「士郎……ッ!だ、めなんだから……ね?
こんなこと人に喋ったりしたら、ダメッ……だから……ッツ!」

 くぐもった嬌声が漏れる、
嬌声というよりは哀願であった。
卑屈に、矮小に、男に抱かれた裸体をよじらせて、
この陵辱をおこなう少年に、女は滑稽ともいえる哀願を執拗に繰り返していた。
 藤村大河は、艶(いろ)に交わる由縁ないその躰を、咲き乱れるほどの
朱一色に染め上げる。
乳房も、
太腿も、
陰部も、
そして年長者の貫禄を備えたはずの凛々しき貌(かお)も、
色恋を知らぬまま成熟を迎えたその肢体は、とうとうやってきた遅き春を
待ちわびんとばかりに謳歌を極めている。
 肌は桜色に塗り潰されていた。
恋と、睦みと、情欲の色だ。
 「ッ!!?………士郎、絶対に内緒だからね……!!
私が、士郎にこんなコトされたって、わたしと士郎がこんな関係になったって、
人に言ったらダメ…あっ!…ダメッ!!だめぇぇぇぇぇぇ!!?」
 どれだけ肢体を激しくまさぐっても、
膣内を剛直で掻き回しても。
口から吹き零れるのはそんな言葉しかなかった。
弟に犯される姉のような錯覚が、生徒と教師というもう一つの関係に対しても
別視点の影を落とし、
こうして体躯がの交わりを果たしても、彼女の心中には不安と罪悪感が
満ちるのみだった。
そして胎内には今日まで弟と可愛がっていた少年の性器が満ちている。
 藤ねえ、好きだ藤ねえ、と、
熱に浮かされるように繰り返すばかりの少年だった。
もしくはそれが彼女を所有物に貶めるための呪文であるかのように、
そして肉体の情交は形をもって執り行われる儀式であるかのように、
 激しく、
 激しく、
 激しく
犯し、犯された。
 齢十六になるまで女を知らなかった少年の性技には勿論、相手を
いたわる器用さも優しさもない、
ただ本能の突き動かすままに腰を振る、力加減になどまったく思い至らず
腰を突き動かす。
 「ひゃん!!?…きゃっ!、ダメッ!!士郎ッ!!ダメぇぇッツ!!!」
 ジグジグと胎内を揺さぶる鉄柱の抽送、
膣壁が突き破られ、背骨が軋み、頭蓋の天井にまで激震が届く、
 いつしか大河は、自らの肢体に覆い被さる少年に諸腕を伸ばしていた。
この異常な事態、禁忌を覚えるほどの骨肉相食む情事、
その瀬戸際で、その身をどう処してよいか見当もつかない女が、
手持ち無沙汰なその細腕で、育成途上にある少年の締まった背中を
掻き抱くことが、なにを意味するのか、
それは少年の求愛に答える意思表示なのか、
あるいは二人の躰を密着させることで、女壷から波打つ衝撃をわずかでも
和らげようとしたのか、
 そのどちらでもない、
ただ大河はもうこのピストン運動に耐え切れなくなっていたから、
もういい加減に許してもらいたくて、
どうすれば士郎の激情を柔らげることができるのかと、おぼろげな脳で思い
あぐねた上で媚びへつらっただけだ。
 こうして従順なそぶりを見せれば、少しは満足して優しく陵辱してくれるので
はないかと、力を緩めてくれるのではないかと思いあぐねて、
脳内麻薬で蕩けた頭はそんな思考の短絡さすらも見逃して、
大河は士郎の愛欲に抱擁をもって応えてしまった。
 しかしそんな思案を計り知るには少年はあまりに幼い、
姉からのたしかな受諾に舞い上がった男児は、益々肉茎をいきりたたせて
更なる力を想いとともに撃ちつける、
自然、膣内を暴れまわる衝撃が彼女を内側から苛み、
 「きゃあッ!!」
と痛々しい泣き声が上がった。
甘美なる鳴き声でもあった。
 きっとこの時、大河は越えてはならない最後のラインを越えてしまった。
そこに踏み込む前ならば引き返すこともできたかもしれない、
 突き放すまでとはゆかずとも、
士郎の雄々しいまでの求愛をたえず拒絶していれば、
二人は肉体の繋がりを持ってしまったといえど、一定の距離を保ち
以前の関係に立ち戻れたのかもしれない、
 しかし、彼女は耐え切れなかった。
一時の激情から逃れるため、経験したことのない快楽からの避難のために、
男の獣欲を受け入れてしまった大河、
 最後の城門を自ずから開いてしまったその意味は、
これから先、絶えることなく士郎が望む愛欲を、未来永劫にわたって拒めない
ということと、色恋に遠ざかって生きてきた彼女には悟りようがなかった。

 ああ、もっとやさしくだいて、

 おねがいだから、おちんちんをもっとゆっくりうごかして

 いつの間にか、この秘事を隠し通さんとする嘆願も消えて、
言葉と声までも使って媚びるようになっていた大河、
 そんな思惑がようやく男にも通じたか、急に恋人を慈しむ情が湧き出した
男は、大河の目じりに浮かんだ涙滴をペロリと舐めとる。
 そうしてしばらくの抽送が続いたあと、とうとう感極まった剛直から
精の奔走がはなたれる、
抜き取ると同時に、ヌルリと質量をもって大河の膣から零れ落ちる白濁、
その白に破瓜の赤い血潮が混じあって、はなはだ生々しい色合いが
彼女の股間に広がった。
 姉が、師が、女に変わる瞬間だった。





「虎が猫になった日」

作:40%の60L






 翌日が日曜日で本当によかった。
さすがにこんな心境&体調では、外に出掛ける気になんてなれないから、
弓道部の練習もあるにはあったが次期主将候補の美綴さんに電話して、
風邪で休む、次の艦長は君だ、とだけ言い渡して一方的に切った。
 あの子は私よりしっかりしているから、全面的に部のことを任せても
一切問題はないだろう、
むしろ問題は、この屋敷に山積みだった。

 ―――士郎に犯された。

 ―――つーか初めてを奪われた。

 この現世に生れ落ち数えてはや二十余年、その間培えし剣道五段、
仇なす者悉く切り捨てて然るのちに不敗、
音と聞こえし天下の名望、ついた渾名が『冬木の虎』、
そんな豪勢な伝説が付きまとった学生時代ゆえ当然男子からのお誘いも
剣道の方が楽しいなんて けしからん理由で一蹴し、
唯一意識していた切嗣さんにも最後まで子供扱いで想いが果たされることは
ついぞなかった。
 よーするに、そっちの経験が絶望的なまでに皆無であった私、
それがここにきて唐突にロストバージンとなったわけだから
人生まだまだ飽きるには早過ぎる、……いや、飽きるとか飽きないとか
そーいう問題でもないんですけど、
 「…………しかも、相手があの士郎だからなぁ」
 私は呆然と腕組みしたまま天井を見上げた。
 まあともかく士郎なのだ。
なにが士郎かというと十数年前にひょっこりこの街に現れて、ヤクザやってる
ウチのおじーさんと意気投合して家まで借りてしまった切嗣さんの養子が
衛宮士郎、
 その切嗣さんが亡くなってからは天涯孤独の身となって、
それじゃ苦労も多かろうとウチのお父さんが養子縁組を申し出るも、
それすら頑迷に拒んで屋敷を切り盛りし続ける変わり者高校生、
だからといってこんな子供を一人で生活させるわけにも行かず、
仕方がないから一番歳の近い私に保護者 兼 教育係 兼 監視役として
白羽の矢がたち、この家に頻繁に出入りするようになったんだけど、
 「………これじゃあ監視役の意味が全然ない。」
 ウン、こんなことにならないために毎日顔を出してるのに、
むしろ自ら率先して堕落させてどーするのさ私、
 まあ士郎だって全然そんな素振りがないけど一応思春期真っ只中の
男の子なんだし、私自身男を惑わす魔力なんて持ってるとは思わんけど
どこか無自覚にあの子を誘う素振りがあったのかもしれない、
 藤村大河一生の不覚。
大体なんでああなっちまったかのと昨夜の原因を究明すれどイマイチ発端に
記憶のモヤが掛かっていて、どちらから先に踏み越えてきたのかすら
まるで見当がつかない、
 ただ、昨夜はなぜか私が士郎の寝室まで乗り込んでいって、
――その時点ですべてがアウトのよーな気がするけれども――、
そっから気がついたらウワーときてキャーいってガバッ、ドピュッ、オギャーと
そんな感じ、
 で、やっと思考も整合性を取り戻して記憶もたしかになってきた頃には
東の空に明かりが差してきて、ああそうか、私ゃ変な夢でも見てたんだ
と身を起こしてみたら、
なにも着てないスッポンポンに速攻で現実を認識され、
ついでに隣にはやはり素っ裸の士郎が満ち足りた寝息をたてていたので
現実に事実が上塗りされた。
つーか状況証拠揃いすぎ、弁解弁護する余地なし、
 うちのめされた私は安眠する士郎を置き去りに部屋を退出、
とりあえずコトの後となったらそーするのがセオリーと聞いていたので
朝からシャワーなんか浴びちゃって、
冷蔵庫の中から出来合いのものをチョイスしてお座なりの朝食を済ますと、
自らを見詰め直そう、精神を統一させようと思い至って、
母屋から離れた剣道場にやってきて今になる。
 そんなわけで私の所在は今現在 剣道場、
といっても竹刀で素振りをしたり打ち込み稽古をやるわけでもなく
ただボッとしているだけ、
体を動かそうにも昨夜のセ…いや、アレが思いの他腰にきて、
道着に着替えるだけでやっとだったのだ。
やる気もなしに壁にもたれかかって天井の染みを数えるぐらいが
心身ともに今の私には似合いの体たらく、
そこへ―――、
 「ああ、藤ねえ、ここにいたのか……!」
 昨夜私をお嫁にいけない身にした極悪人が訪問してきた。
今さっき起きたばかりだというように寝癖はつっきぱなしで、かろうじて服は
身に着けていたけどボタンは掛け違えてるわ社会の窓は全開だわ、
おまけに肩で息しちゃって、まるで―――、
 「よかった、起きたらいなくなってるもんだから、
てっきり家に帰っちまったのかと……。」
―――思って家中を探し回ったと言わんばかりじゃないのさ、
 「なによ、帰った方がよかったの私?」
 私は板張りの床に座したまま、士郎の眼を見ようとはしなかった。
ちなみに体勢は体育座り、傍目からは露骨ないじけっ子モードである。
 「む、なんだよ?せっかく人が捜しにきたってのにその無碍は、」
 「なんでもないわよ、
いいじゃない私は大人なんだから、家の何処でなにしてようと、
人から文句言われる筋合いなんてないもん。」
 やだなあ、言葉尻にトゲがギラギラしてるのが自分でもわかるよ。
ここにきて自分がそんなヤな奴になってるのが一目瞭然、
なんだよう、こういうイジワルな人ってフツー自分自身が和を乱してるのに
気付かないもんじゃないのかよう、
 士郎もそんな口撃を一身に浴びながら、なにか言い出したいのをグッと
堪えて、
 「……まあ、いいや、
でも部屋出るんだったらせめて一声かけてから出てけよ、起きていきなり
いなかったら心配するだろうが?」
 なんて紳士的なこと言ってくるし、
 「なによ、いまさら子供じゃあるまいし、枕下にお姉ちゃんがいないと
不安で眠れないっていうの?
私は士郎の子守りじゃないんだから、そこまで生活を縛られる謂われは
ないわ。」
 「なっ、そんなコト言ってるつもりは……」
 「それとも、一回抱いたぐらいでもう自分の女扱いするつもり?」
 ザクッと、士郎の胸を刺す音がここまで聞こえてくるようだった。
 ―――やばい、
こんなのいつものタイガーじゃないわ、
 「……わ、私は、………お、怒ってるんだからね、
いきなりあんな酷い仕打ちして、人を人とも思わないようなああいう…
強引なやりかたは、犯罪なんだから!
相手が私だから穏便に済ませてやるのも やぶさか ではないけれども、
それ以外の女性にこんなことしたら一発で警察沙汰なんだから、
 さささ、さあ!最低よ士郎は!!
ああいう風にしか女の子を扱えないなんてお姉ちゃん幻滅したわ!」
 罵倒は堰き止めてもなお堤を越えて、ザル飲みの後の嘔吐タイムのごとく
ひっきりなしに吐き出てくる。
袴の裾をギュッと握り締めて、声はブザマに裏返る。
 なんで、こんな汚い言葉がポンポンポンポンと、
ウソだよ、私、たしかに昨日のことはショックだったけど、別に士郎のこと
恨んでなんかない、士郎と一緒のお布団で朝を迎えた時も、シャワー浴びた
時や朝食中、道場でボーッとしてた時だって、
士郎に対する憤慨とかはまったく考えてなかった。
これからどうするべきか散々悩んでたけど、その中に士郎に仕返ししてやろう
とか罰してやろうとか、そういうのは項目には一切なかったんだよ。
考える必要もないと思ってたんだ きっと、
 それがなんで実際あの子を前にして出るのがこんな連罵になっちゃうのよ、
心に存在してないはずの言葉が、どこからともなく調達されていかにも腹の
中から湧き出してる。
そんなニセモノ如きが私の士郎を傷つけるなんて、
むしろそっちが腹立つわっ、
 「だからっ、いくら若いっていっても欲望に任せて女の子を襲うなんて
男として大失格よ!!
間違ってた、私の教育が間違ってた!士郎をこんな悪い子にしたなんて
天国の切嗣さんに申し訳がたたない!!」
 士郎は、そんな私のヒステリーを前にただ耐え忍んでいるばかり、
口答えはしない、睨み返すことすらしない、
私の叱責をはなはだ正統なものとして、真摯に受け止めるのみだった。
 「………藤ねえ、」
 そんな士郎が、意を決したかのように歩み寄り、私の肩に手をかける、
ビクリッ
と、戦慄く双肩を無理やりに押し固めて身動きができないようにされてから、
唇を奪われた。
また乱暴に、昨夜と同じように乱暴に、
士郎の歯が私の下唇を噛む。既に似たような経験を前日済ませていたはず
なのに、それでも奇襲なんで混乱してるんで年下ッ子の思うがままに
なっちゃう私、
 「むうぅッ!?む゛ーー!!む゛む゛ーーーッ!!?」
 じたばたと暴れようにも士郎の腕力は意外なほど逞しい、
まるで鎖で拘束されたかのようにガッシリとして、そうして固定されたところへ
士郎の ベロ が強盗みたいに唇の裏へ押入ってくる。
 「んっ……むはっ!やめ、やめなさいってば士郎!!!」
 バシッ!ドタドタドタドタ………!!
思い詰め少年の肉圧をなんとか引っぺがし、脱兎のごとく距離を空ける私、
というか、この距離は絶対防衛ラインだ。
次迫り寄られたら今みたく器用に脱出せしめる自信がない、
昨日よろしく最後まで女の秘芳を許してしまわないためにも、気力を
振り絞って竹刀を握り、詰め寄らんとする士郎の目前に突きつけた。
眉間に狙いを絞る切っ先が、微かに震えている。
 「………藤ねえ。」
 「動かないで、これ以上近付いたら本気で突くわよ。」
 正当防衛なんだから、力づくで女を手篭めにしようなんて悪漢は怪我させ
たってぜんぜん可愛そうじゃないんだから、
 そう自分に言い聞かせ竹刀に込める力を強める、試合のそれと同じぐらい
の緊迫で交わる両者の視線には、
でも試合とは明らかに違う生々しさというべきものが絡み付く。
 「頭を冷やしなさい士郎、
そら、アンタだって年頃の男の子なんだからそういうコトに興味があるのは
わかるし、押さえが効かないのも理解してる…つもりよ、」
 だから、私とアンタに肉体関係ができたのも何かの間違いで済ませよう、
私は、士郎の保護者なんだし、
学校では生徒と先生なんだし、
なにが起きてもそんな、いかがわしい間柄になっちゃいけないのよ、
 ……いけないのに、
いけないのに士郎は一歩、私に向けて足を踏み出す。
竹刀と自分の眉間が、触れるか触れないかぐらいの距離まで、
 「俺、藤ねえのこと好きだ。」
……………………。
 「…………え?」
 「俺、藤ねえのことが好きだ。
……好きだよ、ずっと前から、
オヤジが死んだあの日、これから一生一人で生きていくと思った日から、
それでも俺がこの家で一人じゃなかったのは藤ねえがいたからだ。」
 苦渋をにじませた士郎の相貌を、私はポカンと見詰め返すのみであった。
 …ってか告られた。
士郎に告られちゃった?
あの士郎に、私より10歳近く年下で、しかもまだ学校も卒業していない
お子様で、
それでも一本気で責任感強くて、一度言い出したことはなにが何でも
やり通す今時珍しい根性持ちだから密かに慕う女子生徒も意外と多くて
その気になればキレイどころを選り取り見取りな士郎がよ?
 私みたいな色気もなんにもない、
二十半ばにもなってまともな恋愛経験一つない、
年増のくせに乳臭い女を、
 「…最初は煙たい奴だとか思ったさ、
俺は一人のほうが俺らしいんだ、
なのに いつだってガキみたいに纏わりついて、それで励ましてるつもり
だろうけど、こっちはそんな藤ねえが鬱陶しくて仕方なかった。
 一生一人でいる俺に、それでも嫌な気がしないのはオヤジが隣にいた時
だけだ。そんなオヤジがいなくなって いよいよ一人かって時に、
無理やりオヤジの席に代わりに収まったのは藤ねえ、アンタだろ?」
 士郎の眼には迷いがなかった。
いままで私が試合してきたどんな剣豪の視線よりも、今相対する士郎のほう
が真剣に満ちていた。
むしろ小僧ッ子の気迫に押されまくる自分の引け腰は、剣道で散々培ってき
た勝負への活眼が皮肉にも教えてくれる。
 士郎が前進しては、
私が後退って、
とうとう道場の壁が背中にペタッとくっついて、もう退路はない、
 「藤ねえは、俺の保護者だとかいって散々俺の中に踏み入ってきたんだ。
だったら俺も藤ねえの一部を貰ったって文句ないだろ?
いや、もう一部なんかじゃ物足りない、
藤ねえのすべてが欲しい、
 藤ねえの なにもかも を俺にくれよ、藤ねえ、」
 このとき、生まれて初めて士郎のことが怖いと思った。
真正面から向き合う男の子の視線が、
飾り気もなく全力でぶつけてくる求愛の言葉が、
この不器用なまでの一途さが、今はただ恐ろしい。
まるで本当に、私のすべてが士郎の所有物にされてしまいそうな気がして、
 手先の感覚が希薄になってくる、
士郎と向き合ってるだけで熱が頬に集まってくる。
 でもなんなのよぅ、
さんざ私の躰を貪ったうえで、これ以上何が欲しいっていうのよぅ士郎は、
 「藤ねえはイヤか?
夕べ無理やり関係を結ばれて、もう俺とするのはイヤになったのか?
なら昨日のコトは謝る、藤ねえの傷つくことは金輪際としない、
 だから答えてくれ、
藤ねえはオヤジがいなくなってからずっと俺の隣にいてくれた。
俺が望めば、藤ねえはもっと深いところまで俺に寄り添ってくれるのか?」
 士郎の声色が、縋るような感情を孕んだ。
 「…俺のことを愛してくれるのか?」
 そんな、そんなこと急にいわれても困る。
私にとって士郎は可愛い弟みたいなもので、最初に出会ったときは
切嗣さんの周りをウロチョロする邪魔者だと思うだけで、
でもいつの間にか意気投合して、
でもやっぱり士郎は、私が切嗣さんの代わりに立派な大人に育て上げるって
誓った弟で、
外では学校の先生と受け持ちのクラスの生徒で、
絶対そんな風に見えない、見ちゃいけない相手で、
 だから、そんなに迫られたら困るんだってば、
士郎がそんなに怖い顔して迫ってくると、体がいうコトを聞かなくなって、
力が抜け……、
 「………あ。」
 る、と思った瞬間、
私の腰の辺りにある堤が開いた。
あんまりにもオトコ顔な士郎が一途に向かってくるものだから、
昨夜の昂ぶりが呼び起こされて、局部に、熱いものが蘇えってくる、
太腿の内側に伸びる、一筋のヌラリとした感触、
 「やっ、やだっ!!?」
 さっきお風呂で全部洗い流したと思ったのに!?
袴の中で滑り落ちていく昨夜の残滓に、脚線を撫でるように進むトロリとした
液体に、やにわに膝を折ってその場にしゃがみ伏せる私、
 ガタンガタンと放られた竹刀が床を叩き、
士郎は、私のだしぬけな奇行に面食らって眼をしばたたせる。
 「藤ねえ……?」
 心配そうに歩み寄る士郎、
 「来ないで!!大丈夫、心配ないからそれ以上来ないで!!」
 それを、片手を上げて制した。
もう片方の腕は股座に添えられて、士郎の置き土産をこれ以上氾濫させ
ないように精一杯の防備を調えてくれるんだけど大して意味はないっぽい、
 袴の内側に汚れが移っちゃうのが一番イヤなのに、
上から押さえたりしたらモロ袴にくっついちゃうんだから、
細腕はどうしていいか判らず股の間をモジモジ泳ぐ、世間知らずな私には
それがオスの劣情をことさら刺激させる動作だなどと露知らず、
士郎の眼前でそのはしたない動きを持続させる。
 案の定、私がなにに煩わされているか無言のうちに察したらしい士郎は、
嗜虐の炎を際高く燃え上がらせ、今度こそ容赦なしに私の上に覆い被さって
きた。思うざまに陵辱をおこなったあの夜と同じように、
 「やあっ!?ダメッ、士郎またダメだって……!!?」
 バタバタと抗うも、かつてないほど男を剥き出しにした士郎に、本調子で
ない私なんかが敵うわけがない、
 なにが『冬木の虎』よ、
日頃はみんなして猛獣扱いしておいて、いざ襲うとなったら途端に無抵抗な
女扱いじゃない、
むしろ虎は士郎のほうで、私はその餌になる野ウサギ、
武器を放した腕は荒々しく押さえつけられて、股間に潜っていた片方も
無理やり引き抜かれ、代わりに侵入してくる士郎の節くれだった掌、
余布の多い袴の中へ埋没するように、私の急所を直撃していく。
 「だめぇ!!汚れるから、袴に付いちゃうから触ったらダメぇっ!?」
 剣道家にとって道着は神聖なもの、それをこのような猥らなもので汚すのに
本能的な拒絶感が走った。
でもその手は私の局部を、神聖な袴の上から容赦なく撫で擦る。
士郎に睨まれただけで勃起した陰核にザラザラ擦る荒布の感覚、
一撫で、一擦りするたびにそのもっとも敏感な器官から電流が走り、
士郎の前で情けない声を喉の奥から張り上げてしまう。
 「…あっ!!あんっ!あっあっ、はふっ、ああっ!!?」
 厚布ごしに責め立てる愛撫は昨夜の士郎そのままに荒々しく、
クリトリスに灯りつつある熱気は私自身の温感が上気しているのか
摩擦熱が発しているのか判断がつかない、
 まるで洗濯板に布地を洗うのに似た強力さだった。
でもこの場合、洗剤の代わりは陰口から零れた士郎のアレで、袴の繊維
一本一本に馴染んでいくのがよくわかった。
 「イヤだよ士郎ぅ〜、付いちゃうから…匂いが取れなくなっちゃうからぁ〜、」
 「さっきから付く付くって、一体なんのコトいってるのさ?
ちゃんとはっきり言葉にしてくれないと判らないぞ。」
 ゴシゴシと女陰をもてあそぶ手は止めないまま、同時進行で囁きかける
士郎の問い、豪腕にかかる乱雑さとは裏腹に、耳元にかかる甘い息は
アメとムチよろしく優しかった。
 士郎が私になにを言わせたいのかわかる。
その瞳にサディスティックな輝きを浮かべ、虐げられる私になにを期待して
いるのかは言葉を交わさず以心伝心に知ることができた。
 粗野と幼稚が織り交ざった期待の眼差し、
でもいえない、そんな恥ずかしいこと言えるわけがない、
 「ホラ言えよ!!
早くしないとホントに繊維の奥に精子が絡みついて洗濯しても
臭いが取れなくなるぜ!
イカくさい臭いプンプン発しながら試合に出て、対戦相手や審判に変な目で
見られてもいいのか藤ねえ!?」
 士郎の指が袴もろとも秘口を貫く、水の滴る蛇口にティッシュを詰め込む
ような感覚、
 ひゃうっ!?と子猫のように高い声、
 「さあ、なにがそんなに大変なんだよ!?」
 「やぁ…!」
 「藤ねえの大切なアソコから、なにが出てるんだ!?」
もう士郎のだけじゃなく、私自身が溢れさせた液まで混じってグチョグチョに
なった陰部に士郎の目が注がれる
大切な袴も、こんなに汚れてしまってはもう着れない、
 「…………せーえき……。」
 火が出そうなほど紅潮した顔を両手で覆って、
私は極力士郎から目を逸らしして、掠れるような弱々しい声で、言った。
 「……士郎の精液が、袴にくっついてるの……、
アンタが膣で出したりするから!
今頃マンコから垂れ出てきて股間やら太腿やらに纏わりついてるのぉ!!」
 涙声で叫び散らした瞬間、お互いの体に電流が走る。
士郎にも、そして私自身にも、
脊髄をビリビリと走る“痺れ”は脳髄まで達し、大脳が支配するある種の
感覚や理性をこの間だけ停止させる。
 「……士郎のバカ、………………士郎のバカぁ!!
 本当なら服に付く前に脱いで洗い流したかったのに、
士郎がイジワルするから道着がグチャグチャになったじゃない!!
どうしてくれるのよ馬鹿ァ、洗濯しても臭いが取れなかったどう責任とる
つもりなのよぉ〜!!!?」
 もう、止まらなかった。
箍が外れたように私の理性も自尊もガラガラと崩れ落ち、あとには子供の
ように泣きじゃくる女の子だけが残っていた。
 覆う掌の隙間から、たまの涙かポロポロ零れてくる。
さんざん苛められて、苛められに苛められ抜いて泣かされてしまった末の
おんなのこのなみだ。
 そして箍が外れたのは士郎も同じ、
鞭で追い立てられるような性急さで道着の帯を千切り、件の袴を脱がせた
あとに現れた、まっさらな臀部を陶然と見詰める。
 「そうか、藤ねえは袴の下にパンツ穿かない人だったか、
それじゃ慌てて当然だな。」
 殻を剥かれた局部から広がるメスの匂いが、厳粛に張り詰めるはずの道場
の空気を またたくまに塗り替えていった。
それが自分の淫らな匂いなのだと気付いた時、それはそれで驚きもしたもの
だが、別段それ以上の反応はこれといって示すこともなく、
今は士郎の陵辱、…いや愛撫を受けることに意識を集中した。
この瞬間は、この躰を士郎の好きにしてもらうのが最善の行動だと疑いなく
信じて、
 士郎は抜き身となった私のお尻をまずじっくり鑑賞してから、それから改め
て箸を付けるように貪るような接吻を贈った。
それも肛門とか、蟻の門渡りとか、そういう汚い部分も全部含めて、
脂肪の厚いヒップへの執拗なまでのキスの嵐を、
 「藤ねえの尻、滑らかなんだな
今まで袴やらスカートやらでぜんぜんシルエットが掴めなかったけど、
こんなに引き締まってて可愛い尻ならジーンズも充分イケるじゃないか、」
 そのお尻も、すぐに士郎の唾液によって一部の隙間もなくベタベタだった。
なんだか奇妙な感じがした。
お尻が火照って、ムズムズして、もうすぐ卵でも産んじゃうんじゃないかって
そんな予感、
 私自身、学生時代は部活で他の女子と着替える機会も多かったし、
だから自分のプロポーションが世間的にどれくらいの順位にあるかは把握し
てるつもりだった。
ヒップに関しては、部の中での私のランクは小尻の方に近かったはず、
日頃の運動量が実を結んでか体内の脂肪は比較的少ない奴だったし、
言ってみれば引き締まった躰をしてたのよね、私、
 でも、お尻が小さいからとかいって褒めてくれる人はあの当時誰もいない、
それ以前に男にお尻を見せたなんて経験が一度もないんだから
それも当然だけど、それが改めて士郎っていう深く見知った男の子に賞賛
されると、また妙に落ち着かない。
 …ああダメ、私 自惚れてる。
私案外女の子としてイケてるんだって、子供におだてられたぐらいでその気に
なってる。
照れて、火照って、嬉しくて、体が浮いてるように舞い上がって、
ああ、なんか、本当に卵でも出てきちゃいそう、
 「…………藤ねえ、前、肌蹴て、」
 いったん私のヒップに満足したらしい士郎が、今度はゴロンとこの身を
仰向けに転がすと、
私は士郎のお願いにコクンと頷き、上着とブラを開いて、
生まれたままの姿、赤ん坊の時の姿を、年下の少年に曝け出した。
 既に下半身を剥かれた躰は、これでまた完全にスッポンポンだ。
二階のお布団から這い出てからまだ数刻、キッチリ整え直した身なりは完全
に元の状態に逆戻り、
だから、これからすることは、あのお布団の中でしたことと同じコトだろう。
 「……セックスするの?私と、」
 熱に浮かされるように訪ねた。
士郎はそれに深々と、誤解も曲解もする余地なくしっかりと頷く、
 「するさ、俺はもう藤ねえを恋人にするって決めたんだ。
だからキスだってセックスだってしたいときにやる、藤ねえとだけやる。
 藤ねえの胸も、
 藤ねえのケツも
 藤ねえの唇も、
 藤ねえのアソコも、
もう全部俺だけのものだ、誰にも触らせない、
これからするのはそれを守る誓いだ。だからもう一回聞く、
 ――――俺を愛してくれるか藤ねえ?
これから藤ねえを抱く、抱いていいか?」
 士郎は、士郎の一番の魅力であるまっすぐな眼線で、
私の体を見据えている。
運動バカで筋肉ばっかり厚い、その分脂肪が少なくて胸も小さい、
歳も食って瑞々しいわけでもない、これといって魅惑的な部分のない
女の躰を。
 たぶん、この問いかけが最後の砦になるだろう、
この答えを否定で返せば士郎は金輪際私を求めてくることはない、
士郎は一途で純真な子だからそれは確信をもっていえる。
 でも、私がここで頷いたなら、私は士郎の想いを拒絶することは絶対に
できないだろう、
 教え子と関係をもったことがばれて免職と退学になったとしても、
極道のお父さんおじーさんに知れて小指一本差し出すハメに陥ったとしても、
切嗣さんへの想いを断ち切れないまま、
私は士郎に求められるたびに、抱かれる。
 私の腹が決まるのを待つ間に、士郎は自分の準備も整えるべく
カチャカチャとベルトを緩めだした。
大急ぎで着付けた分身体に定着していなかったのだろう、
芋虫の蓑のように衣服は簡単に解け落ちて、その下から表れたのは、
年下の少年とは思えない均整の取れた体躯、
 いつのまにか私を追い越していた背丈、さりげなく骨角張ってきた骨と筋、
昨日まではさして気にすることのなかった士郎のオトコを
今目の前に置かれてなぜかことさら意識した。
 なぜ?一度重ねた体だから?
それともこれからまた重なろうとする躰だから?
自らの答え如何によっては今すぐにでもこの身を犯すであろう士郎なだけ
に、私の視線は嫌が応にもそのもっとも男性らしい部位に惹きつけられた。
 もうそこは、ギリギリと軋まんばかりに隆起していて、
はやく入れさせろ、一刻も早く押し込ませろと、
凶暴な戦慄きを持続させている。
 これが昨日、私の処女を奪った。
そして今日、再び私を貫き通す。
そう思うとあのビクビク脈打つ赤黒い亀頭から目を逸らすことができない、
 「……藤ねえ、いいか、」
 準備万端整いましたという風の士郎が、また私の乳房に、自分の胸板を
重ねてきた。直で触れ合う、
 ――――ああ!
わずかな布地を取り去って、直接肌を合わせるだけで、どうしてこんなに熱い
体温が伝わってくるんだろう!
 溶けてしまいそう、
 蒸発してしまいそう、
士郎に抱かれたまま熱いスチームになってしまいそう!
 まだ、ただの抱擁でしかないのに、
深いところはまだ繋がってもいないのに、
これで士郎の剛直が私の秘裂を貫いたら、一体どうなっちゃうの?
 外の陽射しが明り取りから差し込んできて、
大した起伏もないオンナの躰を光の中に浮き彫りにする。
抑揚のない、魅力のない躰だけれど、たった一人士郎が触れ続けるといった
からだ。
これから士郎一人だけに捧げられる藤村大河の乳房と性器と唇、
それがなにかとても重要なことを意味するような気がしたのだけれど、
どういうことか、もう忘れた。
 ―――にちゅ、
もう充分潤った陰部の入り口に、鉄のように硬くなった怒涛の先鋒が
あてがわれる。
 するり、諸腕が士郎の頭に絡みついた。
無言で見詰め合い、直後、洗面器に顔を沈めるように一呼吸おいてから
唇を重ねる。
 それが合図だった。
口での貪りあいすら、これから始まる性器の結び合いの皮切りに
過ぎなかった。
メリメリと肉圧を掻き分け、障子紙に指で穴を開けるような感触が
局部から迸る。
 「……んっ!、んんんんんんんぅ………!!!」
 士郎の舌先をついばんだまま、渦巻く流動に喉から唸り声を上げた。
二本の腕に限界を越えた力が宿って、さらに強く首筋を抱き寄せる。
 それで終わった。
あっけなく最後の一線が崩れ去った。
藤村大河が藤ねえであって藤村先生であるためのものが一斉に崩壊し、
跡にはメスというかオンナというものだけが士郎の腕の中で花咲いている。
 「…………………………藤ねえ、なんかいってくれ、」
 唇を離した士郎が不安げに語りかけてくる。
やっと本当の意味で思いを遂げて、でもそれに対して人形のように放念として
しまった私を心配してくれているんだろう。
 私は、
 「しろうが…………………………、」
 ただれた声で言った。
 「……………………………すきぃ、」
 吐き出すと、言葉を奏でた唇の周りに、結合している陰部の数百倍の
悦楽が湧き起こった。
 「……士郎っ!好きだよ士郎!!好きっ……すきぃ!!!」
 ひとたび巻き起こったピストン運動は、一刻みごとに私の理性を削剥して
いく、
仰向けになった私の上では、素っ裸になって見得もなにもあったもんじない
士郎が、今にも息絶え絶えになりそうな顔で、くねくね腰を振り続けてる。
 体中に玉の汗が浮かんで、
ぽたぽた私の肢体に降り注いでいる。
ふふ、
士郎の体液のシャワーが私の全身を汚し尽くしていく、
 「ああっ!?……いいよ士郎、……愛してる、愛してる士郎っ!!」
 私は士郎と本番を開始してから、
ずっと鸚鵡のようにこの言葉を繰り返し連呼していた。
士郎が欲しがっていた言葉、結局答えを聞かないまま踏み越えてしまった
けれど。だからこそ易々と言い放つことができる。
 それが私の真実の気持ちかは知らない、
ここまできて自分がこの男の子にどんな思いを寄せてるのか霞んで明確な
形が見えない、
 それでも、いいじゃない、
私が愛してるって言えば、好きだって言えば、
士郎が喜ぶんだもん、気持ちいいんだもん、
彼を悦ばせなきゃと いきり立つ使命感が、虚ろな言葉に猥らな装飾を加えて
擦れあう陰毛と陰毛の狭間で 踊り狂う、
 「ああっ……!愛してる士郎、…好きっ!!
 愛してるっ!!
 愛してるっ!!!
 愛してるのっ!!!
 士郎が好きなのっ!!
 士郎さえいれば他には何もいらないっ!!!
 私は士郎だけ見ていればいいッ!
 だから士郎も私を愛して!
 好きだって言って!!
 ああっ!愛してる!!
 士郎を愛してるぅッ!!!」
 壊れたように氾濫する愛の言葉、
それでも効果はあるみたい、ひとつ呟くごとに士郎が私の奥に打ちつける
振動の強さが増してるから、これならあと20回も連呼すれば私の膣の壁
破れちゃうんじゃないだろうか?
 それも、どうでもいいことのようの思えた。
今は士郎が私の躰を愛でてくれるなら、それ以上のことなど世界には存在
しないから、だから私にできる精一杯のことは、士郎をこの上なく気持ちよく
させることだけ、
 ありったけの力を込めて、膣壁を引き締める、
士郎が、おうっ!?と悲鳴を上げる、
それがたまらなく嬉しい、
 母親の乳を飲む子牛のように、士郎の唇に唇を重ねる、
いつの間にか、脚まで腰に絡みついていた。
 ああ見て、
私裸なんだよ、
いつもワンピーススカートや剣道着で肌をさらさない私が、士郎の目の前で
素っ裸になってるの、
士郎に犯してもらうためだよ、
士郎と愛し合うためなんだ。
 そういう格好にしたのは士郎自身だというコトをすっかり忘れて、
私は快楽の中にすっぽりと埋まっていった。
 「……藤ねえ、ダメだっ、もう出る………………もう、我慢できそうにない、」
 「うん、いいよ……、だして士郎のせーえき たくさんだしてぇ…!!」
 士郎の精液、
そんな恥ずかしい言葉いつから臆面もなく口走れるようになったのか、
あ、ついさっきだ。
士郎に無理やり言わされて、それで吹っ切れたんだっけ、
 「藤ねえ中に出しッ…!」
 「中に出してぇぇッッツ!!!!!」
 一層強く、腰に巻きつく脚が拘束力を増す、
アナタが嫌がっても絶対離さないという意思表示だ。
実のところ士郎の奴はなんども私の膣内で果てている、それでも抜かずの
まま私たちは何度も何度も愛し合い、
もういい加減しろと言いたくてもこの身躰はしつこく士郎の精をおねだりして
いまだ満腹することを知らなかった。
 また一際蠢動する、肉茎の裏筋を走る精管、
お尻の丸みにペチペチ打ち付ける陰嚢の収縮が、ご馳走の招来がそう遠く
ないことを教えてくれた。
 そして最初と最後を彩る儀式、
二人の唇が、もう何度目かも数え切れない回数を経てまた重なった。
口内も熱い、膣内はそれとは比べ物にならないぐらい灼熱、
ズブズブと、胎内を迸る白い濁流が、また一時私の飢えを満たしてくれる。
 ああ、士郎、大好き、
こんな快楽と悦楽に溺れさせてくれるなんて、士郎好き、
これほどまでの幸せがこの世に存在するのなら、
もっとはやく、士郎に抱かれていればよかった。



         ――――――――――――――――




 ……そして、そのまま夜は暮れて行った。
そのまま、というのは成立した状態を継続させたまま時は過ぎ去った、
ということ、
 ようするにお日様は私たちがSEXに没頭していたまま南中から傾き、
西へ沈んでいった。
言い換えればアレから今までずっとSEXばっかりしてたってそういうことだ。
 道場から始まって―――、
 庭、
 縁側、
 和室、
 台所、
 風呂場、
 でまた二階の寝室に戻ってetc、etc、etc、etc………
よくまあここまで励めたもんだ。
私たちの他に出入りする者のいないこの立地の特徴がここまで際立って
発揮されたことは過去類を見ないだろうが、
それとは別に、若さ真っ盛りの士郎君とこうまで張り合える基礎体力が
残ってた自分に新鮮なオドロキ、
 うん、やっぱ私若いじゃん?
まだ年増じゃない年増じゃない、
 しかし日付が変わればさすがに息切れも生命維持の根幹に関わり、
男女二人の汗をぐっしょり吸ったお布団に仰向けになって、息を整えるのに
勤めるのであった。
 「……………………。」
 ぜーぜー、
セリフを喋る余裕すらありません、
一糸纏わぬ小振りな胸が荒々しく上下し、そのたびに頂頭の小さな乳首が
プリンアラモードの上のチェリーみたくフルフル揺れる、
 あー、これを士郎が見たらまた乱戦に突入するわねー、なんて考えながら、
今はそのワンパク小僧が不在であることに一時の安堵を覚える。
 …場所はすべての始まりである少年の寝室、
草木も眠る丑三つ時に、女は艶やかな裸身をさらしたまま、夢うつつの如き
逢瀬の名残に酔っている。
夜もふけた紫暗の夜空の下、その嬌姿を浮き彫りにするは、すすけた教卓の
上に乗るスタンドライトの明かり一つ、
このような深夜に、いつまでも灯る大きな明かりは不審を誘う元となろう、
この人目を憚る間柄、秘する禁忌はできるかぎり漏らしたくないと望む哀しき
までの配慮であった。
 …なんて、
実際のところは蛍光灯なんかつけたらムードもへったくれもないってだけ、
 そうして私の息も少しづつ整ってきた矢先、
衾をピシャーっと脚で蹴り開ける器用&横着なマネを披露して、士郎が一階
から戻ってきた。
コイツも同じくズボラな素っ裸、
手に持つお盆には仲良く並んだドンブリ二つ、
ぷぃ〜んと、胃袋を刺激する濃厚な香りが鼻腔をくすぐり、それに誘われ
むっくりと起き上がった大魔神こと私、
重力と慣性でぷるんと乳房が揺れる、だってブラ着けてないし、
 「…………ラーメン〜。」
 ギギギ、と油の切れたロボットの旋回で士郎を視界に収める、
 「はいはい、今渡すから、熱いから気ィつけろよ?」
 と士郎は変わらずの世話女房振りを発揮して、畳においた盆から
湯気ホヤホヤのラーメンと、割り箸を裂いてよこした。
 それを無言のまま受け取ってズズズ、
ウン、さすが士郎、
この時間じゃあインスタント麺は譲歩するしかないものの、その分乗せてある
具に拘りが集約されている。
 とき卵に、トウモロコシに、刻みネギに、もやしに、豚角煮まで、
さらにニンニクが入ってんのはこれからの延長戦に備えて精力増進かしら?
 「つべこべ言わずにさっさ喰え、
…まったく、せっかく途中までいいムードで抱き合ってたのに、
いきなり突っ伏して『お腹すいた』はないだろ?少しはムードってのを考えろ
よ、フツーそういうのは女の方が拘るもんだろが、」
 とか恨めしくぼやきながらも士郎だってキッチリ自分のラーメンも用意して
きてる、
服着る手間が面倒なのか、マッパで布団の上に胡座かいて
ズズズゥ〜とか汁音たてて行儀が悪い、
 ちんちん見えてるわよ、
と指摘してやったら「藤ねえもな。」と言い返された。
顧みれば私もマッパで胡座でラーメンだった。
逢瀬を睦みあったその場所で夜食のラーメン片手に向かい合う男女、
ああ色気ない色気ない、
 「だからそうだって言ってるだろ?
藤ねえもな、せめてセックスの最中は女らしく色っぽくしてろよ、
腰振ってるそばからアンアン獣みたく吠えまくって、コトが済んだら即
食欲じゃ獣そのものじゃねえか、」
 「なによぅ、動物みたいに腰振りまくってたのはそっちだって同じのくせに、
大体ね、いくらシタイからって昼・夕・おやつとゴハン抜きでブッ通すんだから
お腹減るのは当たり前じゃない!
 精液とゴハンは別腹なの!
それを気にせずただ交尾だけやりまくってる士郎のほうが女の子の扱いを
知らないんだからっ」
 「あぁ知ってるさ知ってる、野生動物の飼育の難しさは昔ッからよく
弁えてるとも。」
 「なにぃ!?私を虎と呼ぶなぁー!!」
 禁句を持ち出す士郎にキレた私は
ラーメンに浮かぶトウモロコシ爆弾を連射 連射 連射、
芯から抜き取ってできた窪みにスープの溜まったモロコシの種子は
思いのほかクソ熱く、
さらに全裸で、身を守る外壁を一切持たない士郎には、予想以上の効果が
あったらしい、
 「うわ熱っ!?熱ツツツツッ……!?やめ、やめんかバカ虎っ!?」
 士郎は残りわずかなスープをグビリ飲み干すと、ドンブリを脇に放って
にっくきモロコシ砲兵を強襲、
 「きゃあ!?や、ばか士郎ふざけないでコラぁっ!?」
 その時には私も既にドンブリを空にしていたので、たいした惨事にもならず
士郎のタックルをまともに食らってお布団に轟沈、
しかしそんなの傍目から見ても じゃれあい だってのは一目瞭然なので、
しばらく取っ組み合いが続いたものの、シーツの乱れる衣擦れの音は
いつしか粘着質の液体がはねる水音に変わり、
 「……んっ、んー、ん〜〜〜〜♥」
 腹に収めたラーメンのコクを、互いの舌で味わい直す二人だった。
 「…ぷはっ、」
 唇を離す、
ゴロンと再びお布団に仰向け、でもいまは隣に士郎がいて、
それがなんか幸せ、
 「………部のみんなは知らないだろうなぁ、」
 「……なにが?」
 「いつも健康病気知らずのタイガー様が、部の監督をズル休みして
丸一日エッチしてたなんて、」
 そりゃあ知られたら相当まずかろうって、士郎が渋い顔をする。
コイツもコイツなりに自分のしでかしたコトの重大さを理解してるんだろう、
しばらくはこのネタでからかう機会は尽きなさそうだが、
今は少しだけお姉ちゃんらしく、士郎の額に、自分のオデコを重ねてみた。
 「……ねえ士郎、」
 「うん?」
 「私のことが好き?」
 「ああ、好きだ。」
 間髪入れずにいってくれる。挑むように宣言する。
こういうところは一本気で妥協知らずな士郎そのもの、
ま、それに肩肘張った意地みたいなのが混じってるのは、士郎の若さが
させてるんだろうなと思う、
 「でもね、それはただ私への性欲を、恋愛感情だって思い込んでるだけかも
しれないよ?」
 「……え?」
 「男の子はね、女相手なら誰にだって欲情するもん、
このコとエッチしたいなァ〜!って気持ちが爆発して、それなのに人生経験
少ないから感情の分別がつかなくて、“スキ”と“シタイ”を取り違えるのは
よくあることなんだ。
 性欲と恋愛って形的にはよく似てるもん、
まして既成事実作っちゃった上に責任までとらなきゃならないとなったら、
マジメッ子の士郎だと余計そういう考えにはまり込むのかも、」
 そうでなきゃ私みたいなジャジャ虎に惚れるわけないじゃん、
なにか反論したさそうな士郎の口元に人差し指を一本添えて、
 最後まで話させなさい、と
沈黙のままに念を押す。
こういう気迫の勝負では剣道五段、まだまだ15の子供に遅れはとらない、
女としては完全に負けたけど、いきつくところは私 士郎の教育者だもん。
 「だからさ、あんまり私に縛られなくていいよ士郎は、
士郎は今でも充分カッコイイ男の子だし、未来は絶対イイ男になるし、
きっとこれから士郎に御似合いの女の子がたくさん現れるから、
その時のために女の子の扱い方をレクチャーするのも先生の仕事だもんね、
私は士郎の教育者だから、
 でもま、哀しきかなお姉ちゃんにはその手の知識がまったくないのだ。
てなわけで士郎に本当に好きな人ができるまで、
せめて私の体で練習するといいよ。
それぐらいならお姉ちゃんも付き合ってあげるから、」
 それが最善の選択なんだろうなって結論をこめて、
でも案の定というか予想通りというか、士郎は私の作った堰を突き破って
怒涛の反論を叩きつける。
 「ふっ…ざけんなバカ!!
俺は藤ねえが好きなんだ!
藤ねえ以外の女に惚れたりなんかするもんか!!
 …そりゃ、さっきまでは性欲のほうが先に来て、藤ねえに誤解されるような
ことしまくってたかもしれないけど、
 ―――――とにかくっ!俺は藤ねえ一筋なのッ!!
今は歳がアレだけど18になったら結婚もするし、
藤ねえの家がアレだったら俺が家業継いでヤクザにでもなんでも
なってやる!!
 だから藤ねえもあんまりアホなこというな!
俺はずっと藤ねえだけだかんなっ!
絶対俺が、藤ねえを幸せにしてやるんだからな!!」
 …あーあ、言っちゃった。
士郎は顔を真っ赤にして、ビシリと指を突き立てて、
宣戦布告とも取れるプロポーズを一気に読み上げてしまった。
 これで士郎は後戻りできない、
一度言ったことを撤回するなんて器用さなど持ち合わせてない子だから、
きっと私がさらに焚き付けたら即座にも実家に殴りこんで、
ウチのお父さんに縁談の申し込みでもやってのけてしまうだろう。
 でも、後戻りできないのはむしろこっちの方か、
ちょうど丸一日前の夜、迫るこの子に抱きつき返したあの時から、
私は二度と這い上がれない坂道を転がり落ちてしまったんだろう、
一途で、純朴なこの子の情熱を
私はこれから一生拒絶する機会を失ったのだ。
 「……しーろう、」
 士郎の宣言をあえて黙殺し、
この小憎らしい赤毛の頭を胸元に抱き寄せる、
甘えさせてあげてるようで自分が甘えてるような、そんな幻想的な体感、
 「―――――――愛してるよ♥」
 そういって私は、つい先日まで可愛い弟だった男の子と
今宵も同衾することにした。
この時の「愛してる」は行為の最中に吐き散らした「愛してる」とは少し
意味合いが違うように思えた。


 ――でも、私だって夢見る少女じゃないんだから、
それで永遠に浮かれていることなんてできやしない、
 人の心は普遍じゃないから、
それは私自身の奥底で、死者への想いが時とともに色褪せていったことから
充分に学んだことだから、
この夢もいずれは醒めるのだろうと、瞼を閉じた瞬間 ひややかに納得して
いる自分もいた。
 ならせめて、
この子が大人になって約束を破る器用さを修得するまでは、
私もこの夢の城に居座り続けるとしよう、
 この日を境に私が衛宮家に泊まる回数は目に見えて多くなり、
お父さんたちに気取られる節も目立ってきたが向こうから探りが入ることは
意外と一切なかった。
今にして思えば、あいつら最初から私と士郎をくっつける目算で
私をあの家に送り込んだのではなかろうか、と勘繰らずにはいられない、
お父さん、士郎に養子縁組を断られて相当残念がってたから、
養子がダメなら婿養子、っていう作戦だったのかも、
 もっとも当の私たちは周囲になど意を介さず、
当初定めた奇数日に一回などという計画も数日と待たずに破棄させて
毎日のように交わった。
 女を知ってからの士郎は目に見えて逞しく頼り甲斐がある男に豹変し、
そしてなぜか私のほうまで『最近の藤村先生はキレイになった』などと生徒に
からかわれる機会が増えた。
 そうして運命の日がやってきたと危ぶまれた。
桜ちゃんが怪我の責任を取ってこの家に通うという約束が決まった日にも、
相変わらず士郎は夜のお布団で私を抱いた。
桜ちゃんみたいな可憐な子が出入りすれば、きっと士郎の興味もそっちに
移り気するだろうと踏んでたのに、
彼女が家に帰るのを見届けると待ちわびたというように、私の服に手を
掛けるのだった。
まあ、私のほうから求めてきたことも一度二度ではなかったが、
 そうして決定的事変、
士郎が唐突に学園アイドルの遠坂さんと、セイバーなんていう得体の
知れないを下宿させると言い出したときはとうとう士郎も
子離れしたんだなって寂しく思ったけれど、
それでもアイツが私を手放すことなんて、なかった。
 「遠坂さんの事情なんて知らないからちゃっちゃと帰ってもらいなさい!」
などと猛烈抗議はしたものの、実のところは私たちの関係を知られるのが
ひとえに怖かっただけだ。
 士郎は本当に、ただ盲目的に私だけを求めた。
その頃になってやっと士郎は本気なんだって実感して、ますます私は
逃れきれない鎖に縛られてしまったんだってことを納得するのだった。



 ――――で、



 「……あの、シロウ………、
シロウが私と同室で休むことを拒む理由は、昨晩よっっっく理解できました。
 たしかに想い人と愛を語らう時間はとても大切です。
サーヴァントといえどそこまでマスターの生活を制限する権限はない、
 ただ、大河があのような声で啼くのがどうしても意外だったというか、イヤ、
そうではなく太古はこの国でも出陣にあたっては、三日前から女人との接触
を禁じ、妊婦に至っては衣服にすら障ることを許さなかったといいます。
 故にこそ戦意集束のためにもあえてここは色欲を禁じ、
聖杯戦争がおこなわれてる間だけでいいから、あ、あのような行為は控えて
いただくと、ともに戦う身としては大変有り難いのですが…、」
 そのようにおずおずとしたサーヴァントの提言を、
しかし衛宮士郎はスッパリと却下した。


 「だって俺は、藤ねえのことが好きだからさ」

                  END
                    or BEGINNIG?

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