そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

旅行記1『窓越しのヨーロッパ』
(西欧ハイライトの旅)

3 キヲツケテ ジプシー

 ローマ・コロッセオの帰り、ホテルの近くで店から顔をのぞかせているおじさんが片言の日本語で繰り返し言う。「キヲツケテ、ジプシー。」
 何のことかと回りに目をやると、少し前の道路横に数人の人たちが見える。手には新聞紙を持っている。特に変わった様子はないが、ガイドの言葉を思い出した。

── イタリアの治安が悪いことの一つに、ジプシーの存在があります。彼らは郊外に生
 活している無国籍の集団です。国籍がありませんから、定まった職もなく、町に出てき
 ては、すり、かっぱらいなどの犯罪を繰り返しています。 ──

 さっと緊張しながら、すばやくそばを通り抜ける。幸い彼らは私たちに何もせず見過ごした。ホテルに入るとそれが話題になる。私たちより少し前を歩いていた人に、彼らは近寄ってきたという。「何をするんだ。」と言って避けたため、被害にあうことはなかったと、私たちのグループの一人は話していた。

 ジプシーとは異なるが、香港でも、豪邸があるかと思えば、すぐ近くには貧民窟があった。中国・桂林でもインドネシアでも「センエン、センエン」と日本人観光客に迫ってくる物売りの群れ(子供たちを含めて)があった。日本人は生活程度が平均して豊かな方で、最初の海外旅行ではこんな光景に驚く。世界のいたるところ貧しい人たちがいることが、ちょっと旅をしてみるとわかる。

 確かにジプシーはイタリアの治安をおかしている原因の一つではあろうが、そこには、もっと地球規模で考えなければならない大きな問題があるのではなかろうか。