「どうですか、兄さん」
「……」

　言葉も無かった。
　人間の想像力など所詮たかが知れている。
　わくわくして頭に思い描き、現れるのを待っていたのに。
　そんなものは、瞬時に消え去った。

「兄さん……？」
「……」

　目の前のこの……。
　ああ、生まれてきてよかった。
　これを見るだけでも、生きてきた甲斐があった。

「あの……？」
「……」

　ああ、なんだろう眼が。
　少しぼやけて、そして頬に？
　泣いている、泣いているのか、俺は。
　涙を流しているのか。
　感動のあまり涙を。いや、無理もない。漢として恥ずべき事ではない。

「兄さん、どうなさったんです」

　秋葉が慌てた顔で近寄る。
　白衣が揺れる。
　緋袴がはためく。
　なんて、なんて優美な心奪われる姿。

「素晴らしい」
「え？」
「こんなに、こんなに……」

　ああ、感極まってまた、ぽろぽろと涙が溢れてくる。

「私、似合っていますか？」
「……」（こくこく）

　言葉にならずとにかく激しく何度も首を縦に振った。
　秋葉がぱっと顔を赤らめる。
　可愛い。
　どうして良いかわからなくて、とりあえず秋葉を抱き締めた。
　こわごわと。
　そっと。
　あまりに畏れ多くて、触れることに恐怖すら感じながら。
　巫女服の秋葉の体を抱き締めた。

「こんなに似合うと思わなかった。いや、想像はしていたけど。現物は遥かに
超えていたよ。秋葉、全身を見せてくれるか」
「はい……」

　しずしずと秋葉は足を動かし、正面を向いて微笑む。
　少しはにかんだ様子が、可愛い。
　くるっと回転して見せる。
　横、後ろで束ねた艶やかな髪。
　すっと姿勢を正して、済ました顔をする。
　途端に、雰囲気が変わる。
　近寄りがたいような清らかな神気すら感じる。
　本当に、秋葉って類まれな美少女だなと、今更に溜息を洩らした。

「本当は、私はこれを着る資格はないんですけど」
「なんで？　こんなに似合っているのに」
「純潔を既に失っていますから……」

　小声で言って、ちょっと可愛く睨んでみせる。
　その純潔を奪った男としては、あたふたとなってしまう。
　でも、秋葉は処女を捧げた相手に、すぐににくすりと笑みを向けた。
　そして何とも言えない目で見つめている。

「じゃあ」
　
　そっと手を差し伸べる。
　秋葉が小さな白い手をそこへ重ねた。
　ぎゅっと手を握って、そとて秋葉の体を引き寄せた。
　秋葉は抵抗する事無く、俺の腕の中に飛び込む。
　
「俺だけの巫女さんになってくれよ、それならばいいだろう？」
「はい」

　また、ぎゅっとする。
　そして、誘うような甘い唇を吸った。
　喜びで頭がおかしくなりそうだった。

　しばらく、そうしていた。
　それだけで満たされた。
　もう、溢れそうなほど。

　でも、秋葉は少し物足りない様子だった。

「あの、兄さん……、その、せっかく着たんですから……」
「うん……」

　秋葉が何をほのめかしているのかはわかる。
　端的に言えば、抱かないのですか、いや、抱いて下さいと。
　そもそもその為に、こんな格好をして貰ったのだし、実際俺が興奮している
のも、ちらちらと眼で確認されている。
　こうも体を密着させていれば、少し当たっていたりもしてるだろうし。
　でも……。

「ごめん、秋葉。今は止める」
「え、なんでですか？」

　身をはがしながらそう言うと、秋葉は驚いて目を見開く。
　ちょっと神秘性は薄れてしまうが、それも可愛いなあ。

「凄くわがままなんだけど、その格好のままの秋葉と、そういう事出来ない」
「……？」
「凄く似合っていて、本当に巫女さんみたいで、そんな綺麗なものを汚したく
ない。脱げばいいのかもしれないけど、また後でにしよう。
　ごめん、勝手な言い草で」
「そうですか……。まあ、わからなくもないですが。じゃあ、これならばどう
です？」

　秋葉の白い手が伸びて、俺の股間を撫ぜた。
　きついぐらいに大きくなった肉棒を布越しに撫ぜられ、ぞくりとする。

「出してください、兄さん」

　少し笑みを浮かべて真正面から言われると逆らう事は出来なかった。
　慌てて、下半身を剥き出しにする。
　秋葉は隆起したそれを嬉しそうに眺め、そして改めてほっそりとした指を絡
めてきた。

「おい、秋葉」
「手だけならば、よろしいでしょう？」

　しなやかな指の動き。
　ゆっくりと握りに強弱をつけている。
　まるで普段堪能している秋葉の膣の襞のように、自在に動いている。
　そして、抽送の替わりに、秋葉の手が上下に動く、
　絶妙な指と手の動き。
　そんな清楚な巫女さんに手で奉仕されているという事実。

　正直なところ、すでにびくびくと限界が近いところまで高ぶっていたのだ。
　それをこんな刺激を受けたら、まったくもたない。
　先触れで秋葉の手が濡れている。
　手の中の脈打つさま、俺の反応で秋葉もそれを感じているのだろう。
　清楚な巫女さんにはそぐわないような目で、赤黒くなった肉棒の先を見つめ
ている。
　濡れた鈴口を期待に満ちた目で見つめている。

「もう、出るから、秋葉……」
「はい……」

　まかり間違って秋葉を、秋葉の纏う巫女服を汚してはいけないと、告げたが、
秋葉は動こうとしない。
　強引に身を離そうとした時、いきなり、秋葉は口に含んだ。

　それで堪えていた堰は切れた。
　どくどくと精液が秋葉の口に迸る。
　独りでに腰が動き、さらに奥へと突っ込み、秋葉はそれを受け入れた。

　信じがたい快感。
　圧倒的な罪悪感。

　秋葉を見ながら、清らかな神事の衣を見ながら、俺はその二つに体を裂かれ
ていた。
　体は蕩けていながら、心は痛みにも似たものを感じている。

　ちゅぽんと秋葉の口から肉棒が姿を現す。
　秋葉は頬を膨らませたまま。
　まだ、口の中に今のが……。
　ちょっと迷ってから、秋葉は懐紙を取り出した。
　広げた紙の上に、口に含んでいた白濁液をとろりとこぼす。
　舌から滴る俺の放ったもの。
　なんて、いやらしい眺めなんだろう。

「本当は呑みたかったんですけど……」

　少し顔を赤らめて、そして少し残念そうにして、秋葉は呟く。
　内から汚すと事になるからか、とか言って呑み込むのも兄さんはお嫌かもし
れませんから、と言葉を続ける。

　いつも美味しそうに呑んでしまうのに、と疑問に思ったが、納得。
　しかし、秋葉が呑んでくれるのを見ると、ぞくぞくするような喜びを感じる
けど、こうやって口に入れたものを出して見せられるのも、それはそれで興奮
させられる。
　特に、こんな汚れのない巫女さんが、と思うと堪らない。

　まだ、おさまりきれない肉棒を、優しく秋葉が拭ってくれた。
　さっきまでの淫蕩な表情は消えている。
　ああ、こんな事させてしまってと考えていると、不思議と萎えてきた。
　一回でこんなに小さくなるのは初めてで、秋葉は驚いている。
　でも、俺が何やら神妙にしているのを見て、感じる事があったらしく黙って
いた。
　パンツを上げて、身支度を整えた。

　あらためて秋葉と対峙。
　ああ、巫女さんな秋葉。

「こんなに感激して貰えるなら、また着てみますね」
「ああ」

　着替えようとする秋葉を止めて、抱き合うというより、胡座した上に座らせ
て抱っこしたり、唇が触れるだけの軽い甘いキスをしたりして、一時間ほど、
穏やかで幸せな時を過ごした。

　幸せだ。
　本当に幸せだ。
　まるで、夢のように。

　ああ、と気づく。
　世界を破壊するキーワード。

　そして、その夢のような夢から、俺は去った。

　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　……つづく


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