「本当にやるんですか」
「うん、志貴が喜んでたっていつも言ってたじゃない」
「でも……」

 シエル先輩は困った顔でアルクェイドを見ている。
 いや、これは恥ずかしがっている……?

「シエルはいいよね、もう何回もそうやって志貴を悦ばせてあげられたんだか
ら。ずるいなあ」
「ああ、もう、そんな顔をしないで」

 シエル先輩が、アルクェイドを軽く抱き締める。

「あなただって随分と遠野くんと凄い事したんでしょ?」
「うん……」
「真祖の力を封じたままで露出放置プレイしたりとか、二人の姿を見えなくし
て街中でしちゃったりとか、他にもいろいろと。知っているんですよ」
「シエルだって、裸マントで二人で夜歩いたり、他にも恥ずかしくてわたしの
口からは言えませんなプレイをして楽しんだんでしょ」
「そうですねえ、遠野くんただ絶倫なだけでなくて、幅広い性癖を持ってまし
たからね」
「わたしなんて、どいうのか普通の行為なのかわからないから、志貴に言われ
たら何でもしてたなあ」
「ああ、わたしの前でおかしくなっちゃったのも遠野くんにやらされたんでし
たっけ。秋葉さんもね、こんな事は秋葉にしか頼めないよとか言ってかなり、
とんでもない事をさせてたらしいですよ」
「うわあ、志貴って凄かったんだね」

 あの、その、それはどちらの遠野志貴とおやりになったのですか?
 冷や汗が出そうになる。
 出せる訳はないのだが。
 そうか、そんな事をやっていたのか。
 
「でも、志貴が喜んでくれるなら、わたし何でもしたし、嫌じゃなかったもの。
 シエルもそうだったんでしょ?」
「まあ、否定はしませんよ。遠野くんの事が好きでしたから」

 二人はしみじみと語っている。
 ……なら、いいかな。
 納得して先輩やアルクェイドがやってくれていた事なら。

「でも、わたし、これは出来なかったんだもん。しようとしたけど、志貴は偽
物だって言って喜んでくれなかったし。
 志貴ったら、シエル先輩ならこんな時に……なんて言って、わたしを苛めた
事だってあるんだから。だからせめて……」
「はいはい」

 やれやれと先輩は溜息をついた。
 それにしても、アルクェイドは何をシエル先輩に頼んでいるのだろう。
 かなり先輩は難色を示しているけど。
 すがるような目で先輩を見ていて。
 そしてしかたないですね、という表情でシエル先輩は……。

 え?
 なに?
 なぜ?
 カソックの裾を大きく捲り上げた。。
 先輩の白い太股が、すらりとした脚が露わになる。
 アルクェイドが寄って先輩の下半身を剥き出しにする。
 両手が空いた先輩はそのままショーツにも手を掛ける。
 って、あの……?
 頭が真っ白になる。
 
 ショーツを少しずらしかけて、ちらと先輩が横目でアルクェイドを見る。
 ためらいの表情。

「大丈夫でしょうね」
「結界? 平気よ。誰も来ない。わたしとシエルと志貴だけ」

 少しビビった。
 俺がここにいるのを気づかれているのかと思って。
 でも、そのアルクェイドの声に先輩はちょっと寂しげな笑みを浮かべて、ア
ルクェイドも同じ表情で頷き返す。

「そうですね、他に見ているのが遠野くんだけですから」

 先輩は屈みこみながら、ショーツをおろした。
 柔らかい恥毛の翳りが見える。その下も……。
 先輩は、下は黒い靴下と編み上げ靴ををつけただけの姿になった。
 また、自分で服の裾を手にする。

「いいですよ」
「ありがとう、シエル」

 しかし、何を?
 あまりに異様な、この場に在っては不条理ですらある光景。
 ただ、黙って二人の姿を息を呑んで見つめる。

 アルクェイドがシエル先輩の背後に回る。
 そして剥き出しのの脚に手を掛け、軽々と持ち上げる。
 先輩はされるままになっている。

「うう、恥ずかしい」
 
 腿に手を掛けて、後ろから抱っこするような形、と言うよりもっと簡単に表
現すると、子供におしっこをさせる時の格好……?
 太股を手で支えつつ左右に開かせて。
 先輩の性器は開き、鮮やかな粘膜が露わになっている。
 いや、露わにしているのは膣口ではなくて。
 まさか。
 まさか。

「アルクェイド、やっぱりその……」
「まさか、やめるなんて」
「でもやっぱり故人を冒涜するような気がして」
「絶対、志貴は喜んでくれるよ。シエルのなら、ね?」

 先輩は観念したように無言で頷く。
 アルクェイドは安心したように近づく。
 まさか。
 いや、これは。

「いいよ、シエル」
「はい、遠野くん……」
「うん、志貴だと思って。あ、シエルの震えが伝わる」

 ひくひくと動いている。
 微妙な収縮。
 間近に、シエル先輩の秘裂が晒されている。
 その、何度も触れて舌でつついた事のある窪みが、なやましく動く。
 尿道口が、心なしか、開いて、そして……。

 ちょろ、ちょろちょろ……。

 銀の糸のような飛滴が洩れた。
 最初は断続的だった流れが、少し強くなっていく。

 しゃああーーー…………。

「やだ、ああ、出ちゃってる、あああ……」

 先輩が身悶えするが、下半身はアルクェイドに押さえられている。
 多少揺れつつも、先輩の放っているものは、俺に、いや俺の墓石に浴びせら
れ続けている。
 一度出たものは止まらず、シエル先輩は放尿を続けている。

「綺麗だよ、シエル」

 後ろから覗き込むようにしたアルクェイドが呟く。
 陶酔した表情でシエル先輩のそこと、放物線を見つめている。
 先輩を支えるためもあるのだろうけど、先輩のお尻や背をぴたりと自分の体
に押し付けている。
 ちょうどアルクェイドの腰の辺りに先輩のそれが触れる高さにして。
 まるで、自分が立ったまま放尿しているように。

 いや、実際そう思っているのだろうか。
 手や体に伝わる感触を、震えを、うっとりと味わっているようにも見える。

 最初は恥ずかしそうだった先輩は、やがて陶酔するような瞳になった。
 自分が滴らせているモノの軌跡を眺めながら、淫らにすら見える表情になっ
ていた。

 やがて、勢いが衰えていった。
 迸りはすっかり弱まり、雫が点々と滴る。
 そして、音が不規則になった。

 ぽたっ、ぽたっ、……。

 アルクェイドがその姿勢のまま、器用にハンカチを出した。
 まだ、濡れているシエル先輩の股間を優しく拭う。

「遠野くん」

 先輩が小さく呟く。
 悲しげな声で。
 終りを惜しむように。

 アルクェイドは先輩をそっと下ろす。
 シエル先輩はそれに気づいているのか、じっと俺を見つめている。
 横にアルクェイドが立った。

「ごめんね、シエル」
「え、どうしました、アルクェイド?」
「思い出させちゃったよね、ごめん、わたしが我がまま言ったから……」

 真祖の姫君らしからぬ僅かな、しかし明らかな悔恨の表情。
 シエル先輩は黙ったまま、仕草で否定の意を示した。
 そして、少し寂しい笑みを浮かべて傍らのアルクェイドに問い掛けた。
 
「どうでした、擬似的にでも遠野くんにおしっこを掛けてあげられて?」
「うん、嬉しかった」
「なら、いいですよ、それなら私も嬉しいです」
「本当?」
「ええ、わたしも哀しいと言うのと少し違って。遠野くん、よくわたしの恥ず
かしがる姿を楽しんでいたな、とか、あんなに喜ぶのならもっと何度も掛けて
あげたり舐めさせてあげたらよかったなって……」

 透明なシエル先輩の声。
 哀切さを含みつつもどこか明るいその声が、どこにあるのかはわからないが
俺の胸に響いた。
 アルクェイドも似たような表情になっている。
 先輩より少し泣きそうな顔だけれど。

 それにしても、ここに眠っている遠野志貴、二人に手を出しておまけにとん
でもない行為をしていたんだな。
 一回殴ってやりたくなる。
 でも少し羨ましい。
 こんなに死してなお、悼まれているのは。

 今の俺は、どうなのだろう。
 アルクェイドに、先輩に、
 いや、秋葉や琥珀さん、翡翠に、
 少しは何かをしてあげられているのだろうか。
 ……。

 え?
 周りが……。 
 あ、遠ざかる。
 ここから去る時が来たみたいだ。
 先輩とアルクェイドが濡れた墓石に話し掛ける声も、もう小さく聞こえない。

 死んだ俺に代わって「ありがとう、二人とも」と声にならない大きな声で叫
んだ。
 聞こえなくてもかまわないから。
 精いっぱいの感謝を込めて。
 
 
                      ……つづく



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