そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

旅行記1『窓越しのヨーロッパ』
(西欧ハイライトの旅)

5 ナポリは見たが

 ローマから2百キロ、ポンペイの遺跡見学のあとナポリへ。

「ナポリを見て死ね」とまで言われる風光明媚な町。「帰れソレントへ」は、高校時代に習った歌だったと思うが、どんなところかと興味をひかれた。

 イタリアは治安が悪い、特に南部はよくないという。同じイタリアでも南部と北部は経済状況がずいぶん違うらしい。北部は工業を中心として産業が盛んであり、ミラノ、ローマ、ベネチア、フィレンツェなどの大都市の人々の暮らしもよい。しかし、南部のナポリ、シチリアなどは第一次産業を中心とする後進地域であり、人々の生活状態も悪い。北部のイタリア人には、南部を切り捨てて北部だけで独立しようかという政党もあるそうだ。加えて前に述べたジプシーなどの存在もあるから、うかうか外も歩けないというのだ。

 地中海に面する町。クリスマスを終えて、10年ぶりの寒波が襲った年末のナポリの町にはあまり人通りはなかった。「パンツ通り」(陽気なナポリの住人が、洗濯物をビルからビルに渡って干していることからついた通りの名)はその名の通り洗濯物が干してあるが、バスから降りてはならないという。ここは全て車窓見物。1箇所だけ写真を写すところを設けてくれただけだった。

 ソレントは遠くかすんで見えた。地中海は穏やかだった。だが、何かわびしかった。私たち観光客に対して十分に気を遣っているのではあろうが、見たいのに、知りたいのにと満足できない状態のままであるような気がする。もちろん治安が悪いことは事実だろう。しかし、現実をもっと知らせてほしい、わかる環境を作ってほしい、そんなもどかしさを感じるナポリの車窓見物であった。