾らなんでも姉さんの為に来日するなんてと思ってたけど、
正直驚いた。姉さんをまだまだ見くびっていた」
仁 「どうしたんだ」
玲愛「トップクラスの才能ある人間って、練習であそこまでやれるのね。
凄く打ちのめされて、でも姉さんが誇らしかった」
仁 「何だか複雑だな」
玲愛「複雑なのよ、肉親ってそういうものでしょ」
仁 「ああ、そうだな。複雑だな、わかるよ」
237.「モノの名前」
由飛「ええと、次。ゆで卵を乗せて食べる器? なんだろ」
仁 「ぶつぶつ言って何してるかと思えば、クロスワードパズルか。
それならエッグスタンドだよ」
由飛「おおっ、さすが。こんなのも知ってるなんて」
仁 「常識だろ。だいたい、この部屋にも10個はあるぞ」
由飛「嘘、信じられない」
238.「開発秘話ならじ」
由飛「うう、仁〜。ケーキの詰め合わせ、階段から落としちゃった」
仁 「お客様には新しいのを用意するとして、これはどうするかな。
少々潰れたけど味は同じってレベルを超えてるぞ」
由飛「捨てるのは勿体ないよ。責任持って食べるから」
仁 「仕方ない、手伝おう。ほんとに凄まじくぐちゃぐちゃだな」
由飛「いただきます。……あれ?」
仁 「……ん?」
由飛「美味しい、なんか美味しいよね、仁」
仁 「ああ。何だか絶妙な感じでミックスされた美味しさだな。驚いた」
由飛「美味しい〜」
仁 「……てな事があったんだけど」
恵麻 「……」
かすり「……」
仁 「何か、怒ってる?」
恵麻 「どうして呼ばないのよ。
再現できたら新しいケーキとして活かせたかもしれないのに」
かすり「どういう組み合わせだったかなあ、もとのケーキ」
恵麻 「もう、仁くんの馬鹿、馬鹿。
だいたい、お姉ちゃんに黙って美味しいケーキをこっそりと
食べちゃうなんて、凄く凄く悪い子だわ」
かすり「少し視点がずれてきてる気がする……」
239.「以心伝心」
恵麻 「ねえ、今、仁くんから電話来たでしょ」
由飛 「あ、はい。確認だけでもう用事済んじゃいましたけど」
恵麻 「なんだ。なら、いいわ」(戻る)
由飛 「お店の電話なのになんでわかるのかな、仁からだって」
明日香「そもそも電話の音って、あそこまで届かないんじゃないかなあ」
由飛 「恵麻さんって凄い」
明日香「凄いというか怖いというか、うーん」
240.「ケーキに死す」
恵麻「理想的な死に方は何かっていう話があるじゃない」
仁 「唐突になんだと思うけど、あるかな」
恵麻「わたしはファミーユでケーキ作りながら死ねたら、けっこう幸せな
最期だと思うなあ」
仁 「凄い騒ぎになって噂に尾ひれ付いて、客足が途絶えると思うけど。
内部の犯行かって疑われて警察の介入もありそうだし」
恵麻「なるほど、そうかもね。
じゃあ、ファミーユでありったけのケーキ食べている最中にね、
ふっとロウソクが消えたみたいにとか」
仁 「もっと大騒動になるだろ」
恵麻「じゃあ、ファミーユ…」
仁 「ファミーユへの愛情はわかるけど、とりあえず場所替えしてくれ」
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