そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

旅行記5『赤い土・赤い水』
(アンコールワットの旅)
15.田んぼ・蟻塚・民家

 シェムリアップもちょっと郊外に出れば田舎である。田んぼが一面に広がる。タイ・バンコク付近の田んぼはきちんと耕地整理されていたが、カンボジアのこのあたりの田んぼは、さまざまな形、さまざまな大きさである。田植えをして間がないもの、今田植えをしているものとこれもさまざま。以前インドネシアに行ったとき、いつ田植えをしてもよいと聞いていたが、ここもそうだろうか。
「年何回田植えをしますか。」
と聞くと、
「1回が普通です。2回のところもありますが。」
とガイドが答える。インドネシアとは緯度も違うから、気候も少し違うのかもしれない。牛を使い、人手に頼る農業である。牛はこのあたりかなりの頭数飼っているらしく、遺跡見学の途中に、車は何度も牛の群れに出会った。

 田んぼの所々に小さな山が盛り上がっているのが見える。
「蟻塚です。」
と教えてくれた。広辞苑で調べると、
 【ありづか(蟻塚) アリが地中に巣をつくるために地表に持ち出した土砂でできた山】
とある。最初は木の根が残ったところに蟻が住みつき、次第に土が運びだされるらしい。高さ1メートルくらいのものもある。

 民家を訪れることがこの日最後の見学だった。
「町の民家がいいですか。田舎がいいですか。」
とガイドが聞くから、「田舎がいい」と答えると、
「日本のお客様はみな田舎がいいと言います。」
 日本の田舎は過疎なのに、日本人(私を含めて)のこの田舎志向はなんだろう。
 小さな農村に着く。車が停まると子ども達が集まってきた。小さな子から中学生くらいまで10人以上もいる。鶏もいる豚もいる。雨が降った後で、水たまりのあるところをはいはいしている赤ちゃんもいる。
 母屋があり、物置があり、牛小屋があり、インドネシア・バリ島で訪れた農家とよく似た造りになっていた。中に入って見るかと思っていたが、外から見ただけで終わった。

 雨上がりの道路には赤い土の泥が流れ込んであちこちに赤い水溜りを作っている。この赤い土はラテライト(紅土)という熱帯特有のもののようだ。アンコール遺跡も砂岩とこのラテライトでできたものである。

 赤い土、赤い水、何十年の戦争の苦難と平和を願う人々のふつふつとした思いがこもっているような、そんな気がしてならない。