そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

旅行記1『窓越しのヨーロッパ』
(西欧ハイライトの旅)

11 添乗さん大忙し

 添乗員の渡辺さんはよく気がつき、よく働く。
 空港では搭乗手続き、座席の割り振り、荷物の世話。ポーターがいなければ大きな重いスーツケースの積み降ろし(正月なのでポーターも休んでいる)。ホテルでは部屋の割り振り、スケジュールの連絡。昼の観光案内はガイドが中心となるが、度々の人数確認、点呼。だれかいない人があればすぐにその対策。レストランでは食事の注文とメニューの発表、飲み物の世話。支払いが終わればバスへの連絡。多分会社との連絡・報告もあろうし、眠る時間もないのではないか。

 大人の、しかもいずれもかなり年輩の我々のグループであるから、何かと注文も出る。ホテルの彼女の部屋への電話も度々あるらしい。
「せっかく班を決めているのだから、人数確認くらい班長にさせましょう。」そんな声が出て、3日目からようやく班ごとの点呼となったが、まさしく大いそがしの添乗さんであった。
「30人のグループを一人で見るのは大変でしょう。」
と言うと、
「120人を1人で見たこともあります。その時は本当に大変でした。寝る間もないくらいで、終わったら疲れがどっと出て休めるかと思ったら、体が丈夫なもんで、なんともなかったんです。」
いや、さすがわれらが添乗さんである。

 3日目の夕方ローマ発のアリタリア航空AZ210便は悪天候のためか二時間遅れた(なぜ遅れるのか、言葉のわからない我々はじっと待つのみである)。ロンドン着は夜の10時。入国審査後スーツケースが出てくるのを待つ。ところが、2周,3周してもグループの高城さんのスーツケースが出てこない。しばらく待って渡辺さんは全員を集めた。
「皆さんに協力してもらわなければならないことができました。スーツケースが一つ不明です。これから番号を読み上げますので、皆さんのスーツケースの番号を確かめてください。」

 こんなときには結構緊張し、何となく団結力も強まる。渡辺さんは行方不明になっている高城さんのスーツケースの番号を確認すると、すぐに空港の係りに届け出。我々はロンドンのお手伝いガイドとバスへ。

 判断力と行動力、特にこんな場合のとっさの判断が添乗員には必要なのだろう。努力の甲斐あってか、スーツケースは幸い2日後に出てきた。原因は私たちに知らされなかったが、こうした場合出てこないことも多いという。

 海外旅行になれない私たちのグループの人たちは、こんな彼女の努力に甘えて、自由行動の最後の最後まで渡辺さんにくっついて歩いていた。