そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

海外旅行二人連れ『アルプスの山々の語らい』

8.フリブール・シヨン城・ローザンヌ
 フリブールはベルンとローザンヌの中間にあたり,ドイツ語圏とフランス語圏の境界になる。私は,大学では第2外国語でドイツ語をとったが,どんなことを習ったのか,ほとんど覚えていない。
「『イッヒ リーベ ディッヒ』くらいですかねえ。」
と,多分同じような経験をしてきたであろうグループの人たちと話し合う。
 しかし,ここに生活する人たちにとってはいろいろな面で問題もあろう。道路標識一つとっても,ドイツ語の標識からフランス語の標識へと変わるのである。学校教育で3カ国語を学習するようにしているのは,必要に迫られてということなのだろう。

 この地方にも美しい町が多い。
 町づくりに対する考えなのだろう。どの州もどの町も家を花で飾っている。ゼラニュームを窓辺やベランダにおいているところがほとんどだ。美観が主目的だが,虫除けの役も果たしていると言う。そういえば,レストランなどでハエをよく見かけた。特にアルプスの辺りはそうだった。やはり,牛や羊が多いからだろうか。
 花で町をきれいにするために補助金も出しているという。種や苗や土や肥料,鉢などの器材に対してだろうから1件当たりはたいした額でないだろうが,町全体・州全体となると相当の費用だろう。しかし,きれいな町づくり,国づくりには惜しんではならないお金だと思う。

 古い町並も多い。ベルンのような世界遺産でなくても,赤い石の瓦(瓦と言うかどうかは分かりません)の屋根の家が多い。
 フリブールの町は,聖ニコラ大聖堂から少し歩いたところのツェーリンゲン橋からの川岸の眺めがすばらしかった。この町は駅周辺と川岸とでは標高差が90mもあるという。昔は高いところに住む人と,低いところに住む人との貧富の差があったそうだが,現在はないという。
 橋を渡りながら写真を何枚か撮る。対岸まで渡って後ろを見ると誰もいない。

 ツェーリンゲン橋から店を覗きながら集合場所へ帰る。この地の景色を描いた風景画を売っている店があった。何か記念に買えたらいいな,と思ったが,200フラン(1万7千円)以上はするようだ。我が家のトイレ美術館にはちょっと似合わない。

 シヨン城は,モントルーからバスで10分ばかりのところにあるレマン湖畔の古城である。レマン湖に突き出した岩の上に建っている。雨になりそうな空を少し心配しながら橋を渡って入ると建物の方から,
「吉村さんは,どこですか。」
と,女性の声がする。この地在住の日本人らしい。
「シヨン城のガイドのケイコさんです。」
吉村さんから紹介があった。この旅行で現地ガイドを頼んだのはここだけ。ケイコさんはアルバイトのような形で,この地を訪れる日本人相手のガイドをしているのだろう。日本語のパンフレットもちゃんと準備していてみんなに配ると,ガイドを始めた。もちろん流暢な日本語で。

 この城,築城年代ははっきりしないようだが,12世紀以降の建造工事については古文書記録が残っていて明らかだという。この地方の領主の城だったらしく,部屋も設備も整っていたようだ。また,レマン湖畔の旧街道の関所のような役割を果たしていたらしい。さらに,詩人バイロンの「シヨンの囚人」(私は読んでいませんが)にあるように,牢獄としても使われていたようだ。牢獄と絞首台(複製)などもあり,ケイコさんの説明もなんとなく暗く迫ってくるものがある。
 外に出ると雨だった。シヨン城に幽閉された囚人の怨霊が降らせている雨かもしれない。振り返って改めて城の全貌を見る。スイスの国旗が塔の上にはためいて,なかなかまとまったきれいな城である。
 城のすぐ近くのレストランで昼食。

 レマン湖畔をバスは走り,ローザンヌへと入る。。
 ここにはIOC国際オリンピック委員会の本部がある。レマン湖を望むウシー地区のオリンピック博物館前で下車。自由行動になる。オリンピック博物館に入っている時間はないから町を少し歩く。
「ここからウシー城の方向に向かっていけば,豪華なホテルの庭などを通ることができます。」
 というので,その通りに歩いたつもりだったがそうはいかない。変なところに出てしまった。少し後返りして,途中で入り直してきれいな庭に出る。いちぢくが熟れている。妻は大好物なので,
「もらっておこうかな。」
「見つかって叱られても知らないよ。」

 湖岸の通りに出てカフェの外のテーブルに席を取る。ベルンではエスプレッソだったので,今度はカプチーノにしよう。
 また雨になった。
「通り雨だから,5分ほどでやむよ。やむまで待とう。」
 雨を避けて私たちのグループの人もやって来た。雨は降ったりやんだり,定まらない。それでもアルプスで雨にあわなくてよかった。

 今日はこれからジュネーブまで行くことになる。明日は早朝出発だろうから,お土産は今日のうちに買っておこう。吉村さんもその辺りは心得ていて,「店によりますから」と約束してくれた。(続く)