そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

旅行記5『赤い土・赤い水』
(アンコールワットの旅)
12.ガイド

 旅の善し悪しはガイドで決まる、とはどこかで書いたような気がするが、その通りだと思う。特に海外では、私たちのように日本語以外はほとんど分からない旅行客にとっては、日本語ペラペラのガイドに会うとそれだけで救われたような気になる。旅行全体が楽しくもなる。
 また、一生懸命やってくれるガイドも好感が持てる。まあ、何でもそうなのかも知れない。

 カンボジア・シェムリアップのガイドは、日本語は決してうまいとは言えなかった。名前も何度か教えてもらったのだが、どうも発音がはっきりしなくてどうしても覚えられなかった。自分でも日本語にはまだあまり自信がないのか、ときどき、
「私の言うこと分かりますか。」
と、私達の顔をのぞき込むようにして尋ねる。どうも反応が怪しいと思うらしい。
「ええ、だいたい分かりますよ。」
とは言うが、実際説明が半分も分からなくて、いい加減に答えていることが多い。

 彼は高校卒業(はっきりは分からない)で学校に勤めたらしい。しかし、学校の先生では給料が安くて食べられない。
「カンボジアの先生は1日4時間(カンボジアの学校は午前4時間、午後4時間。子どもも先生もどちらかだけ登校)で月に30ドルです。」
「えっ、たったそれだけ。厳しい。」
「日本ではどれくらいもらいますか。」
「1800ドルから2000ドルかなあ。」
と、いい加減に答えたが、実際にはもっと多い。
「30ドルでは生活できないから、アルバイトをします。私は働きながら 日本語学校に通いました。
 シェムリアップの日本語学校は、千葉県のYさんがつくった。私はYさんに日本語を習ってガイドになった。」
 そうか。大変な苦労をしているのだ。
「今回のガイドで4回目。まだあんまり上手ではないけど、仕事があれば
 一生懸命します。そうすればきっとうまくなると思います。」
 
彼は私たちに日本のことをいろいろ尋ねた。私たちは彼からカンボジアのことを聞き、彼は私たちから日本語や日本のことを学んでいるようだった。しかし、この気持ちでなくちゃ。将来きっといいガイドになるだろう。