宴の後のその後で


  作:しにを

 

―――――――――――――― ※ 注意 ※ ――――――――――――――

               
 本作品は、タイトルでわかるように『宴の後で』のさらに後のお話です。
 続きというより、こういうのもあるかなという1パターンの蛇足。

 幸いにも『宴の後で』を、まあまあ綺麗にまとまったと気に入って頂いた方
にはお勧めしません。

 掲示板での書き込みを見て「じゃあ書くか」とでっち上げた代物ですので。

 本当に短くて、たいしたものではありません。







 注意しましたからね?

 それでも見るのなら止めませんが、しょんぼりですよ?




 では、構想10分のお話……、お読みください。



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 日付が一つ新たに刻まれた。
 イヴは終わり、クリスマス当日を迎えた。

 ここ、志貴の部屋は当然ながら、暗く物音は無い筈だった。
 当然ながら、遠野家の規則での消灯時間は遥かに過ぎているのだから。

 しかし、まだ部屋に明かりは点っている。
 しかし、志貴の寝息とは思えぬ声が聞こえている。
 
 時に、部屋の外まで聞こえそうな物音や声があがる。
 これは、志貴だけのものではない。
 志貴一人ではなく、二人、いや三人……。

 そう、深夜の志貴の部屋には、ありえざる事に、志貴と琥珀・翡翠の姉妹が
会していた。

 こんな時間に何を?
 幸か不幸か、下の階で文字通りの同床異夢にある秋葉達のいずれかが、この
扉の前に立って中の物音を窺っていたなら、驚愕の表情を浮かべたであろう。
 志貴の部屋での深夜の密会。


 そこでは、こんな事が行われていた。

 
 もう夜は深くなっていて、普段ならば眠っているというのに、志貴を始めと
して、誰も寝るどころか眠気すら見せていなかった。
 むしろ、目はらんと輝き、声は弾み、昼よりも生気に溢れているほどだった。

 志貴の迷うような目。

「どうしようかな」
「志貴さん、はやく選んでくださいな」
「そうです、志貴さま」
「そうだね、こんなところで迷ってちゃ始まらない」

 言いながら、志貴は砲身を撫でた。

「うん、準備OKだよ」
「やる気まんまんな志貴さんも怖いですけど、今日は目の奥が静かに燃えてい
て、こういうのも……」


 そして。

 琥珀の押さえ切れぬ笑み。

「ふふふ、これでどうです、志貴さん?」
「琥珀さん、そこは……」
「困った顔されてますね、そんな顔見るのは快感ですよ。
 ダメです、もっとここは何度も……。
 もっと大きくしますよ、あは」
「ああッッ」


 そしてまた。

 翡翠の、悲鳴混じりの声。

「志貴さま、速過ぎます」
「そう言われても、こればかりはね。
 翡翠もぐずぐずしていると、琥珀さんと俺ばかりいい目をみちゃうよ」
「でも、わたしは慣れていませんから……」
「大丈夫よ、翡翠ちゃん。はじめはみんなそうなんだから」

 翡翠の動く様を琥珀はにこにことした笑みで見ている。
 その間、琥珀の指が無意識にだろうか、官能的に動いている。
 出番を待つように、自分の赤味がかった突起を弄ぶように転がしていた。
 

 ひとしきり歓声と悲鳴の交じり合う喧騒の一時が過ぎ去る。
 もしも志貴と琥珀の二人だけであったなら、志貴がリードしていたかもしれ
ない。
 しかし、翡翠という存在があると、琥珀は陰に陽に助け舟を出し、結果とし
て二人で志貴に対峙するような構図に変わる。
 志貴にしても不慣れな翡翠に対し、琥珀にする様な何でもありな真似はせず
に、比較的おとなしめに振舞っている。
 結果として、琥珀が余裕ある表情で全体を眺めている状況になっていた。

 今もそう。
 翡翠と志貴とのやり取りを、言葉は口にせずに興味深げに眺めている。
 
 翡翠は、迷うような顔をしている。
 頭の中でいろいろと期する事はあるのだろう。
 よく見れば、目元や口元に迷いながらも微妙な表情の揺れが表れている。 
 伸ばしかけた手も、その葛藤を反映してなんとも中途半端に揺らいでいる。 
 じっと志貴は待っている。
 せかそうとはしない。
 と、翡翠の顔に決意が表れた。
 手をまっすぐにそこへ伸ばし、志貴に言葉を掛ける。
 もっとと要求する翡翠の声に、志貴は驚きつつも当り前のように従った。

 そこまでを見て、琥珀は少し揶揄するような言葉を投げた。

「ふうん、翡翠ちゃん意外と大胆」
「そんな……」
「琥珀さんにそんな真似されたら翡翠だって黙ってないよね」

 志貴が横から声を挟むと、同意とばかり翡翠も無言で頷く。

「あ、酷いです。
 わたしを悪者扱いですか。
 志貴さん、さっきはわたしからの贈り物を嬉しそうにしていたのに」
「それとこれとは。
 だいたい、ずっと琥珀さんのペースだしなあ」

 ぼやく志貴に琥珀はちょっと面白そうな顔を向け、身を乗り出す。

「いいじゃないですか、混沌とするのも楽しいですけど、誰かが主導権を握っ
て、そして誰かに逆襲されたりというのも悪くないですよ」
「うーん……。
 翡翠はどう思う?」

 自分と琥珀との違いを眺め、小さく溜息をついていた翡翠は、志貴の声には
っとして顔を上げた。

「翡翠は、楽しんでいるかな、こう言う事あまりしないけど?」
「わたしは、楽しいです。
 志貴さまは……、わたし達とされるのはお嫌ですか?」
「嫌なら、こんな事しないさ。
 翡翠が、声上げるところとか普通じゃ見られないしね」
「……」

 真っ赤になる翡翠。
 自覚はあるのだろう。
 普段の物静かにしている様と、今の数十分での姿との違い。
 痴態を晒した事を恥じるような貌。

 志貴からすれば、そうした表情や仕草が実に魅力的に映るのだが、それを言
葉にして翡翠に突きつけようとはしない。
 そんな真似をすれば、さらに恥かしがって下手をすれば部屋から出て行って
しまうのではないかと思えたから。

 少しばかり膠着した空気を解すべく琥珀が声を出した。

「さあ、志貴さんの番ですよ。お好きなようになさって下さいな」
「お好きなようにねえ」

 琥珀と翡翠とを眺めて、志貴はどうしようかと考えた。
 そして、思いを込めて手を動かす。
 それに反応し、双子はそれぞれ違う反応を示した。
 琥珀は余裕の笑み。
 翡翠は追い詰められたような表情。

 琥珀はまだ志貴の温もりが残るそれに手で触れた。
 さっき噛んでみますかと言って、志貴さんを慌てさせましたっけ。
 さんな事を思いながら、琥珀は指を曲げる。


 そして、さらに何十分かの時が流れた。
 だいぶ疲れたような志貴、そして翡翠。
 琥珀だけがかわらず生気に満ちた顔。

「本当に嬉しそうだね、琥珀さんは」

 文句混じりに志貴が呟くと、琥珀は柔らかい笑みで答えた。

「それはそうですよ。
 今だけはわたしと翡翠ちゃんで志貴さんを独占しているんです。
 なんとも、贅沢な気分ですね」
「そういうものかな?
 まあ、秋葉たちが混ざったらとんでもない事になるからな」
「姉さんの言う通りです。
 少し、秋葉さま達に申し訳なく思えますが……」

 そう言いながらも翡翠は動きを止めない。
 手の中の二つの感触、それを味わうように掌で転がしている。
 そして独特の手首の捻りを見せた。
 にこりと小さな口元の笑み。
 
 まあ、こういうのは悪くないどころか、実に……。
 志貴にしても何ら不満はない。
 シエル先輩なり、アルクェイドなりを加えても良さそうだなと思わなくもな
いが、そうなると琥珀はともかく翡翠はメイドとしての意識を強く持つだろう。
 それなら、三人で親密にしている方が良い。
 機械的に動きながら、ちらとそんな風に志貴は考えた。

「それより志貴さん、ほら……」

 二つ同じものが並んでいる姿。
 心なしか赤味が増している方、ついでもう一方を琥珀は触れずに指で示した。
 志貴に、早くと目が語っている。

「あれ。じゃあ、翡翠には悪いけど、抜くね……」
「あっ」

 束の間、翡翠と重なっていた志貴が離れる。
 翡翠はわずかに残念そうな顔で志貴を見つめた。
 
「そういうルールだから、翡翠ちゃんごめんね。
 また翡翠ちゃんの番が来たら、頑張ってね」
「うん」


 志貴が嬉しそうに琥珀に叫ぶ。

「ほら、琥珀さん、ぐずぐずしないで早く」
「もう、志貴さんたら。いいですよ、本気になっていきますよ」
「今までは本気じゃなかったの」
「これからは、本気の本気です。
 翡翠ちゃんにも遠慮はしませんよ」
「姉さんには負けない」

 珍しいなこういう二人もと思いつつ、志貴は一人で行為を続ける。

「おっ、凄いな、こんなに……」
「ダメ、ダメです、志貴さま、そこだけは……」
「そう言われても、こんなに魅力的だと。
 ほら、どう?」
「志貴さんがあんなに、凄い……」

 
 志貴がリズムに乗ったように、双子を翻弄する。
 何とかペースを戻そうとするも、琥珀の動きは裏目裏目に出てしまう。
 かえって志貴を喜ばせたり、効果的に決まらなかったり。

「うん、琥珀さん?
 二度も三度も食い下がっても無駄だよ」
「いえいえ、わたしは引き下がりますけど、翡翠ちゃんが……」
「志貴さま。よろしければ、わたしの、その……。
 こんなお願いでは頷いていただけないとは思いますけど」
「いいよ、言ってごらんよ」
「ずいぶんとわたしの時と態度が違うんですねー。
 志貴さんなんて……」

 しかし、志貴の要求に翡翠は困った顔をする。

「それは、志貴さまのお言葉でも……」
「嫌なの?」
「……」

 何とかなりませんかという哀願を込めた翡翠の目。
 がんとはねつける顔をしつつ、その翡翠の様子に志貴はぞくぞくとした悦び
を得ていた。

「志貴さん、翡翠ちゃんの困り顔見て、楽しんでいますね」
「そ、そんな事はないよ」
「いいですよ。翡翠ちゃんのそんな顔、可愛いですものね」
「姉さん……」

 顔を赤くする翡翠に構わずにこりと笑みで返すと、琥珀は志貴を見た。

「でも、翡翠ちゃんもいいけど、やっぱりわたしは志貴さんの助けてって言い
たげな顔が好きですね。
 翡翠ちゃん、ここをこう……、ね?」
「あ、琥珀さん、それは……」
「ふふふ、その顔ですよ。
 酷い志貴さんを二人で苛めてあげましょうねえ」

 こくりと頷く翡翠に、志貴は呻き声を上げる。


 そうして、結局はほとんどあらかたを琥珀に吸い取られた志貴。
 ぐったりとして意気消沈の様子で、搾り出すように声を洩らす。

「琥珀さん、強すぎ」
「手加減なんかしたら、申し訳ないですから」

 余裕の表情の琥珀。
 
「ふふ、志貴さんはもう限界かしら。
 翡翠ちゃんも気を抜くと、終わっちゃうわよ。
 そうしたら、志貴さんとサシで楽しんでいる処、見てて貰おうかな」

 翡翠は無念そうな顔をするも、もうどしようもない状態。
 ただ、機械的に反応するのみ。
 
 このまま終わるのも悔しいなと、志貴は残る気力を振り絞った。
 がばと身を起こす。

「めくるよ」
 
 志貴は起死回生のきっかけにとばかりに、震える手をこんもりとした山に伸
ばした。
 やや乱れがかった重なりに指が触れる。

「うあっ」
 しかし、志貴は絶望的な声を上げた。
 緊張の糸が切れたように弛緩した表情になっている。
 体全体がぐたりとなっている。
 指だけが感電でもしたように、ぶるぶると震えている。
 
「もう少しだったのに、終わっちゃったよ」
「志貴さま……」
「志貴さん、どうなさったんです?」

 志貴は溜息。

「見せて下さいな、どうなったのか」
「……」

 志貴は手をどけた。
 琥珀と翡翠はそこを覗き込む。
 琥珀は嬉しそうな顔、翡翠は同情めいた顔。

「ボードウォークへ進む」

 ボードウォークには琥珀のホテル。
 既にほとんどの収入源を搾り取られている志貴にとっては、破滅と同意語の
カードだった。
 
 にこにこと徴収する琥珀。

 かくして、志貴と双子との深夜のモノポリー大会は幕を閉じた。
 
 優勝、琥珀。
 準優勝、翡翠。
 最下位、志貴。


  《FIN》







―――あとがき

 だから言ったでしょうに。

 掲示板でえっちぃ方向を期待されたので、あえてこんなのを。
「わたし達と一晩中遊びませんか?」
「え?」という会話の後、いろんな事が頭に乱舞する志貴の前に出されたボー
ドといった流れでどうです?

 駄目ですか。
 そうでしょうねえ。

 もっともこの後、罰ゲームでいったい志貴が何をされるのかまでは知りませ
んけどね(笑
「じゃあ、当初の予定通り、わたし達二人を……」とか。

 ちなみに、志貴が銀行役やってます。駒は大砲を使用。
 出来るだけぼかしましたけど、どこでどんな状況か推測してみると楽しいか
もしれません。
 翡翠と志貴が同じマスになって翡翠はささやかな喜びに浸っていたら、ぞろ
目でもう一回振って志貴はさっさと行ってしまったとかね。


 では、おそらくは02年最後のSS、お読み頂きありがとうございました。

   by しにを(2002/12/29)
 


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