9.マラッカ 2
昼食は大きなホテルのビュッフェで洋風バイキングだった。妻は香辛料に弱く、これまでの旅行でも「これは食べられない」ということが多かったが、私はヨーロッパはあまり好きでない。というよりもあのフォークとナイフでカシャカシャやるのが面倒くさい。ところが全体を見てきた妻が言う。
「きしめんがありますよ。」
じゃあちょっと食べてみるか。ボーイにいろいろ聞きながら取ってきて一口。
「辛い。」
唐辛子がきいて恐ろしいほどの辛さだ。それが売り物かもしれない。
マラッカはマレーシアの歴史を閉じ込めたような小さな町である。ホテルから眺めると、一方通行の道が多く車がグルグル回っている。
マラッカ海峡のサンセット見物に出かけることになった。ホテルから少し離れた突堤まで行く。突堤から街を見ると、同じような赤い屋根の家がずらりと並んでいる。アパートのような長屋も多い。そういえば昨日ホタルを見にいった途中にも、そんな建物をたくさん見た。
「新しい町を造っているんですか。」
とガイドに聞くと、
「人が住んでいるところは余りありません。工事
が途中で止まっているところもたくさんあります。会社(と彼は言ったが、それ
が国なのか州なのか、住宅会社かは不明)が入居希望をとって建て始めるのです
が、景気が悪くなって途中やめになってしまいます。」
生活は月に日本円で3万円あれば最低何とかできるが、10万円はほしい。でもなかなかそんな収入は得られない。戦火がようやく収まったカンボジアほどではないだろうが、いずこもなかなかたいへんだ。
マラッカ海峡のサンセットが始まった。雲が少し出ているが、夕日を見ることには差し支えなさそうだ。カンボジア・シェムリアップでは、丘の上からみんなが、見えるはずのない曇り空の夕日に向かっていた去年のことを思い出す。
「きれいでしょう。」
とガイドが言う。
「日本の夕日もすばらしいですよ。」
実際、日本海の日の出、日の入りはきれいだと私は思っている。山陰のサンセット、サンライズは、私がこれまで見たどこのものより美しかった。もっと宣伝して世界に売り出しても、自慢してもいいんじゃないかな。
日は落ちた。一緒に来ていた新婚さん(かな)が、「明日はサンライズも見に来よう。」と話している。ちょっと待ってよ、明日は確か早起きのはずだった。マレー鉄道の旅だったはずだ。
夕食は近くのレストランで鍋料理。ホテルでテレビの日本語放送がない。ちょっとさびしい。 |