放課後。 学校を出て、街中へ向かう道。 にこにこと笑うシエル先輩。 どことなく軽快な身のこなし。 こうして見ると先輩って、可愛いな。 って、何か変だな。 先輩に声をかけようとしても、追いつこうとしても駄目。 ……? あれ。 これって。 俺の体が無い。 ・ ・ ・ そうか。 夢だ。 夢なのか。 視点だけが、先輩の後に続いているものの、遠野志貴の実体がない。 なんだ、そういう事か。 頭の片隅でちょっと待て、と言う声があるが、納得した。 夢ならば仕方ない。 「先輩」 あ、やたらと聞き憶えがあるこの声は。 「あら、乾くん」 やっぱり有彦か。 何やら熱心に。 二人並んで歩き始める。 何だかちょっぴり悔しいぞ。 有彦は嬉しそうな顔で、先輩もにこやかな表情。 さっきと逆に、距離を置きたいと思っても否応無しに、二人に続いて目のみ が追いかけていく。 ふよふよと。 声も聞こえるし。 「だから、俺ならば先輩とも相性バッチリですし」 「あら、そうでしょうか?」 「あ、冷たいな」 「ふふふ。乾くんと過ごすのも楽しいですよ」 「じゃあもっと俺を深く……」 「でも、乾くん、忙しそうですから」 にこやかな顔のままで先輩は有彦をかわす。 しかし、攻め手は一向にめげずに、言葉を重ねる。 「何を仰います。遠野じゃあるまいし……」 「そうですか、一年生の橘さんとか、とか、ええと保健委員の片岡さんとか。 三年生でも何人かいましたっけ。ええと、柿崎さんでしたっけ? 他校でもいろいろ、名前までは知りませんけど、いつも白いリボンしてて、 先日ライブに一緒に行った時にはピンクのだった娘さんとか。 あとは……」 「もう、いいです。 遠野ですか、遠野が先輩に告げ口を」 蒼褪めているよ、有彦。 いや、無理もないけど。 先輩もさっきとかわらず愛想の良いにこにこ顔なのが怖い。 どことなく、よく知っている割烹着の人を彷彿とさせる。 「いいえ」 「じゃあ」 「なんででしょうねえ」 怖いよ、先輩……。 それからも有彦とシエル先輩の話は続き、 やがて唐突に、光景が変わった。 ……つづく
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