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No.605  はるかな尾瀬3

 ♪ 水ばしょうの花が咲いている ♪
 尾瀬といえば水ばしょう。歌があるから知られたのではない。5〜6月ごろに尾瀬を訪れると湿原いっぱいに咲き誇っている,その姿は見事というしかない。
「湿原に群生するサトイモ科の多年草。晩春,杓子状のまっ白な苞の中に淡緑の花穂が出て美しい。花に遅れて出る大きな葉がばしょうに似ているのでこの名がある。(平凡社「ポケット俳句歳時記」)」
 純白の花びらのように見える部分は花を保護する役目をしている苞で,仏焔苞という。
 ところで,「夏の思い出」の作詞をした江間章子は,「夏がくれば思い出す」と始めている。しかし,尾瀬にはまだ雪が残り,サクラは咲いているがようやく春本番を迎えたところといっていい。江間は平地の町の夏を迎えた季節の中にいて,以前見た尾瀬の風景を思い出しているのである。思い出の風景は消えない。しかし,現実の風景はどうか。日本人の原風景として,尾瀬も美しいままに残ってほしい,そんな願いがあったに違いない。

 美しさでいえばリュウキンカも負けない。キンポウゲ科のこの花は木道ぞいに咲いている。語源は,花をつけた姿と,花の色から「立金花(りゅうきんか)」と付けられたという。まっすぐ立った茎に2〜3輪の花をつける。実はこの花はこの花は花弁(はなびら)ではなく,花びら状のものは蕚(がく)である。
春の湿原はまだまだ色は乏しい。リュウキンカの金色が鮮やかに目に沁みる。
 湿原にはまだまだ多くの花を見ることができた。
ヤチヤナギ,ショウジョウバカマ,サンカヨウ,ニリンソウ,ヒメシャクナゲ,ミツガシワ,ヒオウギアヤメ,ヒメシャクナゲ………
「おやっ,これはイモリ? サンショウウオ?」なにやら黒いトカゲのようなものが,水際にじっとしている。
先生が手にとって見る。動かない。死んでいる。でもいちおう何者かを確認しておく。
「これはクロサンショウウオです」サンショウウオもすんでいるのか。水溜りの中にはイモリも泳いでいるようだ。

後ろにはまだ雪の残る至仏山(しぶつさん・2228m)が,私たちを見送っている。山の空には刷毛ではいた白い雲が,青いカンバスの上で踊っている。
前にははるかに燧岳(ひうちだけ・2356m)が黒く聳える。これは尾瀬の最高峰。頂上には火口跡もあるということで,ずっと昔この山からの溶岩流が只見川をせき止め,現在の尾瀬ヶ原や尾瀬沼を形成したという。