この小部屋では、昔に創作した少しひねくれた詩等を掲載しています。
 一時、日本語の持つ語感と、情緒豊かな言霊に魅了された時期がありまして、高校生くらいの時から何年間かちょこちょこ書きとめておいたものです…今見直すと、結構冷静に自己判断できるので、なかなかに忸怩たるものがありますが、あえて、そのまま掲載しています。過去のその時の感性と現在では自ずと変化するのは当たり前すぎますから。
 そんなわけで、文字のみ、説明無しのシンプルな部屋になると思いますが、興味がありましたら観ていってください。
 
※題名の「うてな」は受け皿としての台を表しています、某アニメとは全く関係ありませんのであしからず。


   
           か          
   「彼の地にて」

  二重螺旋の久遠の記憶が 彼を慟哭させる


    悲哀と狂気の縁で彩られた 銀輪の器に
     
あんうつ            
  黎明と暗澹な闇が 溶け合い同化する

  光明が如来と現じた時は 遥か。

  旧き神々は 白濁した意識の混沌で眠りにつく

  ああ なれど

  土よ 不動と安息を

  水よ 清涼と流転を

  火よ 浄化と再生を

  風よ 数多の想いを運び 大気をあまねよ…

       
きんしょう             
  琅々と響く琴笙は はるけき彼方まほろばに

  星々に満つる生命は 今は深き淀みに沈む。

  寂寞の 彼の地に在りし獣よ

  虚空から落つる旋律は 去りし日々の望郷

  ああ なれど

  光は影であり

  明は暗であり

  有は無であり

  形あるものの 砂塵の如き儚さよ…


  虚空の星を瞳に宿し 毅然たる孤高の獣―
    
けみ                    
  今は閲しこの地より 忘却の風と ただ戯むるのみ



   「石輪」

  去りし日々の 追憶は縋る

  夢見るはずの幻影も 化石の如く色褪せて

  遠い記憶の片鱗は 路傍の石と成り果てた


  だのに 石墨たる我が心よ

  何故に青金石の夢を見るのか?

  
  ヒヤデス星団より 霊降りたる蒼芒は

  石墨の我を 一瞬の蒼に照らし狂わせる


  そしてまた 打ち捨てられたる刻が訪れる

  願わくば 次なるは紅玉の夢を…


  許されるは 夢見ることのみならば



   「黎明」

  大気の気配に 仰ぎ見れば
   あそうぎ          
  阿僧祗の闇に縫いつけられた

  蛋白石のきらめき

  知覚される 有機的明滅は

  埋もれた過去からの幻燈


  止めたる術を持たぬ 歴史の俯瞰者は

  月見草に浮かぶ 夜露にさえ

  遥かなる光を灯す

  虚構の景色、
  
  虚構の偶像を…


  あゝ

  なれど 確かに
  
  私は その光を 見てゐるのだ!



   「虚ろなる 肖像」

  君といふ 現象は

  しんとした 珪化木の森に揺らぐ
       
モルフォチョウ     
  燐火の如き青翅蝶に似てゐる

         
しじま 
  ものくろうむの静寂に

  たゞ ひときわ揺らぐ
    ひとえ    
  単衣の記憶は

  限局された空間へ 象嵌された

  刹那的現象です


  君といふ 水銀の雫は

  脆く あやういのに

  決して 壊れることのない
      
ポイズン
  蠱惑的な毒。

  掬っても
 
  掬っても

  掌より 溢れ落つる粒子は

  さまよえる 蒼氓の嘆き…

   
  清冽に凍てつく 呼吸を止めた 樹々の中

  青き燐華の降り立つ 銀の水面に

  君といふ 現象が

  密かに ざわめき立つ。



   「古き家にて〜」

  煤けた天井桟敷の隅に 遠野を聴く。

  死番虫の

  くわぁつ

  くわぁつ といふ響きが

  ゆるりと流れる 時の狭間で
  
  奇妙な 現実感を 刻んでゐる。


  雪見障子の向こう側、

  仄かに薄赤ひ 月の射光に

  くすくすと嗤ふ 童子の聲

  ぴちや ぴちやと撥ねる 水音

  ざわ ざわと梢を渡る 風の物達…

    まどろみ      
  微睡の 向こう側

  仄かに白き 陽の射光に
  
  そつと 目覚むれば

  目眩にも似た 既視感が

  私を苛む

   (今は無き 古き家にて〜)



           テルミドール     
   「熱月の果実」

  砂上の楼閣に
           
あしおと      
  砂を喰む 羽根車の跫がする

  舎利 舎利 と

  乾いた空気の 整合性を以て…

  絶え間なく熟まれる 赤銅色の果実は

  供されることのない 隔壁の中で

  永遠の分裂と 融合を繰り返す。

 
  石灰石の 白い柱に

  重力に従う水が カスケード状に流れ落つ

  茫と 夜光虫のように
 
  妖しく 炯っては うねり

  白い蒸気となって 立ち昇る。


  動脈血の拍動も 正確な呼吸も途絶え

  今は 全てが眠る 砂上の楼閣に

  煌々と 下弦の月のみ愛でる。


  それでも 行き場のない 斜陽の果実は

  今日も 炉心を廻っているのだうか

  主のいない この星で…