空の山通信11

No.575  小雨の中の観察会

 4月の自然観察会は網代海岸で行われた。網代は岩美町にある漁業の村で,山陰海岸の中でも風光明媚なところ,遊覧船も出ている。家からどれくらいの時間で行けるか分からなかったので,たっぷり余裕を持って車を走らせたら40分で着いてしまった。集合時間まで20分,観察開始まで40分もある。少し散歩しながら待つことにする。

 時間になって車を港まで移動させて,観察に出発する。村の後ろに迫る山に遊歩道が作られている。案内板を見ると「中国近畿連絡自然歩道」と書いてある。「どうして近畿?」と思ったが,よく読んでみて分かった。鳥取砂丘のほうから延びている「中国自然歩道」と兵庫県側の「近畿自然歩道」を連絡している自然歩道だというのだ。この網代から陸上(くがみ)を越えて兵庫県につなぐ16.5kmの道という。途中,鴨ヶ磯,城原海岸(いずれもこの会で観察した)など景色のよいところがたくさんある。
 霧雨が降っているがたいしたことはあるまい。しかし,傘,筆記用具,カメラと手に持つ物が多く,落とさないようにと気を使う。

 道を登りかけたところで早速観察が始まった。側に白い花が咲いていた。先生のお世話になって私たちの多くは図鑑(『原色植物検索図鑑』北隆館)を1冊持っていた(注文をとった観察会を欠席していた私は,他の人より遅れてこの日の帰りに手にしたのだが)。その使い方をこの花で説明しようということだった。
 離弁花か合弁花か,がくや花弁はあるか,おしべとめしべはあるか,子房は上にあるか下にあるか,など,順番に調べていって科を特定し,牧野富太郎の植物図鑑などで植物名を調べるというものだ。
 使い慣れないと時間がかかりそうだし難しいかもしれないが,家で時々は調べてみよう。
「ハマハタザオです」と先生が答えを出す。前にも聞いたことがあったような気がするがもっと背が高かったような気がする。「上に上に伸びて花を咲かせます。」なるほど,分かった。

 スミレがあちこちに咲いている。毎年この時期の観察会ではスミレの話を聞く。県内の山地に多い仲間に,タチツボスミレ,コタチツボスミレ,テングスミレ,シロバナタチツボスミレなどがある。それらが私たちの歩く道々たくさん咲いていた。
「皆さんも県下に四十種類も見られるスミレの一つ一つについて,もっと目を注いでごらんになりませんか(清末忠人『子どもと雀』より)」

 ちょっと寒く小雨の降る中,山陰松島とも言われる景色の海岸を歩きながら,自然を満喫した4月の観察会だった。