いつも式が言う太平楽な顔をしたままで幹也は動いた。
 そんな素早い動きではない。
 しかし、式、あるいは織にはとっさに反応できない。
 速さではなく、相手の呼吸を読んでいるが故の動き。

「ちょっと待て、幹也」

 体勢を崩しつつ、声を上げるのがやっと。

「うん、どうしたの、織?」
「どうしたのって、どういうつもりだ」

 織の体は背から倒れ、その上から幹也は体を手で支えつつ被さる様に覗き込
んでいた。
 少し困ったような顔をする幹也。

「どういうつもりって言われても……」

 ベッドの上で幹也の顔を見上げている織。
 四つん這いでベッドを撓ませて、織に体を重ねようとしている幹也。

「普段通りだよね?」
「だよねって。俺が式でないのは知ってるだろ」
「もちろん、君は織だよ。いや、さっきの説明だと正確には違うのかもしれな
いけど、僕は僕の知っている織だと思っている」
「それなら、男同士だって事も理解しているよな」
「理解しているよ」
「だったら……」

 幹也は無造作に織の唇を奪った。
 軽く、触れるだけの優しい口づけ。

「こうされたかったんだろ、織は?」
「……」
「式と同じように、違うの?」
「違わない。でも、平気なのか、体は女だけど、俺は……」
「そうだね。僕は式も織も好きだし、それは男だからとか女だからとかは関係
ないよ。もし織の体が男の体だったとしても、同じように織が好きだったと思
うし、式の事も好きになったと思う」
「そう……、なのか?」 
「うん。実際にそうなった訳じゃないから断言は出来ないけど。だから、今の
織は全然問題ないけど?」
「怖い男だな、お前は……」
「そうかな」

 言いながら、頬に、耳に、唇を触れさせる。
 身じろぎはするものの、織は決して嫌がってはいなかった。
 そして再度、幹也は織と唇を合わせた。
 織の上唇を唇で啄ばみ、そして強く口づけする。
 さっきよりも長く。
 
「じゃあ、織は僕の事嫌いかい?」
「……嫌いじゃない」
「それじゃ、こうされるのは?」
「ああッ……」
「ねえ、どうかな」
「……嫌じゃ、嫌じゃ……、ない」
「嬉しいよ、織」

 いつの間にか幹也は上半身をはだけていた。

 そして、息を乱す織に身を寄せていった。







 ……という情景を眺めていた。
 こういう他人様の秘め事を眺めるのは、悪趣味だけど視点が変えられない。
 今の俺は何なのだろう。
 どうも、二人の心の内までときどき洩れ聴こえる。
 
 このまま、最後まで見るのか。
 わあ。
 ええと……。
 ふうん。
 これは……、憶えておこう。

 しかし、何と言うか、この。

 え?
 急に変化が起こった。
 目の前の二人にではなく、こちらに。
 急に、そこから追いやられるというか、喩えるなら、首根っこを捉まれて持
ち上げられるのにも似た感触。

 そして、放り出された。


                         ……つづく



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