(アンコールワットの旅) |
10.ガジュマル 200もの遺跡には、さまざまな歴史がある。前にも述べたように数百年のときを経て、崩壊の危機にさらされているものも多い。中には人為的な破壊もあるのだが、自然の力による崩壊も多い。 「放っておくとこんなになりますという見本です。」 と案内されたのが、ガジュマルによる崩壊の遺跡(タ・プローム寺院)であった。 アンコールの都がクメール人から放棄され、フランス人によって発見される(という説に従うなら)までの約400年間にジャングルは建物の周囲を覆いつくした。熱帯という環境は生物の生育にはもってこいの場所である。 ガジュマルは熱帯・亜熱帯に自生するクワ科の高木で、高さ15から20メートルにもなり、成長が早い。漢名榕樹。気根も地表を這いまわって太く大きく育つ。この遺跡はガジュマルによって崩壊寸前になっていた。遺跡の内外に芽を出したガジュマルが幹を太らせ気根を伸ばし、建物を抱えこみ、そのまま成長を続けたのである。 木が幼いうちならどうにでもできたであろう。木の数も1本や2本なら何とかなったかもしれない。しかし、何百年という時間が流れ、もうどうにもならない状態になっていたのだった。 まるで遺跡を養分にして成長をしているみたいだ。 実は私の家にもガジュマルが1本ある。ちょっと葉が違っているみたいだけど、インドネシアでこの木を見て、帰ってから店で見かけたので、旅を思い出す材料にと思って買ったものだ。今は10号鉢に植えてあって、高さも50センチほどしかないのだが。 そのうちに気根が鉢を乗り越えて我が家も………。 |