微熱と体温計(台詞のみVer)

作:しにを

            






「大丈夫、セイバー」
「はい」





「まったく……」





「まあ、訊いても素直に認めたりはしないか。
 ちょっと、こっち見て……、うん。熱はまだあるみたいね。
 別にわたしに取り繕う必要はないんだから」
「……少し熱っぽいようです」
「そうよね。
 サーヴァントの風邪というのも何だけど、セイバーは特別だしね」




「ああ、いいわよ。
 たまにはゆっくりなさい」
「しかし……」
「怪我人とか病人に下手にうろうろされる方が手間がかかるわ。
 わかるでしょ?」





「美味しいおかゆ作ってあげるから」


















「まだ熱を計っていなかったでしょ?」
「熱ですか」



「体温計。これを腋の下に挟んでね」
「ふむ、こうですか」
「そう。そのままじっとしてて。少しの間でいいから」









「いいわよ、そろそろ」
「はい。どうぞ、凛」






「変ね、あまり高くない」
「そうなのですか?」
「ええ。額は……、こんなに熱あるのに」
「凛の手は冷たいですね」
「あなたが熱いのよ。ほら、タオル載せて」




「ひんやりとしています」




「じゃあ、ちょっと下にいるから。
 何かあったら呼びなさい」
「はい」


















「セイバー、起きてる?」
「あ…はい。ん、凛?」
「うつらうつらしていたみたいね。じゃあもう少し寝かせてあげればよかった」
「何か用があったのではないのですか」
「うん、まあね。起きちゃったのは仕方ないわね」






「とりあえず、パジャマ脱いで」
「はい」
「ああ、汗かいちゃって。タオル持ってきたから拭いてあげる」
「自分で…」
「病人は言う事素直に聞く」




「……はい」
「あと、下着も。替えはあるから」







「くすぐったい?」
「面白がってませんか、凛?」



「う…、そんな事ないわよ?」












「下もよ」
「そんな見ている前で脱げません。着替えはかまいませんが、ちょっと後ろを
向いていてください、凛」
「あいにく、着替えだけじゃないの」
「と言うと?」
「もう一度体温を計っておこうと思って」
「それと何が?」




「ああ、さっきと違う方法」
「そうですか。……随分と長い体温計ですね」



「少し古いものだしね。さ、うつむけになって」
「は、はい」
「四つん這い」
「え、あ、はい」
「お尻上げる」
「……凛?」
「は、や、く」




「わかりました」









「ふうん、可愛いお尻」
「凛!」
「誉め言葉じゃない。うん、いいなあ、ウェストの辺りもほっそりしてて」




「さてと」
「ひうッッ」





「ちょっと、セイバー、暴れないでよ」
「な、な、何をする気です」
「医療行為よ」



「そんな処、凛、待ってくだ…」
「はい、動かないでねー。本気で危ないから」
「うう、んんんん」






「うわあ、きつい」
「凛、なんで、こんな真似を」
「だから、医療行為だってば。ここだと正確な温度計れるんだから」
「しかし、こんな…んんんんッッッッ」




「少しほぐしてからの方が良かったみたいね。ほら」
「や、や、やめて」






「だから、動かないでって。危ないんだから。
 そんなに抵抗するなら、士郎呼んじゃうわよ?」
「なッッ」
「セイバーの為と言ったら、しっかり押さえつけてくれるわね、きっと」
「まさか、本気じゃないでしょうね」
「さあ、どうかしら。誰かさんがおとなしくしてくれるなら不要だけどね」
「くうッッ」







「ねえ、セイバー?」
「何です」
「さっき士郎の名前出してから、少し変じゃない?」
「な、な、何が変だと言うんです」





「ふうん?」
「えひゃい…、何をするのです、そんな処を」
「だから、ここがね」



「ッッッふぅ。凛、怒りますよ」






「汗はさっき拭き取ったものねえ。何かしら、これ?」
「……」
「ねばねばとして」







「セイバー、こっち好きなの?」
「なッッ」
「もしかして初めてでないとか。実は自分のゆ…」
「凛、こんな格好をさせて辱めるとは、いかにマスターと言えども」




「冗談よ。はい、もういいかな。
 少し力抜いてね」
「ぬ…。はい」






「ふぅ……」




「くぅッ」




「ひゃああああ」



「凄い反応。入れた時と違うの?」
「ふぅぅぅ」


「ノーコメントね。あんなに硬直しちゃってる。
 さてと……。
 ふうん、こっちだと熱がある事になってる。
 それとも、体温を計る事で変な熱が出ちゃったかしら?」








「じゃあ、おやすみなさい、セイバー」
「……」
「セイバー?」
「……」
「うーん」



「特別に今度は中華仕立てのおかゆ作ってあげるから」
「また、おかゆですか。い、いえ文句ではなく」
「大丈夫、さっきのとは違う豪華版。具が盛りだくさんで美味しいわよ。
 栄養取れるように野菜とお肉を……、そうだ、それより少し張り込んで海鮮
にしましょうか」
「海鮮のおかゆ……」
「海老とかから出汁が取れて、スープが美味しいわよ。油条も用意しましょう。
 それからねえ、食べやすいデザートも作ってあげる。
 だから、機嫌直してよ」
「……おかわりできますか」
「たっぷりと」



「では、少し、休みます」
「うん、しっかり寝て体力回復させて、早く良くなりなさい」














「けほ、けほ」



「大丈夫ですか、凛?」
「ううーーー、最悪」
「そうですか」



「薬も効きませんね」
「そうね、そういう体質になっているから。これも良し悪しあるわ…ごほん」
「凛、お水です」




「ありがとう」




「セイバーの風邪が伝染ったのよ、きっと。かわりに治ったじゃない」
「それは、そうかもしれません」



「別に責めてる訳じゃないわよ。流行っているのは確かだし」












「なんだか、嬉しそうね、セイバー」
「はい?」





「もしかして仕返ししようとか思っているわけ?」
「仕返し?」





「凛」
「セイバー?」




「凛は臥せっていた私の為に、いろいろと心を尽くしてくりました。
 おかゆを作ってくれたり、夜に何度も様子を見に来てくれて、タオルを変え
てくれたり。
 学校からも早く帰ってきてくれて。まあ、行き過ぎな面もありましたが。
 私は嬉しかったです。
 だから、少しでもお返ししようと思っただけです。
 それに深く感謝を抱きこそすれ、仕返しなどと……」




「ごめん、セイバー。取り消す。邪推だったわ」
「いえ。気にしないで下さい」





「はい。だったら養生して早く良くなって下さい。シロウも心配しています」
「そうね。でも、あいつにも心配かけてるのか、不覚」
「実はさきほど作ったおかゆも、シロウに教わったのです。
 残念ながら、不出来でしたが」
「ううん、美味しかったわよ。セイバーが作ってくれただけで嬉しかったし」
「そう言っていただければ有り難いです」






「それと、いろいろ教わってきたのですよ。
 普通の薬が効きにくいと言ったら、アドバイスをしてくれました」
「ふうん」
「シロウもさる事ながら、タイガもさすがだと思いました」
「え、藤村先生?」




「はい。あれで、シロウが小さい頃から面倒を見ていたそうです。
 あの誇らしげな顔。シロウも頷いていましたし」
「へえ、意外ね。でも、そうかもね」



「それでですね……」










「ちょっと、セイバー」
「これです」
「……長葱? 何?」



「シロウも昔はこれで熱を冷ましていたそうです」
「ふうん、どうやって……、まさか」






「良く効くそうです」
「ちょっと、セイバー、いいわよ。普通の薬で」





「効果的なのです」
「やめ、ちょっとセイバー、放してってば」





「聞けません」










「やっぱり根に持ってるでしょう」
「とんでもない。
 マスターの為にサーヴァントは尽力する、それだけです」
「笑ってる、笑ってるじゃない、セイバー。
 こっち見なさいよ、セイバー」





「さあ、力を抜いてください。
 経験上、抗っても無意味どころか、有害です」
「いや、ちょっと、やめぇ………………………、あああッッッ」


  了




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