「なんなんですか、あなたの格好は」
「あれ、変かなあ」

 心配そうな顔をするアルクェイド。
 物問いたげに、シエル先輩の顔を見る。
 そういう顔をされると逆にシエル先輩の方が困惑した顔をする。

「いえ、まあ、似合っていると言ってもいいでしょうかね」
「ああ、よかった」

 まあ、確かに似合っていない訳では無い。
 それは言えると思う。

「でも何でまた?」
「ええとね、シエルはいつもカソック着てくるって聞いてたから。ちゃんとお
墓参りするんなら、それに相応しい礼服がいいのかなと思って」
「礼服?」
「シエルは教会の人間だから、それを着ているんでしょ?
 でも、わたしがそんな服着るのは変だし、シエルだってきっと嫌がると思っ
て、それは却下」
「まあ、抵抗はありますね。と言うか、カソック着た真祖なんて考えるだけで
頭が変になりそう……」

 そうでしょうとアルクェイドは頷く。
 少し得意そうな顔をした。

「だかから、なんだっけ郷に入りては郷に従え、だったっけ」
「Cum fueris Romae, Romano vivito more, cum fueris alibi, vivito sicut ibi.」
「ああ、そっちの方がわかりやすい、それね。だから、日本風にした方がいい
かなあって思ったの」
「なるほど、発想は理解できました。それで言うと本当は私も場違いもいいと
ころなのですけどね。
 でもアルクェイド、正確にはそれは神道の……」

 シエル先輩が口ごもる。
 そうだな、俺でも「それはおかしいよアルクェイド」とは言い難いと思う。

「うん? ねえ、喜んでくれるかな」
「まあ、あなたが黒い喪服に身を包むより、喜ぶかもしれませんね」

 シエル先輩が懐疑的な表情になるのを抑えているのが、わかる。
 まあ、アルクェイドなりに死者への礼として選んだのだろうから、と内心で
呟いていそうだ。
 でも、いったい何で調べたのだろう、アルクェイドは?

 白衣と緋袴の姿のアルクェイド。
 巫女服を身に纏った吸血鬼、真祖の姫君。

 くらくらと眩暈がしそうだった。
 ただ、ミスマッチではあったが、似合っているのも確かだった。
 まあ、何着ても似合いますからね、不公平な事に。
 シエル先輩もそんな事を言っていたっけ。

 先輩みたいなカソックとか、シスターの姿はどうかな、と冗談交じりで言っ
たら、似合いそうですねと呟いていた。
 自ら仕える主への冒涜ですから、そんな真似はさせませんけど、と慌てて釘
を刺していたけど。


「行きましょうか」
「うん」

 少し、笑みを消してアルクェイドは大きな花束を手にする。
 水桶を手に二人は歩き始めた。

 小高い丘の上に墓が見える。

 しかし、さっきから気になっていたのだけど、誰のお墓参りなんだろう。
 二人揃って哀悼の意を示す相手なんているのだろうか。
 まあ、昔からの因縁がある二人だけど、ここは日本だし。
 二人とも、ロアを追って来たのが初めてだった筈なんだけどな。
 あいもかわらず、感覚的にはふよふよと空を漂いつつ、二人に同行した。



 
「さすがに、いつ来ても綺麗にしてありますね」
「妹は?」
「今日はお二人でどうぞって言ってましたよ」
「そう……、まだ怒ってるのかな?」
「まあ、会えば恨み言の一つも言うかもしれませんが、ぜひ帰りに訪ねて下さ
いとも言われてます。やっぱりあなただけが知る遠野君の事、秋葉さん達も直
接聞きたいんでしょうね」
「うん、行く。私も会いたい。でも……」
「なんです?」
「シエルも一緒に来てくれる?」
「もちろんですよ」
 
 二人は、墓石を優しく、そして少し哀しそうに見つめる。

「来たよ、志貴」
「遠野くん、元気にしていましたか?」

 待て。
 待ってくれ。
 なんだ、なんでその墓石を見て、俺の名前を……。


 遠野志貴、ここに眠る。
  

 え、
 ええっ?
 馬鹿な、何、なんだよ、これは?

「遠野くん、久しぶりですね、今日はアルクェイドも来てくれましたよ」
「ごめんね、志貴。私……」

 あの……。
 ちょっと、二人とも。
 無駄とはわかっていたが、大声を張り上げ、手足を振り回した。
 気づいてくれ。
 教えてくれ。
 いったい何がどうなっているのかを。

「人間ってあっけなく命を失うんだね。
 わたし、志貴に会うまでそんな事想った事も無かった」
「まだ遠野くんが死んでしまったなんて信じられない……」

 その哀しみに満ちた声。
 そうか、本当に死んでるんだ、俺は。
 不思議と、はっきりそう悟ると納得してしまった。
 こんな体もなくふらふらしているんだし、そうか、そうなのか。

 死んだんだ、俺は。

 ふっと背中が引っ張られた。
 え?
 倒れこむように、後ろへ動いて、何かの中に入った。
 うん?
 さっきまでと違う。
 これは。
 どうにも視点が自由に動かないけど……。

 ああ、墓石の中に、閉じ込められたみたいだ。
 自分の死を意識したからだろうか。
 これが今の我が身という事かな。
 なんだか、頭の半分くらいが落ち着いた。

 アルクェイドとシエル先輩が何やら話している。
 なんだろう。
 アルクェイドが言っている事に頷きつつ、先輩が顔を赤くしている。

 俺は―――――


     1.巫女服なアルクェイドに目を向けた。

     2.シエル先輩に注意を払った。

 

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