パルフェ天抜き・贈答品

作:篠突

 






1.「君の名は」

 かすり「リカちゃんと仁くんってさあ、始めの頃はお互い名字で呼び
     合ってたじゃない?」
 仁  「そうだな」
 里伽子「そりゃあ最初から名前を呼び捨てじゃなかったけど……」
 かすり「名前で呼び合うようになったきっかけとかあるのかな?
     何かこう、初々しくてストロベリィ〜な話とかあるんでしょ」
 仁  「無い、無いぞ。何も無い。一切無い」(目が虚ろ)
 里伽子「……」(苦虫を噛み潰したような表情)
 かすり(な、何があったの…もしかして地雷踏んじゃったのかなわたしっ!)



2.「主食と副菜」

 里伽子「ちょっ…またやってるし、それ」
 仁  「うん?何の事だ」(天津飯に生卵をかけてかき混ぜつつ)
 里伽子「はあ…まあ、いいけどね」
 仁  「ああ、本当に美味しいな。濃厚な卵、それを引き立てる天津飯。
     最高だ」
 里伽子「…何?」
 仁  「ん?」



3.「フェチ論議」

 かすり「いやあ、やっぱブレザーでしょう」
 板橋 「その言い分もわかるんだけど、やっぱりセーラーにも捨て難い
     魅力があると僕は……」
 仁  「あんたら二人して何おやじくさいこと話してるんだ」
 かすり「おお、いいとこに。仁くんは制服はセーラー派?ブレザー派?」
 仁  「はあ…そんなこと考えたこともなかったけど」
 板橋 「そういや恵麻さんはセーラーだったね。
     ふうん、そうなるとセーラー一択か」
 仁  「なんだその変態的意見。ってか何故それを知ってる」
 かすり「そうかそうか。仁くんはセーラーフェチかー」
 仁  「かすりさんまでっ!?」
 明日香「ふうん…てんちょはブレザーの女の子には興味無いと」
 仁  「明日香ちゃんもどこからっ、違うんだ、ええと…」



4.「卵論議」

 恵麻 「仁くんはそんな男の子じゃないもん。私信じてるもん」
 里伽子「そんな感情論で決めつけないでください」
 明日香「ちょっと、どうしちゃったのアレ」
 かすり「いや、何か仁くんがカレーと一緒に卵を食べるなら目玉焼きを
     上に乗せるか、それとも生卵をかけるかで熱いバトルを繰り広げ
     てる」
 明日香「心底どうでもいい……っていうか、里伽子さんがどうしたの
     それ……」
 由飛 「あ、じゃあ私はゆで卵を添えるに一票〜」
 かすり「ややこしくなるからやめなさい」



5.「中華料理屋にて」

 里伽子「……」(無言でチャーハンを食べている)
 同級生「ね、ここのチャーハン美味しいでしょ?結構評判なんだから」
 里伽子「……38点」
 同級生「何か言った?」
 里伽子「ううん、何でも。美味しいわね、これ」



6.「かつてないたまご」

 仁 「……」
 玲愛「ちょっと、なんであんたがこんな所でご飯食べてるのよ。
    いくら閉店後だからって店長ともあろうものが敵地で悠々と…って、
    聞いてるの?」
 仁 「…が、…でもこの…の食感は…して…」
 玲愛「仁?」
 板橋「だめだよ、さっきから何言っても聞こえてないみたい」
 玲愛 「一体何やったんですか」
 板橋「いやあ、さっき本店からの用事でバラさんが来ててさ、ついでに
    賄い作ってもらってったんだけど、仁くんにも食べてもらったんだ」
 玲愛「超一流シェフについでで賄い作らせるなとかそこでなんで仁がとか
    突っ込みどころ満載ですがそれが何だと?」
 板橋「なんか卵料理が入ってたらしくてさあ…食べ終えてからずっと様子
    がおかしいんだよ」
 玲愛「はあ…?」
 仁 「…で…うん…卵白と…を…」
 板橋「卵もその他もずば抜けた腕の料理で、打ちのめされながらも感動
    して、さらに敵愾心を燃やしているってとこだと思うんだけど
    どうだろう」
 玲愛「鬱陶しいのでさっさと元に戻してください」



7.「三竦み?」

 かすり「う〜ん」
 仁  「どうしたのかすりさん」
 かすり「いや、うちの姉さんとリカちゃんを会わせてみたらどうなるか
     なって」
 仁  「紬さんと里伽子を? う、想像しただけでこの空間が氷点下に
     なる気が……」
 かすり「でしょ、ちょっと面白そうだよね。主に間に挟まれてわたわた
     する仁くんの反応がだけど」
 仁  「何考えてんだあんたは」
 由飛 「そこに玲愛ちゃんをプラスするってのはどう?」
 かすり「おお、いいねそれ」
 仁  「……帰りてえ」



8.「本人にとっては最高の褒め言葉」

 仁  「馬鹿言うな。卵となんて比べられるわけないだろう。
     お前の方がずっと大事だ」
 里伽子「本来嬉しさを感じるべきところなのに仁の正気を疑ってしまう
     とか、本当に本来ならそもそもの比較対象に違和感がとか、思う
     ところがありすぎる発言ね。
     ああうん、本気なのはわかったから。はいはい、ありがとう」
    (投げやりに)



9.「高村杉澤両家親睦会」

 恵麻 「はあ、本当に仁くんが高村家”代表”になっちゃったわね。
     お父さんもお母さんもいるのに、杉澤は相変わらず私一人なんて
     ずるい〜」
 仁  「ずるいって言われても…」
 恵麻 「夏海ちゃんの次にもう一人できたら養子にもらうってのはどう
     かしら」
 仁  「却下」
 里伽子「あ、ワインきましたよ」



10.「特訓中の日々」

 仁  「で、なんで俺が姉さんの見合い相手の写真を見ないといけない
     わけ」
 みつえ「まあいいじゃない。
     で、この人はどうかね。まだ若いのに○×商事の部長さんで…」
 仁  「うーん、消費量が少なくてすみそうな顔だね」
 みつえ「消費量?」
 仁  「その分チキンライスの味を濃くしたほうがいいのかな」
 みつえ「チキンライス?」
 仁  「いや、でもあのケチャップなら…うんうん」
 みつえ「ケチャップ?」



11.「女教師に限りませんが」

 かすり「ねえ、仁くん。
     私、今のファミーユに足りないものが何か解ったよ」
 仁  「ほほう、それは?」
 かすり「女教師」
 仁  「……は?」
 かすり「メイド、姉、妹、幼馴染、後輩、眼鏡っ娘と年上のお姉さんに
     電波系ドジっ娘、さらに人妻。
     これほどの広範囲をカバーするファミーユでも唯一つ用意する
     ことのできない駒、それが女教師よ!」
 仁  「いや、無くてもいいからそんな駒」
 かすり「うわー、つまらない返答。ついてるものついてんの仁くん?」
 仁  「やかましいです」



12.「一人じゃ着替えられない」

 かすり「リカちゃんもすっかり快復して、本当によかったねえ」
 仁  「ああ…」(溢れる感情を堪えつつ)
 かすり「でも、残念なとこもあるんじゃないの?」
 仁  「どうして?」
 かすり「服の着せ替え、もうリカちゃん一人でできるじゃない。
     役得が一つ減っちゃったわけだ…って、なんでそこで目を
     逸らすのよ」


13.「ということは」

 かすり「仁くんは今日のリカちゃんのパンツの色を知っている!」
 仁  「待て」



14.「華の」

 由飛 「明日香ちゃんもついに大学生かあ」
 仁  「うーん、あの明日香ちゃんが大学生…女子大生…」
 かすり「何を妄想してんのよこの変態卵」
 仁  「いや、明日香ちゃんって凄く女子高生女子高生してたから
     どうも違和感がある。
     あと卵を侮辱するな」
 かすり「ま、見た目から中身から完璧な女子大生という前例が居た
     からねえ、うちには」
 仁  「明日香ちゃんは妹みたいな存在だったからなあ。女子大生っ
    て言うと大人なイメージだし」
 かすり「いやいや、彼女は成長したよー?もう色々と。
     既に純情な乙女のサイズではないよねあれは」
 仁   「ぐっ、一体何の話、かな」
 由飛 「まだ育ってるなんてずるいよね〜」
 かすり 「あんたがそれを言うか」
 仁   「何の!話!かな!」



15.「どこかで聞いた話」

 かすり「飲みすぎて潰れた挙句、気がついたら見知らぬ部屋のベッドの
     上……
     ああ、明日香ちゃんもそんなベタで危険な出会いをする年頃に
     なったのね」
 仁  「そんな、そんなバカなことは……うーん、うーむ……」
 恵麻 「心配しすぎよ仁くん。
     明日香ちゃんなら何事もなく帰ってくるって。
      ……リカちゃん、どうかしたの?」
 里伽子「いえ、何も」



16.「ダメ人間」

 仁  「姉さんと由飛は問題外。かすりさんもアレだし、玲愛とか…
     里伽子も、結構…。
     あれ、だらしなくない人間ってもしかして明日香ちゃんくらい
     しかいないのかなもしかして」
 里伽子「あんたも含めてね」
 恵麻  (否定はしないのね)



17.「隣は何をする人ぞ」

 瑞奈「夜間はベランダが使用できなくなるってどんな部屋なんだか。
    ま、出てってもどうせ気づきもしないんでしょうけど」

   今日も騒がしくも歯の浮きそうな会話の聞こえてくる窓辺を見ながら。



18.「ファミーユ七不思議」

 玲愛「なんでファミーユのプリンはあいつが作らないのかしら」
 瑞奈「お、そんなに素直に認めるなんて珍しい」
 玲愛「ち、違う!いや、違わないんだけど…いや、やっぱ違うっ
    あいつの作ったプリンが美味しいとか美味しくないとかじゃなくて」
 瑞奈「はいはい。ああ、このとろける食感たまらなーい」



19.「万物其れ卵也」

 由飛「私、仁が最高の料理人なれる方法を思いついたよ」
 仁 「なんなんだ藪から棒に」
 由飛「あのね、卵以外の食材を雑に調理してしまうのが仁の欠点じゃない?」
 仁 「まあ、そうみたいだな」
 由飛「じゃあ、あらゆる食材を卵だと思えばいいのよ」
 仁 「なんだその頭の悪い理論は」
 由飛「いいから聞きなさい。
    そう、卵なのよ。お米も鶏肉もパスタもカレールーも。
    かき混ぜればふわりととろけ、焼けば香ばしい匂いと共に美しい
    色に固まり、 茹でれば柔らかく湯気のあがる官能的な姿になり…
    そしてそれらは仁の技によって無限の可能性を得る。
    ほんの指先、たった一瞬の手間ですら千変万化する究極の食材。
    それを調理できる喜びを想像してみなよ。
    クラブハウスサンドも、ペペロンチーノもカレーライスも…」
 仁 「……」(途中から耳に入っておらず恍惚としている)


20.「洗脳失敗」

 かすり「無駄ね。その程度の洗脳じゃ」
 由飛 「ああっ、結局卵にしか目がいってないっ
     …せっかく昨日一晩ずっとあの呪文を考えてたのに〜」
 明日香「仕事して…」



21.「実は凄いとこなんです」

 仁「全国コンクールで優勝したパティシエールの作ったケーキを
   売るキュリオ。
   タイプは違えどそれに全く引け目をとらない味の上に信じら
   れないほど低価格の姉さんのケーキを売るファミーユ。
   さらにその姉さんに迫りつつまだまだ成長するかすりさんも
   いる。
   もしかして、ブリックモールってとんでもないとこだったり
   するのかな」



22.「愛しの呼び名」

 仁 「ま〜姉ちゃん」
 恵麻「う〜ん」
 仁 「どうしたのさ?」
 恵麻「結婚してもまだ”姉ちゃん”なんだなあって」
 仁 「だ、だめかな」
 恵麻「ううん、だめじゃない。全然、だめじゃない」


23.「愛しの呼び名2」

 仁  「姉さん」
 恵麻 「ダメ。それは禁止」
 仁  「ええ〜?」
 恵麻 「お姉ちゃん、ならまだいいわよ?」
 仁  「それは断る」
 かすり「ま〜姉ちゃんがよくてお姉ちゃんと呼べないのもよくわからない
     けどなあ」
 仁&恵「い、いつからっ」
 かすり「いや、厨房のど真ん中にいながらいつからもないでしょう」



24.「朝日に透ける白いYシャツ」

 仁  「り、里伽子…それは…」
 里伽子「ん?あ、これ。脱ぎ着しやすいからずっとこれ使ってたんだけど…
     やっぱ見苦しかったかな」
 仁   「……」
 里伽子「でも仁が手伝ってくれるなら普通の寝間着が着れるな。
     いい加減寒かったし…って、なんでそんながっかりしてるのよ?」



25.「深夜特訓中」

 かすり「はあぁ〜…」
 仁  「どうしたのさ、そんな盛大に溜息ついて」
 かすり「一体いつになったら恵麻さんの域までいけるんだろう」
 仁  「うーん…でもかすりさんも凄く上達したと思うよ。
     お世辞とか慰めじゃなくもう姉さんを射程範囲に捉えてると思う」
 かすり「…そーなのよねえ」
 仁  「うん?」
 かすり「自分でも多少は腕が上がってるとは思う。でもそれはね、
      実力の差がはっきりと判るようになってしまったというか、
      厚さの見えなかった壁が実は100mだったと知ったというか、
      とにかく以前より苦悩が増えてるわけよ〜」
 仁  「…ミルクティーでよかったっけ?」
 かすり「うう、その優しさに誤魔化される私が好き。仁くんのプリンも
     食べたーい」
 仁  「はいはい」



26.「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」

 明日香「今月も今日で終わりかあ…わ、なにこの赤丸」
    (カレンダーをめくりつつ)
 かすり「なになに?誰かの誕生日かな」
 由飛 「えーと、でもその日は誰も当てはまらないような気がするけど」
 明日香「ファミーユに関する何かの記念日…でもなさそうだなあ」
 由飛 「明日香ちゃんの入学式とか」
 明日香「違うんだよねえ…」
 かすり「うーん、なんなのかねえ」



27.「イースター」

 仁  「当日は色とりどりのゆでたまごを店頭で配るとかさ」
 里伽子「却下。ケーキ屋にとってそこまで売り上げに影響するほどの
     イベントだとは思えない。大体あんた仏教じゃなかったの」
 恵麻 「仁くんが小さい頃からゆでたまごを大量に食べる日として
      楽しんできたからねえ…」
 里伽子「だから何だっていうんですか」



28.「きみの全てが」

 由飛「仁って、卵を食べるのが好きなの? 
    それとも調理するのが好きなの?」
 仁 「非常に難しい問題だな」



29.「咥え煙草の女」

 板橋「仁くんってさ、煙草似合わないよね」
 仁 「まあ、自覚はしてます。苦手でもありますしね。
    というか似合う似合わないで吸うものでもないような」
 板橋「そうでもないさ。
    でも煙草が一番似合う人って誰だろうね。あ、僕って答えは
    判りきってるから無しで」
 仁 「煙草の似合う人〜?そんなのファミーユやキュリオには…いや
    待てよ…でも、いやいや」
 板橋「ボケへの完全なスルーは悲しいけどなんか面白いからいいか」



30.「ぼんじゅーるの」

 仁  「え、玲愛ってフランス語喋れるのか!?」
 玲愛 「その驚き方は私を侮ってたってとってもいいのかしら。
     というか当たり前じゃない、ハーフだって言わなかったっけ」
 仁  「いや、それは知ってる」
 玲愛 「確かにお母さんは純フランス人なのに日本語しか喋れないけど…
     でも祖父母の母国語なら不思議でもないんじゃない?」
 仁  「だってさあ…」
 由飛 「ひーん、明日香ちゃんここ解んない〜」
 明日香「何?英語?長文?私に勉強で頼らないでよもう」
 玲愛 「……」
 仁  「……」
 玲愛 「…言っとくけど英語もできるからね私は」



31.「できないのはスポーツくらいか」

 明日香「せんせは何気に万能なのがずるいと思うなあ」
 仁  「うん?何か言った?」
 明日香「別に何も」



32.「指導」

 由飛 「何やってるの。そんな出来でお客様に出せるとでも思って
     るの?」
 里伽子「……」
 かすり「いろいろと凄い情景ね」
 仁  「里伽子が由飛に叱られてるなんて悪い夢みたいだな」
 かすり「みんな通った道とは言え、まさかリカちゃんまで洗礼を
     受けるとは」
 里伽子「なんで私がケチャップ似顔絵の練習なんて…」
 仁  「悔しいのはわかったから俺を睨むな」



33.「姉と女性と」

 里伽子「もしかして、恵麻さんをライバル視してたのって私だけなのかな」



34.「はじめてーのー」

 由飛 「えー、でも…」
 明日香「わたしだったら…」
 かすり「いやいや、案外…」
 由飛 「じゃあさ、仁のファーストキスっていつだと思う?」
 里伽子「……」(遠くでピタリと動きを止める)

 仁  「何をにやにやしてるんだ姉さん。
     は?かすりさん達の話が聞こえた?だからどうしたってんだ。
     そんなの私が奪ったに決まってるって、だから何の話だよ」



35.「発音も完璧」

 由飛 「And wonders, wonders, of His love……」
 かすり「おお〜」
 恵麻 「さっすがうちの歌姫ね」
 由飛 「えへへ、おそまつさまでした」
 仁  「う〜ん」
 玲愛 「何、なんか不満でもあるの」
 仁  「いや、そうじゃない。ピアノも歌も文句無く巧かったよ。
     ただ…」
 由飛 「ただ…?」
 仁  「お前、英語喋れないんじゃなかったか」
 由飛 「…ん?」
 仁  「ん?」
 由飛 「英語?」
 仁  (え、歌詞の意味もわからず歌ってるとか。いやいやまさか)



36.「炬燵に入りて」

 恵麻 「勘違い、炬燵で母の手を握り、か。
     そこは姉だったとしても…ふむ」(考え込む)
 征氏 「母さん、恵麻のやつまた何かよからぬことを考えてるぞ」
 みつえ「まったく、珍しく一人で帰ってきたと思ったら。
     どうせまた仁のことでしょ」



37.「耳かき」

 由飛「酷いよ仁。せっかく可愛い彼女が膝枕してあげようってのに」
 仁 「お前の膝枕が魅力的なのは認める。
    だがその凶器は仕舞え。話はそれからだ」
 由飛「今度は大丈夫だよ〜、こないだはほら、ちょっと調子が悪くて」
 仁 「頼む、勘弁してくれ。お願いだ」
 由飛「う、弁を振う余裕も無い上になんという必死の眼差し。わかった
    わよふーんだケチ」



38.「深夜の大食い大会」

 かすり「ケーキをホールまるごと食べるのが女の子の夢、か。
     否定はしないけど、叶った途端に甘い幻想は崩れ落ちて厳しい
     現実が立ちはだかるのよね」
 仁  「つまりもう満腹だと」
 かすり「む、プリン担当。君はまだ楽なんだからこっち半分食べなさい」
 仁  「ムリムリムリ、さっき山と積まれたブラウニーを詰め込んだの
     見てたでしょ」
 かすり「ああ、美味しいんだけど、美味しいんだけどー!」
 仁  「耐えるんだかすりさん。そのミルフィーユを食べてしまえば
     戦いは終わる」
 恵麻 「ねえねえー、かぼちゃのパイも焼いてみたんだけどどうかな?
     どうかな?」
 かすり「ぐふう…」
 仁  「あ、崩れ落ちた」



39.「欲の無い人達」

 仁  「ふむ……」
 明日香「何見てんのてんちょ」
 仁  「ああ、明日香ちゃん」
 明日香「宝くじ?買ったの?」
 仁  「いや、そうじゃないんだ。
     もし当たったらどうするかなって思って」
 明日香「はあ、誰もがする虚しい妄想をてんちょもするんだねえ。
     それでてんちょはどうするの?」
 仁  「それがさ、ファミーユをもっと大きくしたいってのはあるけど
     他に思いつかないんだよな。
     それにお金は必要だけどお金だけあっても叶う夢でもないし」
 明日香「てんちょらしいと言えばらしいね」
 仁  「他のみんなはどうなんだろうな。金に飽かして豪遊したいって
     やつもいなさそうだけど。
     明日香ちゃんならどうする?」
 明日香「わ、私?お金があったら……う〜ん、ケーキ食べ放題とか、
     いや、もうやってるかそれは」
 仁  「困るよなあ」



40.「策謀渦巻く伏魔殿」

 仁 「あ、お疲れ様です」
 瑞奈「お疲れ様です」
 仁 「……」
 瑞奈「どうかしたんですか?」
 仁 「いや、川端さんと会えてなんかほっとしたなって」
 瑞奈「なんですか〜?急に。玲愛から私に乗り換えなんてきっと血を
    見ますよ」
 仁 「まともな常識人はもう川端さんだけだから。川端さんだけが最後
    の砦だから」(真顔)
 瑞奈「え、ええ?ちょ、何が……うわ、泣いてる。ああもうどうしたら」




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