夢一夜
作 のち
 こん、こん、こん、と雪が降る。
 しん、しん、しん、と雪が降る。
 雪は天からの贈り物だという人がいる。
 雪は人の心を暖めるという人がいる。
 いろんな意見があるけれど、
 どれが本当かはその人にしか分からない。
 どれも本当ではないかもしれない。
 今、俺にとって、この雪はなんの意味があるのだろう。
 意味があるのか、意味がないのか。
 そんなことを考えている俺は、かなりセンチメンタルな気分になっているのだろう。
 でも、そんなことを考えるだけの余裕ができた、とも言える。
 あいつが去ってから、もう3ヶ月。
 眠りに入って、たった3ヶ月。
 あいつにとって、ほんの一瞬の時間。
 俺にとって、永遠に感じられた時間。
 時の流れも、生き方も、生物としても、
 あいつと俺とは違っていた。
 でも、あの時、あの一週間。
 俺と、あいつは、確かにそこにいた。
 とんでもないことに巻き込まれたし、巻き込んだ。
 なんでもないことを、普通に一緒に話をした。
 何もかもが違っているはずなのに、一緒にいた。
 あいつの時間からすれば、それは一瞬の時間。
 でも、あいつはそれを永遠と言っていた。
 俺の時間からすれば、一瞬ではなかった。
 でも、俺にとっては永遠に等しかった。
 あれは、いったい、なんだったのだろう。
 神の気まぐれ、運命のいたずら、ただの偶然。
 いろんな言い方ができるし、できもしない。
 でも、確かにあの時間は存在した。
 占める時間の割合は違ったとしても、
 あの時、あの一瞬、確かに交差した。
 これから先、交わることがないだろうその二本の線は、
 これからもそれぞれ、先を行くのだろうけど。
 あの時をきっと忘れはしないのだろう。
 これからも、ずっと。
 いつまでも。
 今もまだ、雪は降る。
 明日には消えているかもしれないのに。
 それでも、雪は降る。
 積もれば、大地を覆い、その姿を変えるだろう。
 溶ければ、水となって流れ去り、大地は再び姿を取り戻すだろう。
 それは一夜の夢。
 空と大地とをつなげるほんの少しの時間。
 それは盟約の証。
 けして交わらない、天と地の。
 互いを認める、約束のしるし。
 永遠の夢を見るための、儀式。
 一瞬の、夢の、時間。
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後書き
 アルクェイド、トゥルーエンド後、のお話しです。
 志貴の私小説っぽくしてみました。
 天抜きではできない、台詞なし、というので作ってみたら、こんな感じになってしまいました。
 どこで間違えたかな?
 お題は「雪」、ということにしてみたんですが、どうしてもアルクェイドが来ちゃうんです。
 雪とイメージが合うのかなあ。
 エンディングの中でも、その後っていう感じのがないアルクェイドとシエル。
 どちらにしようかな、と思ってアルクを選んだんですけどね。
 つたないものですが、どうぞよろしくお願いします。
 
 2003年1月17日
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