SCENE2 因島〜多々羅大橋
 因島からも変わらず、海沿いを爽快に飛ばしていたが、途中からは島の“内陸部”に入って、
再び海沿いに出るコースを取った。山あり、海あり、というわけである。途中、観光客で賑わっ
ている所が因島フラワーセンターであったが、花などにまるで興味のない我々は、横目に通過。
ところで、島というと、イメージとしてはなだらかで起伏のないものと思いがちなのだが、因島は
そうではなかった。途中、水分を補給するなどして高速道路が見えてくると、今度は海を目指し
ての道となる。高速道路の下をくぐったり見上げたりしながら進むのだが、バスに乗っていると
この山と海の起伏を実感したり、海岸線、島々を飽きるほど見たりすることは自転車で行くほど
にはできまい。つくづく、自転車に乗って良かったと思った。
 待望の海が見えてからしばらく海沿いを走ると、今日2つ目の橋、生口(いくち)橋が見えてき
た。斜張橋というらしいが、見ていて格好良い形をしている。長さは1キロにも満たない短い橋
だが、因島大橋と違って視界を遮るものがなく遠くの島々、眼下の海を行き交う船が望むことが
できた。実は高所恐怖症なのだが、隣に車が走っているおかげで(?)なぜか海の上にいるこ
とを忘れていた。真下は一瞬しか見れなかったが、遠くの海や島はウットリするまで眺めること
ができた。しかし、天気は相変わらず曇。晴天の下での瀬戸内はどれだけ美しいことだろうか。
想像だけが先行した。
 生口島はその大部分を瀬戸田町が占めているが、その瀬戸田町は国内有数のレモンの産地
なのだそうである。島の前半部分を走り終えたところでフェリー乗り場があり、小休憩を取ったの
だが、そこで食べたレモンアイスはなかなか美味であった。筆者の頭は非常に単純構造なため
○○の生産量日本一!などと書かれていると、イコール美味だと思ってしまうのである。いや、
現実にも瀬戸田町のレモンアイスは美味かったのだが、店員がやや無愛想だったのが記憶に
残った。この近辺は町の中心部なのであろう、車の通行量や人の往来が多く、どちらの方々にも
自転車は迷惑であったことだろう。しかし、こちらとしても昼前から千鳥足でヨタヨタ歩く人々には
困ったのである。
 中心街を抜けると、歩道(自転車道)の整備された海岸線をひたすら走った。整備されている
理由はしばらくして分かった。サンセットビーチと呼ばれていて、夕日が美しく見えるのだそうだ。
しかし、まだ行程の半分も来ていない。ここで夕方まで待っているわけにいかない。機会があれ
ば、また今度・・・の思いで走り抜けた。そして今日3つ目の橋となる多々羅大橋が見えてくると
広島県と愛媛県との県境にさしかかる。愛媛県だけに、“いよいよ”である。そんなシャレも思い
浮かぶほど、いいことがあった。雲が消えて晴れ間が覗いて来たのである。青い海に青い空。
心なしか、橋も美しく見える。生口島と同じ斜張橋であったが、こちらは生口島より8年後の平成
11年に完成したばかりで、それなら美しく見えるわけだ。やがて、おそらく生まれて初めてであ
ろう、自転車による県境越えを成し遂げ、大三島(おおみしま)に入った。


 
SCENE3 大三島〜宮窪町
 多々羅大橋を渡り切ったところに「多々羅しまなみ公園」があり、大勢の観光客で賑わってい
た。ここはヘリコプターによる海上遊覧など大々的に観光地っぽくなっており、筆者の期待通り、
Tシャツも売っていた。旅先でTシャツを買い集めるのが趣味のため、Tシャツの陳列を見たとき
の感動は“砂漠の中でオアシス発見”的なもので、感慨もひとしおなのである。
 しばしの休憩のあとは、変わらず穏やかな海を左手に見ての走行となった。暑いくらいの晴天
となり、ちょっとした坂道を登るだけで汗をかいた。この大三島では結構きついアップダウンがあ
り、さすがに疲労も出てきた。このあたりがしまなみサイクリング行程の中間であろうかと思われ
たが、足よりも、サドルに跨る尻が痛い。そのため、風も存分に浴びることのできる立ち漕ぎが
増えた。大三島橋までたどり着き、短い橋をゆっくり楽しみながら渡り切った。大三島橋はしまな
み海道の橋の中では最も古い昭和54年の完成で、当時としては斬新だったのであろうアーチ
橋という造りになっていて、その長さ(328m)は東洋一だそうである。
 橋を渡ると伯方(はかた)島で、伯方の塩は有名である。余談だが筆者はカルビー社の菓子
“じゃがりこ”(特にチーズ味)が好きで、旅の間や深夜に及ぶ残業のときは必ずといっていいほ
ど口にするのだが、それにもここの塩が使われているのだろうか、だとしたら感謝の意を込めて
走らねばなるまい。と思ったのも束の間、この島での走行距離は他の島より短く、ほどなく次の
橋である伯方・大島大橋にさしかかった。伯方橋は300メートル余りと短いためか、普通の桁橋
だったが、大島大橋は久々の吊り橋で、自動車と平行しながら海の眺望を楽しめた。海、島々、
行き交う船・・・今日何度も見ている光景なのに飽きが来ず、ずっと見ていたいとさえ思った。
 大島に入って海沿いを走ると宮窪町の観光案内所があり、実はここでレンタサイクルを乗り捨
ててバスにしようかという案もあったのだが、筆者も先輩もまだOKということで、時間的な余裕
もあることから、自転車でゴールまでという決意が固まった。なぜ、宮窪町で乗り捨てる案があ
ったのかというと、この大島での走行コースはひたすら内陸で10キロ以上もの間、海を見ること
もなく山道だからである。そして、この山道はそれまでとは比較にならない厳しさだった。
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