そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

旅行記6『輝きは驟雨(スコール)の後に』(マレー半島の旅)

6.セランゴール川のホタル観賞

 ガイドブックには出ていなかったが、観光客にはかなり人気の高いもののようだ。ガイドの説明によると、三十数年前にこのホタルの地が明らかになったという。従ってまだ十分に知れわたっていないのかも知れない。インターネットで検索すると、相当数の情報が出てくる。私たちにとっても今回のマレー半島の旅で楽しみにしていたことの一つだ。
 クアラルンプールから車で北北西に約1時間半(100キロくらいだろうか)突っ走る。郊外の道路だから、かなりひどい揺れ。途中、猛烈なスコールにあった。ガイドは言う、
「心配ない、今日はいいホタルが見える。」
 雨が多いせいか高床式の建物がある。インドネシア・バリでもカンボジア・シェムリアップでも見た風景だ。しかし、道路に面した家は少なく、建てかけのビルは多いが、人は住んでいるとも見えない。それなのに広場では食事をしている人たちが目立つ。いったいこの人たちはどこに住み、何をしているのだろうか。
「自分の家では食事をしないのですか。」
「いや、します。でも、時々こんな所で食事をする。自分の家で作るものは限ら
 れているから。」 
 セランゴールに入って、小さな食堂で夕食。家族で経営しているのか女の子が客席の方にきて遊んでいる。ここの海鮮料理はおいしい。最初に椰子も1個6リンギットで出てきた。中の水は冷たく甘くうまい。2人で飲みきれないほどたっぷりある。焼蟹もある。から揚げ、炒め物のエビも出てくる。
 ガイドによると材料が豊富で新鮮でとてもおいしい店だそうだ。最後にデザートとしてひげのある果物が出てきた。タイでもインドネシアでも食べたことがあった。
「名前は何だったかな」店の人が答える「ランブタン」そうだ、以前聞いた名は「ランブータン」、どっちだろうと甘くおいしい。しかも8つもある。
 店を出て少し走って観光船乗り場につく。観光客のほとんどが日本人である。ホタル観賞なので船は暗くならなければ出ない。虫除けスプレーをもって日暮れを待つ。

 船は8時ごろ出発。みんなが虫除けをしたらしく、スプレーの匂いが強い。船は音もなく進む。充電式の電動モーターで船を動かしているのだそうだ。10人ほどの乗船者もホタルを驚かさないように息を潜めている。数隻の船が静かに静かに進む。
 船が川岸に近寄っていく。
「いる。」「あんなにいっぱい。」
 乗っている人たちのささやきが聞こえる。川岸のホタルの木(とガイドは言った)に何百か、いやもっといるのか。ホタルが点滅している。クリスマスツリーの明かりのように、お互いに合図して明滅をそろえているのか、呼吸が同じリズムなのか、ほとんど同時に光り、消える。カメラはフラッシュ禁止(もちろんフラッシュを使ったらこの明かりは映らない)、デジタルカメラの機能をいっぱいに上げてなんとか映そうとするがこの小さな光りはとらえられない。
 日本の平家ボタルより小さいくらいのホタル。川岸に沿って数百メートルにわたって生えているホタルの木に、いったいどれだけの数いるのだろう。
 まさに幻想的な世界を、船の人たちは声を潜めながら見入っていた。