そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

海外旅行二人連れ『アルプスの山々の語らい』

4.氷河を越えて
 ツェルマット発8時10分,マッターフィスパ川の渓谷を見ながらアンデルマットに向かう。断崖絶壁と白濁の激流,マッターホルンから次第に離れて,赤い車体Furka-Ober alpは,片方に深い渓谷,もう一方に葡萄畑の広がる柔らかな緑の大地へと出ていく。

 車内は1ボックス4人掛けになっていて,我々のグループは2人か4人組なので,うまくまとまって座ることができる。私達の前には中尾さん夫婦が座る。
「海外旅行はよくなさるのですか。」
と,まずは旅行の話から始まる。
「そうですね。ヨーロッパ,アジアではマレーシアやカンボジアにも行きました。」
「カンボジアはいつ頃ですか。」
「2・3年前になりますか。」
「じゃあ,もう治安もよくなってからですね。私たちが行ったのは仕事でなんですが,まだ内戦の頃で大変でした。」
 この旅行に参加しているのはだいたい似たような年令の人が多く,現職の人はこの中尾さんだけだろうか。ほとんどが,退職して,子どもも独立して,時間的にもゆとりができて,今のところまあまあ元気な人という感じだ。

 そうしている間にも列車は氷河から落ちる滝を見上げたり,深い谷底を見下ろしたりしながら走る。川もツェルマットを流れていたマッターフィスパ川からローヌ川の本流に出て,流れに沿いながら上って行く。
 オーバーヴァルトから新フルカトンネルををぬけて,アンデルマットに到着。ここはこの鉄道の中間点。氷河特急はサンモリッツまで行っているが,私たちはここからバスで峠を越えてインターラーケンに向かう。

 アンデルマットからフルカ峠,グリムゼル峠,スーステン峠を越えてアンデルマットに帰るという「スイスの氷の屋根」コースもあるらしいが,私たちはフルカ峠からグリムゼル峠からインターラーケンに向かうことになるようだ。なにしろ地名がはっきりわからないまま説明を聞き,ガイドブックをめくっているので,ひょっとすると多少間違いがあるかもしれないが,そのときはお許しを。

 フルカ峠は標高2431m,ここではローヌ氷河の中に入ることができる。
 バスから降りて歩いて2・3分,氷河の上にかかる木の橋を渡って,氷河を20mほどくりぬいた氷のトンネルである。氷は青く透き通って,冷たい。とけた水が流れ落ちているところもあり,夏とは思えぬ寒さだ。外に出ると,水が上から流れ出しているところがある。手ですくってなめて見る。冷たく心地よい。
 ここの氷河も,以前はもっとずっと下の方まで延びていたそうだが,温暖化現象の影響か,どんどん後退しているという。

 フルカ峠を後にして下り坂,谷の底にある村から振り返ってローヌ氷河に別れを告げ,グリムゼル峠(2165m)へ。3つのダムを見ながらアーレ川沿いに下っていく。

 インターラーケンは,ユングフラウ周辺観光の玄関口になっている。駅前付近には土産物店も多くちょっと賑やかな通りになっている。バスはまず免税店に寄った。土産を見て回るが帰国はまだまだ先のことなので少しだけ買う。生チョコを買う予定だが,日持ちがしないのでベルンかジュネーブがよかろう。味見はタダなのであれこれ食べてみる。おいしい。
 店の前は芝生の広場になっていて(へーエマッテ公園),ずっと向こうにユングフラウが見える。パラグライダーの着陸地になっているらしく,次々と降りてくる。

 夕食は免税店のすぐそばのカジノ・クアザールでとることになっていた。いったんホテルに入り,少し休む。
 広い部屋だが,冷房はない。シャワーでも浴びようかと風呂に入ったが,シャワーが出ない。どうも故障しているようだ。仕方がないのでバスタブにためてかけることにしたが,どの部屋も使っているらしくチョロチョロとしか出ない。たまった分だけタオルでかけて終わることにした。

 この旅行,どうも風呂のトラブルが多い。最初のジュネーブのホテルでは,シャワーの熱湯で足に軽い火傷をしてしまった。湯の出方が少なくシャワーが止まってしまうので,思いっきり出したら足の甲めがけて熱湯が噴き出したのだ。すぐに水をかけたが,赤くなってしばらくひりひり痛んだ。

 音楽ショーを見ながらの夕食。日本人客が最も多く,中国人,韓国人もいる。欧米人はほとんどいない。この店がそうなのだろうか。
 ショーはアルプスホルンなども登場し,この規模ならまずまずというところだが,できればこうして何ヶ国かの人が集まっているのだから,それぞれの国の音楽など,演奏したり歌ったり,みんなが参加できるようにするともっと楽しいだろうにと思う。

 夜,暑いので窓を開けて寝ようと思ったが,斜めに数pしか開かない(そんな仕組みになっている)。それでもベランダがついているので出入り口の戸を開けたまま眠った(ベランダのない部屋はとても暑かったそうだ)。
 夜中12時ごろ外で大きな声がするので目が覚める。ベランダに出て様子をうかがうと,通りの方で酔っ払いか何か騒いでいるらしい。空を見上げると赤い星が一際明るく見える。
「火星だ。」
 外がうるさいから戸をしめて寝たら,やっぱり暑く寝苦しかった。

 4日目は世界遺産ユングフラウ登山観光である。(続く)