SCENE4 大島〜来島海峡
 宮窪町観光案内所をあとにして、緩い上り坂に向かって行くと、高速道路のインターチェンジ
に行き当たった。ここから来島海峡大橋までの区間は開通しておらず、高速を降りた車と並ん
で走るコースとなる。この区間のアップダウンはかなりこたえた。緩く長い上り坂、下り坂が続
く。下りならいいのだが、上りはペダルを漕いでも漕いでも上り坂が途切れなかった。最初なら
軽くこなせたのであろうが、出発から6時間近く自転車に乗りっぱなし、しかも普段はほとんど
自転車に乗らない連中である。降りて押すとなおさら辛く思えたので、立ち漕ぎのまま粘った。
やがて坂を越えると吉海町に入った。ここから先はそれほどきつい道はなかったが、山でも海
でもない風景がしばらく続くと、贅沢なもので少し飽きてきた。
 再び高速道路のインターチェンジが見えてくると、ほどなく海へ。当初に想像していたよりも
ずっと早いペースで最後の橋、来島海峡大橋までやって来た。途中にもっと時間を割いても良
かったかなと思ったが、あとの祭り。しかし、橋のふもとは土産物店などが立ち並んで賑わって
おり、十分な休息を取れるところであった。
 来島海峡大橋について触れておくと、しまなみ海道の中では最も長い橋で、第一大橋・第二
大橋・第三大橋からなる総延長4,045mの三連吊橋という構成。これを一つの吊り橋と考え
れば、明石海峡大橋の3,911mを上回る。平成11年に開通し、この橋と前出の多々羅大橋
の完成によって「しまなみ海道」全通の運びとなったのである。冒頭で、派手さがないと書いた
が、来島海峡大橋のスケールを考えると、十分派手な要素があることに気付く。ふもとから見
た橋(来島海峡第一大橋)は、今まで見上げてきた5つの橋とは全く異なり、「そびえ立って」
いるという表現がふさわしかった。
 
 晴天とくれば、目指すは夕日。海上からの高さを考えれば、美しい落日の風景が望めるに
違いない。嫌が上でも想像はふくらんでいった。休憩を十分とったせいか、ペダルを漕ぐ足も
心なしか軽い。30分近くかかって橋の入り口までたどり着いた。
 やはり、想像通り、美しい太陽が待っていた。海の上をオレンジ色の光が真っ直ぐに伸びて
いた。海峡をひっきりなしに行き交う大小さまざまな船が、海と太陽という単調な風景に彩りを
添えていた。ひたすら、シャッターを切った。ここに着くまでの疲労も忘れるほどの素晴らしい
風景が広がっていた。来島海峡第一大橋の上からも撮影。オレンジ色の太陽が、島の山の
向こうに隠れて行くまで見届けたが、太陽の沈んでいく動きが早く思えた。時間が止まってほ
しい風景だった。これは車で通過するにはもったいない。やはり、自転車でよかった。
 最高の風景に出会えて、ゴールまでの最後の走行にも力が入った。しかし、総延長4キロは
ダテではなかった。たとえて言えば、丘を越えていくような視界が展開していて、橋の終わり
が見えないのである。橋は真っ直ぐなのに、その先が見えない、不思議な光景だった。見慣
れたとはいってもやはり、真下の海を見るのは怖いものがあったが、日暮れのあとの海もま
た、青空の下では見られない美しさがあった。しかし、波が黒く見えるくらいに空が暗くなって
から、やっと橋の終点に着いた。橋から地上に降りるまでも凄かった。自転車専用の道が作
られていて、まさに高速道路のジャンクジョンのように、明るいライトが道を照らし、急ではなく
緩いループを描く道になっており、無理なく上り下りできるように施してあった。ここまで自転車
本位の設備が他にあるだろうか。
 橋を下り切って、四国に上陸。本州から四国へ来たという実感はあまり湧かなかったが、
サンライズ糸山サイクリングターミナルへの自転車返却時刻が19:20。朝9時前のスタート
だから、10時間以上走り続けてきたことになる。自転車返却後、ライトアップされた来島海峡
大橋を眺めながら、今までの旅とはまた違った意味で有意義な一日だったと思った。

 後日談となるが、翌日以降、足にも腕にも尻にも、筋肉痛等は起こらなかった。楽しみながら
の疲労や苦痛は尾を引かないのであろう。
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