「志貴、ねえ、もういないの?」

 聞こえない。
 目も見えない。
 何もわからない。

 それなのに、こんな下着だけで、首輪なんてつけられて、公園の街灯に鎖で
つながれて。
 目隠しをされて、志貴も何処か行っちゃって。

 ちゃんとアルクェイドの事見てるからねって言ってくれたけど。
 でもいつもの志貴と違って意地悪く笑っていて。
 
 本当に、わたしを見守っていてくれるのかな。
 本当に、何かあった時に助けてくれるのかな。

 志貴のこと信じていいんだよね。


 こんなに不安なの初めてだよ。
 今のわたしはいつものわたしじゃない。
 自分自身で暗示をかけて、能力を封印している。
 志貴の命令で。

 人間並みにしか、
 見る事が出来ない。
 聞く事が出来ない。
 嗅ぐ事が出来ない。
 目も耳も他の感覚も、人間並みに抑えられている。 

 志貴がキスしてくれたら、この暗示はとれる。
 
 怖いよ、志貴。

 目隠しをされて。
 誰も来ないと思うけど、こんな夜の公園に一人で。
 こんな格好で。
 首輪と目隠しをされて、下着以外何も身に纏っていない。
 素足で、四つん這いになっている。

 わからない。
 なまじ音や周りの空気が微かにわかるのが嫌だ。
 これなら完全に外と切られた方がマシもしれない。

 もちろん、わたしの強さはそのままだ。
 人間ならば何を持って来ようとわたしを害する事は出来ない。
 そこまでは弱くなっている訳ではない。

 それに、自己暗示だって強引に解除は出来る。
 何かあった時には、元に戻れる。
 
 でも、そんな事できない。
 志貴と約束したから。
 戻ってきた志貴に暗示を解いて貰うまで、このままでいるって。
 勝手に暗示を解いたりしたら……。
 志貴に怒られる。
 志貴に嫌われちゃう。

 だから、私はこんな心細い状態で自分で自分を縛っていなければならない。
 志貴に嫌われる方が、はるかに怖いから。

 でも、もう一つの命令。
 もしも誰かが、おまえに気づいて何かしても抵抗するなって。
 助けを呼ぶのはいいけど、絶対に手を出すなって。
 何をされても、それを受け入れろって。 
 そう志貴に言われて、わたしは約束させられた。

 来ないよね。
 誰も来ないよね。
 こんな時間に。
 もう夜も遅いし、人間は外へ出ないよね。

 不安。
 怖れ。
 やだよう。
 これなら 志貴に切り刻まれた時の方が、まだよかったよ。
 あの時も無力だったけど、今のほうが心細い。
 
 志貴以外の人に見られるのは嫌……。
 触られたり、変なことされるのなんて考えただけで寒気がする。
 なのに、志貴ったら、さんざん脅かして。

 こんな姿で夜に放置されていたら、男なら黙っていないよって。
 下着姿で首輪をされて目隠しまでして。
 変態だと思われるって。
 こんな女には何をしてもいいし、むしろ喜ばれるだろうって。
 大きなおっぱいを揉んだり。
 白い肌を舐めてべとべとにしたり。
 下着の中に手を入れられて弄られたり。
 全裸にさせられて、胸もお尻も見られたりされるって。
 志貴にしか見せた事のない処も、指で探られて開かれて。
 ピンク色の襞も、くすんだ色をしたお尻の穴も指や舌を突っ込まれて。
 硬くなったペニスを擦り付けられて、握らされて。
 体中を汚されて、全ての穴にペニスをねじ入れられて溢れるまで射精されて。
 他にもどんな目に合わされるかな。

 そんな事を言って、わたしが涙を浮かべてお願いだから止めてって懇願して
も意地悪く首を横に振っていた。
 そして、せめてそれだけは勘弁してと言うのも志貴は聞いてくれないで、目
隠しされて。

 
 
 え、何?
 足音?
 違うよね。

 でも、この音。
 志貴の足音かな。
 ああ、わからない。
 なんで人間はこんなので平気なのよ。

 志貴だよね。
 もうそろそろ終りにしてくれるんだよね。
 私のことキスして、よく我慢したなって言ってくれるんだよね。

「志貴?」

 返事が無い。
 なんで……?

 もう一度呼びかけようとしたけど、怖くて声を出せない。
 志貴でない、とわかってしまたら、と思うと。

 ああ、近づいて来る。
 誰かが近づいて来る。

 志貴だよね。

 違っても、志貴も傍にいてくれているんだよね。

 ああ。
 怖いよ。
 怖いよ。
 志貴……。








 そうか、こんなだったのか。
 アルクェイドの中で、アルクェイドの頭の片隅で、想いを共有している。
 その恐怖と、遠野志貴に助けを求める気持ちと、心細さを。

 目隠しを取れば、そこには遠野志貴がいるのを知っている。
 アルクェイドの泣きそうな様子と、怯える様をドキドキしながら見つめて、
異常なほど興奮している俺自身が立っているのを。

 自己嫌悪。
 こんな悪趣味な真似をしている俺ではない遠野志貴に。

 自己嫌悪。
 こんなに生でアルクェイドの痛々しい様子を感じているのに、その様にどう
しようもないほど興奮しているこの遠野志貴に。

 目に見えて怯えているアルクェイドの目隠しに手が触れる。
 本当は、このまま悪戯しようとして、さすがに止めたんだったな。
 
 目隠しが取れた。
 あんな目にあいながら、遠野志貴の顔を見て、ほっとした顔をして嬉しそう
にしているアルクェイド。
 俺の名を呼びながら涙を流している。

 キスをしてやった。
 慰めの為に。
 アルクェイドを元に戻す為に。

 抱きついたアルクェイドの柔らかい体の感触。
 それに名残惜しい気持ちを抱きつつも、俺の意識はゆっくりと消えた。
  

                         ……つづく


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