そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

旅行記1『窓越しのヨーロッパ』
(西欧ハイライトの旅)

7 日本人学校の校長先生

 私たちの旅行は、いちおう「全国教職員互助会」の名前で編成され、研修も含まれることになっている。しかし、こんな僅かな日程で研修もないもんだ、と思っていた。ところが、研修はきっちりと組まれていた。

 ローマ日本人学校の尾島重明校長先生は、まだ1年にならないローマでの生活を、たんたんとした調子で一時間ばかり語った。

 まず、イタリアが世界有数の観光地であることを話した。その理由として次の10項目をあげた。これは何かの雑誌から引用したものだったと思う。
 1 暖かい(今年は特別寒かったのだが、例年は年中暖かい)
 2 美術、考古学の宝庫である(間違いない。町じゅう博物館だ)
 3 壮大な風景、さまざまな文化(日本に似て南北に長い国だからこれも言えよう)
 4 豊かな経済力(特に北部が豊かではあるが、では、南部はどうか。彼は「イタリア
  の経済は測れない」とも言った。隠し持った財産は分からないという)
 5 おいしいワイン、料理(味わい尽くすことはできなかったが)
 6 親切(道をたずねれば、だれでも丁寧に教えてくれるという。ただし、それが正し
  いという保証はない、とも言う)
 7 比較的安全(これはちょっとこれまで聞いていたのとは違う)
   物価が安い(生活用品は安いと思う)
 8 交通の便がよい(道路だけでなく地下鉄等も便利)
 9 観光案内が行き届いている

 校長先生は、イタリアの国がら、人がらを次のようにも話した。
「イタリア人がもっとも信じているのは神、次は家族。『マンマミーヤー(母ちゃん助けて)』に代表される家族の強い絆。自殺はヨーロッパで最も少ない。信じていないのは政府、役人。だから首相は1年間も持たない。しょっちゅう変わっている。また、イタリア人は陽気でよくしゃべる。学校での試験は筆記による知識・記憶の検査よりも口述試験が重視されるため、普段からしゃべる訓練ができている。あまりしゃべらないのを美徳としている日本人が,こんなイタリア人と討論して勝てるわけがない。」

 本論であるイタリアの教育制度、日本人学校については、少し時間がなくなってしまったが、レジメをもとに話をされた。 最後に質問の時間をとった。
「校長先生は年末年始に帰国されないのですか。」
「帰国する理由がありません。だれか亡くなれば別ですが。」

 日本人学校の校長先生も大変だ。2・3年は国を捨てたようなもんだ。もっとも、まだ1年もたっていないこちらでの生活、行き帰りだけで3日間はかかる旅になる。そこまでして帰らなければならない理由は確かにないのだろう。