天抜き“ある幸福な週末”


 作:Syunsuke 



◎1.不意打ちはお家芸

 秋葉「ありがとうございます、兄さん」
 志貴「気に入ってくれた?」
 秋葉「はい。でも、どうして突然こんな?」
 志貴「何かのイベントが無きゃ、プレゼントはしちゃ駄目かい?」


◎2.フランス流

 秋葉「お返しをしないといけませんね、頂いた口紅の」
 志貴「いや、いいよ、そんなの」
 秋葉「したいんですよ。ほんの少し、返すだけですから」

    そして会話は出来なくなる。


◎3.Eternity Rose blush

 志貴「ん、香水とか付けてる?」
 秋葉「ええ」
 志貴「仄か過ぎて今まで気付かなかったな」
 秋葉「こうしておけば、兄さんが独り占めできるでしょう?」


◎4.カサブランカ

    一輪挿しに花ひとつ。

 秋葉「八年ぶりに咲いたんです」
 志貴「子供の頃、秋葉はこれの名前を何故か上手く言えなかったね」
 秋葉「ふふ、そんな昔のことは忘れました」
   「……来年も、ちゃんと咲くかしら」
 志貴「はは、そんな先のことは判らないよ」


◎5.不確定名ではなく

 志貴「日傘なんてしてると、何処かのお嬢様って感じだなあ」
 秋葉「してないと、違うのですか?」
 志貴「そりゃ、『秋葉』だからね」


◎6.異人さんに

 志貴「なんか赤くて可愛いね、その靴」
 秋葉「……。嬉しいのですけど、ひと月も前から履いてましたよ」
 志貴「そうなんだ。ごめん、今ごろ」
 秋葉「ちゃんと看てないと、連れられて行ってしまいますよ」


◎7.四次元ではなくても

 秋葉「男性には出来ないことっていうのがありまして」
   「ひとつには、中身を出してしまった女の鞄を元通りにすること、だそうです」
 志貴「……ああ、そうだね」
 秋葉「で、何を探していたんです?」


◎8.決して裸エプロンではない

 秋葉「兄さん? 何故厨房になんて?」
 志貴「お前こそ、そんな格好で……って、そうか」
 秋葉「?」
 志貴「いや、ちょっとお腹が空いてね。何か作ってくれない?」
 秋葉「はいっ」


◎9.必需品?

 秋葉「兄さんでしょう! こんなものを私のハンドバッグに入れたのはっ」
   「人に見られたらどうするつもりだったんですか!」
 志貴「いやあ、うちの保体の先生は男女問わず持ってろって言ってたよ?」
 秋葉「でもっ。……自分は使いたがらないくせに」


◎10.九寸五分の魂

 志貴「竜胆なんて、匕首には随分優雅な名前だね」
 秋葉「ええ。でも、曾お婆さまは反転を怖れてこれで自害されたそうです」
   「私のことは、兄さんにお願いして……良いですか?」

    それから、ただ抱き締めあって言葉も無く、お互いの肌の温もりだけ確かめた。


◎11.甘き磔刑

 志貴「大変なんだね、マニキュア塗るのも」
 秋葉「足のはペディキュアですよ。うふふ、なんか良い気分」
 志貴「そうか。でも、両手足塗っちゃったらしばらく何も出来ないんじゃない?」
 秋葉「そうですね。うふふ、妹を動けなくしてどうなさる積りなんです?」


◎12.月に一度の

 秋葉「今日は駄目です、それが要るような日なんですから」
   「『それはそれで』って、そんなことっ!」
   「駄目ですっ!」
   「ほんとに、してあげますから止めてくださいっ!」


◎13.手帳

 秋葉「せっかく予定を白くした週末なのに……」
   「!?」
   「……鞄を探ったことも、赦してあげましょうか」

    良く知る人の文字で「アーネンエルベで午前10時に」と。


◎14.ファーストじゃないけれど

 志貴「ようやく少しは早起きになったかなあ」
 秋葉「ええ、近頃は朝ちゃんと歯を磨く時間も取ってらっしゃるようですし」
 志貴「昔から虫歯ってならないんだけど、やっぱり綺麗な方が良いだろ」
 秋葉「レモン味なら、磨かずに居るのも良いかも知れませんけど、ね」


◎15.テクマクマヤコン

 秋葉「もう少し素直になーれっ……無理かな……」
 志貴「無理にならなくて良いって」
 秋葉「!! いつの間に来たんですか!」
 志貴「今のままでも、もう居なくなったりしないよ」
 秋葉「兄さん……」


◎16.時間に縛られず

 志貴「もう、外しておけば?」
 秋葉「そうしましょうか。分刻みの日々はこういう時間のためですし」


◎17.ストロベリーパイと一緒に

 志貴「“グレイ伯爵”って意味だっけ」
 秋葉「はい。レディグレイもありますね」
 志貴「紅茶好きみたいだけど、レディ秋葉を造ろうとかは思わないのかな?」
 秋葉「あら、レディと認めてくださっているとは存じませんでした」


◎18.マーキング

 志貴「ありがとう。秋葉もソーイングセットなんて持ち歩いてるんだね」
   「でも、このボタンだけ糸が十字になっちゃったな」
 秋葉「あら、ごめんなさい」
   (わざとだって察するような人ではないですよね)


◎19.あら、こんなところに一子さん

 秋葉「煙草を吸ってみたことって、一度もないですか?」
 志貴「ないけど、どうしたの?」
 秋葉「いえ、初めて煙草を吸う女性が格好良く見えたんです」
 志貴「俺はこれの方が良いよ、吸うなら」
 秋葉「!」
   (煙草吸ってると、味がするのかな?)


◎20.ホントはあるのだけど

 志貴「秋葉が準備を怠るなんて、らしくないね」
 秋葉「らしくないことを兄さんがされるから降ったんじゃありません?」
 志貴「ははは、そうかも」
 秋葉(一本あれば充分です)


◎21.ボジョレヌーヴォー

 志貴「やっぱり余り美味しいと思えないや」
 秋葉「もて囃すのは新しさで、味ではないですから」
 志貴「いや、その違いさえよく判らないしさ」
 秋葉「良いんです、付き合って下さるだけで」


◎22.使い方は色々

 秋葉「この瞬間に栞を挟んでおいて戻って来れたら良いのに、なんて思うことありませんか?」
 志貴「うーん、俺は今読んでるところに挟むのにしか使わないからなあ」


◎23.黒いレースのキャミソール

 秋葉「やっぱり、こういうのは胸がないと格好が付きませんね」
 志貴「いやあ、それしか身に着けてないなんて破壊力抜群だって」


◎24.チークブラシ

 秋葉「ちょっと、そんなもので何を!」
   「駄目です、そんなことっ」
   「あん……」


◎25.判り易いのがせめての救い

 志貴「ほんとに、綺麗だな」
 秋葉「何が、ですか?」
 志貴「いやあ、この蒔絵の櫛」
 秋葉「……!」
 志貴「うわ、真っ赤っ!」
 秋葉「!」
 志貴「うん、やっぱり黒髪の秋葉が一番綺麗だよ」
 秋葉「……」

   今度は頬が真っ赤。


◎26.魔法の鏡は必要無し

 秋葉「今、世界で一番幸せな人はだあれ?」


◎27.給料三か月分

 秋葉「うふふ、兄さんの意地悪」
 志貴「何? 急に。嬉しそうだったけど」
 秋葉「今日は見るたびに思い出して大変だったんですから」

    左薬指に玩具みたいな指輪。



◎おまけ.スプーナリズム

 あきは「からぶらんか」
 志貴 「カサブランカ」
 あきは「……かさらぶんか」
 シキ 「カ・サ・ブ・ラ・ン・カ」
 あきは「かぶさらんかっ!」
    「からぶさんかっ!!」
    「かさぶかんらっ!!!」


  ※そしてASHさんによる漫画です。


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