空の山通信11

No.587  シルクロード旅日記9

 ベゼクリク千仏洞はトルファンの北東38km,火焔山山中にある仏教石窟である。最盛期は9世紀,高昌ウイグル族がトルファンを支配していたころといわれる。現存する石窟は83,そこに残された仏像や壁画は当時のウイグル文化を知る貴重な資料であったが,イスラムがこの地を侵攻するに伴って破壊されてしまったものが多いという。
ここは洞内の写真撮影禁止。
「だめですよ。外から中を撮るのも同じことじゃじゃないですか。」
と,叱られているのは私たちのグループの1人。
 建物や景色を撮るのはかまわないので,火焔山の中のオアシスのような緑と,よくもまあこんなところに刻んだものだと思われる千仏洞を背景に写真を撮る。

 ところでその火焔山。「西遊記」に出てくる山である。
玄奘(三蔵法師)がインドに行く途中燃え盛る火焔山に行く手を阻まれて難儀する。その火を消す芭蕉扇(ばしょうせん)を手に入れようと孫悟空は持ち主の鉄扇公主と戦う。
火焔山は火山ではない。しかし,木の一本もない赤い山肌は,夏には気温40℃(岩肌の温度は70〜80℃にもなるのではないか)にも昇る陽炎によってちょうど赤い炎がめらめらと上がっているように見えるという。

 トルファンに引き返す途中何本もの鉄塔が立っているのが見える。
「あれは油田です。このあたりの地下には石油があります。ほら,煙を上げて燃えているでしょう。」
 火焔山の火ではないが,地上は砂漠でも地下には貴重な資源があるのだ。この新疆ウイグル自治区には,天然ガスも,石炭もあるという。ただ広いだけではない。豊富な宝を持っている中国の底力を感じる。
 そこへ行くと何の地下資源もない日本。どうしていけばよいのだろうか。

 カレーズを見学するという。事前の勉強をしていなかった(ガイドブックにはちゃんと出ていたのだが)私には何のことやら分からない。
 シルクロードに点在するオアシス都市には3種類あるそうだ。1つは河川の水を利用したもの。2番目は湧き出る泉を利用するもの。3番目がこのカレーズだという。
 カレーズとは地下水路を掘って居住地区まで水を引く施設のこと。山麓の水脈を掘り当て,居住地区まで一定の間隔で竪穴を掘り,竪穴と次の竪穴を横穴で結んでいく。つまり地下水路を作って水を引くやり方である。前の2つが自然をそのまま利用したものであるのに対して,これは人工の地下水路である。
 カレーズ民俗園で見たカレーズには冷たい水が滔々と流れていた。
 人々の知恵にはいつも感心させられる。