「おまえなんか喰ってしまうにゃー」

 怖くはないが、あの歯ならあっさり皮膚なんか破るだろうなあ。
 何故か、こんな状況にありながら、恐怖や緊迫感がほとんどない。
 なんだか笑いすら出そうになる。
 これが麓の村や町脅かし、何人も取って喰っている化け猫?
 そう思うとふつふつと……。
 
 さすがに、身動きできず、危機が迫っている今はそんな真似はしないが。

「なんで、怖がらないにゃー」

 不審に思ったのか、そいつは威嚇するように振り上げたにょきりと爪を剥き
出しにした手を下ろして、俺の顔を覗き込む。

「うーん、なんでだろ。痛いのは嫌だし、殺されるのも嫌なんだけど」

 うーんと首を捻りつつ、そいつの顔を覗き込む。
 確かに考えていたのとは違うよな。
 もっと毛だらけで凄い形相なのかと思っていたけど。
 煌びやかな女物の着物を着ているのでよくわからないが、うっすらと柔毛は
あるけど獣っぽく全身ふさふさなわけではないようだ。
 顔なんて、申し訳程度にヒゲがあるけど、耳がなければ人間と変わりない。
 いや、その耳すらぴくぴく動いているというのに、作り物めいて見える。

 なんと言うか、そもそも俺にはこの猫又が化け物に見えない。
 不思議だけど、なんだか全然怖くない。

「おまえ、猫又だよな」
「そうにゃ」
「それで、もう何人も惨たらしく旅人を殺して喰らう化け物なんだよな」
「そんな事はしてないにゃ」
「そうなの?」
「にゃ」

 あれ、話が違う。

「だって、俺も殺してばらばらにして頭からバリバリ喰らうんだろ?」
「しないにゃ。脅かしてちょっとばかり半殺しにして、里に返すつもりだった
にゃ。何度もうるさいから」
「そうか。どうも考えてたのと違って、外観可愛い女の子だし、あんまり迫力
ないし、信じられなかったんだけど」
「にゃ」
「うん?」
「可愛いって本当にゃ?」
「ああ。まあ耳とかあるけどけっこう、いや可愛いと言うより、綺麗な顔立ち
だな。髪も長いし」
「にゃ、にゃ、何言うにゃ、にゃー」

 照れてる。
 猫又とは言え女の子って事か。
 ぶたれた。
 痛い。
 力自体はあるんだなあ。
 
「気分いいにゃ。じゃあお前は喰うにゃ」
「ちょっと待て」
「にゃ?」
「今言ったばかりだろ、人間は殺さないし、喰わないんだろ」
「そうにゃ」
「じゃあ、……って何をする」

 器用に猫又は、俺の着物を剥ぎ取る。
 紐の結び目もどうやるのか解いてしまう。

「にゃ、それなりにゃ」
「もしかして、喰うってそっちの事か?」
「精を貰うにゃ。お前も悦ぶし、いいにゃ」
「でも、おまえ猫又だろう」
「文句あるにゃ。別に良いんにゃ。お前のをこうやってちょん切ってちゅうち
ゅう吸ってぽいでも構わないにゃ。そうするかにゃ」
「待て、待て。それは勘弁してくれ」
「にゃ、縮こまったにゃ」
「そんな話聞けば、どんな男だってそうなる」
「仕方ないにゃ、黙ってまかせるにゃ」

 猫又がぺたんと地面に伏して、俺の縮こまった肉棒を手に乗せる。
 どうするかと思ってみていると、舌がちろりと舐めた。
 それから、ぺろぺろと舐め始める。
 これは……。
 気持ちいい。
 手の感触も、人とは違ったざらついた舌も。
 思わず声が出そうなほど、快感をもたらしてくれる。
 だんだんと大きくなっていくのを猫又は嬉しそうに見て、さらに四方八方か
ら舐めまくる。
 熱をいれて。
 ちろちろと舌先で亀頭を舐めまわし、先っぽから露が染み出すと、ちゅーっ
と吸う。
 と、猫又の顔が離れてしまう。
 悪戯っぽくこっちを見る。

「猫もいいにゃー?」
「あ、ああ」
「気持ちいいにゃー?」
「うん……。その舌、たまらない」
「うにゃ」
「ああ、うん、いいよ……」

 また、猫又は口戯を再開した。
 実際、かなりの快感だった。
 化け物だと思っても、ほとんど人間と変わりない姿。
 すんなりとした体は柔らかく暖かいし、獣くさいというより日向くさい匂い
がするのは決して不快じゃない。
 猫の耳や着物からのぞかせた尻尾も、慣れれば可愛く見える。
 発情したのを隠さずに、しきりに体を擦りつけ、頬ずりしてくるのはこちら
にも興奮を伝播させた。

 そして嬉しそうに俺の肉棒をしゃぶっている。
 激しく動かす口と舌。
 どこで憶えたのだろう。
 舌が人のものとは違って多少ざらざらとしている。
 その分、巻きついたり擦り上げる時の刺激が、摩擦が大きくて、堪らず呻き
声をあげた。
 特に、亀頭の先をじゅりぞりと舐められた時の凄さ。

 時々顔をあげると、綺麗な顔だが、やはり人間とは違っていて、特に口から
覗く鋭い牙は、それで噛まれたらと思うと恐怖心すら起こる。
 しかし、亀頭がその歯に当たったりすると、異様な興奮を誘った。

 ぽたぽたと口元から垂れていた唾液ごと、猫又は肉棒を強く啜った。
 肉棒のさらに奥まで届いた。
 
 びゅく、びゅくびゅくひゅく!!

 堪らず猫又の口の中で放った。
 目を細めて、猫又は精を啜り、呑み込んだ。
 精を放ったばかりの肉棒には痛いほどの刺激。
  
 ちゅぽんと猫又が口から肉棒を出した。
 てらてらと光っている。

 満足げな顔で喉を動かしている。

「すっごく濃くてたっぷりしていて美味しかったにゃ」
「そ、そうか」
「まだ、垂れているにゃ」

 猫又が顔を俺の股間に寄せる。
 舌を伸ばして、唾液混じりの精を舐め取る。
 その刺激に誘われて鈴口から出る残滓も嬉しそうに舌先でつつく。

 はぁはぁ。

 ぺたんと地べたに下半身を剥き出しにして腰を落として、そして猫又に肉棒
を美味しそうに咥えられる。
 なんだか悪い夢を見ているようだった。
 凄く気持ちの良い夢だったけれど。

 ふぅと息をついて、何とはなく手を伸ばして、猫又の頭を撫でてやった。
 昔飼っていた猫がそんなのを喜んでいたなあと思って。

「にゃ?」

 猫又が顔を上げた。
 ん?
 さっきまでの怖い顔とも、笑い顔とも、はたまた淫蕩な顔とも違っている。
 不思議そうな、でも嬉しそうな顔。

「どうした、猫又?」
「今の何?」
「何って……」
「頭触って何をしたにゃ、変だったにゃ、にゃ」
「うーん、ただ撫ぜただけなんだけど。こうやってさ」

 もう一回手を触れる。
 さっきは下を向いていたけど、今度は猫又はこっちを見ている。
 撫で撫で。

「……」

 猫又は無言。
 でもちょっとくすぐったそうな顔は、嫌がっていないようだ。
 もっと撫で撫で。

「気持ちいいの?」
「にゃ」

 猫又はじっと考えている。

「昔、昔、まだ猫だった頃の、忘れてしまった昔に、こんな風に……」

 ああ、猫だった頃の飼い主でも思い出したのかな。
 猫又も元はただの猫だと言うし。

「よし、おまえは気に入ったから、飼ってやるにゃ」
「ちょっと待て。猫に飼われるのか?」
「ちゃんと餌もやるし、いい事もしてあげるにゃ」
「うーん。でも俺が戻らないと今度は討伐隊が出るし。おまえ猫の姿にはなれ
ないの?」
「なれるにゃ。でも猫の姿にして逆襲しようとしても無駄にゃ」
「いや、そうじゃない。じゃあ、おまえが一緒に来ないか。少なくとも此処に
はいない方がいいし、本気で殺しあいたくないんだ、変だけど」
「私が飼われるにゃ。……面白い。しばらく一緒にいてやるにゃ。ただし他の
猫に色目使ったら容赦しないにゃ」
「いいよ、他の猫には浮気はしないで、お前を……」


 ―――だめ。

 え?


 リン、リン、リンンンンン……。

 鈴の音?
 どこかで聞いたような。

 確か、これは。
 答えを口にする前に、意識が……。

 
                         ……つづく
 

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