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アーシングを超えて

概要

「アーシング」の項目でアーシングについて述べたが, アーシングというのは電気回路としてはマイナス側の配線を改良しただけである. 現実の自動車ではマイナス側配線としてボディアースを使っていて,それがどちらかというと貧弱であるため, マイナス側の改良だけでも一定の効果は得られると思われる.しかし電気回路というのはプラスとマイナスがあるわけで, プラス側もマイナス側と同じように改良すれば電気的特性の改善が期待できる. 一方,電源供給という観点で見た場合,交流負荷においては,負荷に至るまでの配線を改良するのではなく, 負荷の内部またはすぐ近くにバイパスコンデンサを設置することで,配線を強化するよりも一層, インピーダンス低下に効果があると思われる.ここでは,それらの対策についていくらか考察してみたい.

プラス側配線の強化

バッテリーのプラス端子と,いろいろな機器のプラス側端子の間の電圧を測ってみると, 車や測定部位にもよると思われるが,0.3〜0.5Vくらいの電位差があることが多いのではないだろうか. バッテリーのプラス端子を出た電流は,各種ヒューズやイグニッションスイッチ,リレーなどを通って各機器に到達する. この間の電圧降下が,無視できないくらいの大きさなのである.このうち, ヒューズによる電圧降下はどうしようもないので(新しいヒューズを用いれば,少しはマシだろうか?), 途中の配線による抵抗を減らしたいわけである.実際の自動車に使用されている配線を見ると, アーシングケーブルの太さから比べると非常に細い電線が使用されていることが多い. 100A級のオルタネータから出ている+B線線でもせいぜい10〜14sq程度,他の機器は1.25〜3.5sqのものがほとんどである. そこで,これをもう少しなんとかしてやろうというわけである.
実際問題として,各機器につながっているプラス側配線を,個別により太い電線に交換するというのは不可能に近い. せいぜい,オルタネータの+B線を太くしてみる程度が関の山だろう.作業としても, プラス側の配線は車体などに触れるとショートしてしまうから,配線時は保護管などの使用が必須であり, 端子部の絶縁にも気をつける必要があるので,アーシングよりは少し難度が高い.
ただし,個別の機器に対するプラス側配線の強化というのは,ヘッドランプやオーディオ系では一般的に行われている. ヘッドランプについては,リレーハーネスを使用することで途中の配線抵抗を減らすとともに, 標準のヒューズの容量に縛られないハイワッテージランプを使用することができるようになる. オーディオ系についても,大出力のオーディオを使用するには,車体側ハーネスでは容量不足で, バッテリーから直接,電源を取り出す必要があった.オーディオ系の場合は,アース側を平行してバッテリーから引き出し, オーディオ系機器のアースをすべてそこに接続してボディアースと分離して,バッテリーでの一点アースとすることで, エンジンなどから出る電気的ノイズの影響を受けにくくするという意味合いもあった.
ヘッドランプやオーディオ以外では,バッテリーからダイレクトに電源を取り出す必要性はまずないだろう. ただ,これらの消費電力の大きな機器を分離することで,車体側ヒューズの電流が減って電圧降下が減り, 結果的にプラス側配線を強化したのと同じような効果が生じる,という利点が考えられる. というわけで,アーシングと平行して,オーディオやヘッドランプ系の電源の分離を同時に行うとよいかもしれない.

バイパスコンデンサの設置

アーシングについての説明のところで,交流回路のインピーダンスを下げるには, 電流ループの面積を最小にするのがいい,ということを書いた.そのときは触れなかったのだが, 本来,交流負荷に対する電源供給は,できるだけ負荷の近くにバイパスコンデンサを設置するのが基本であり, バッテリーへの配線を太くして対処するのは邪道である.しかも,バッテリーというのは本質的に周波数特性が悪く, ある程度以上の周波数(数kHz以上?)に対してはバイパス効果を期待しにくいと思われる. そこで,このような機器の近くに大容量の電解コンデンサなどを設置し,高周波に対する電流供給能力を改善しよう, というのがこの章のねらいである.対象となる機器は,イグナイタとECUが考えられる.


個人的には,アーシングはたしかに直流的な抵抗の軽減という意味で重要だと思うが,ECUまわりの断続的な負荷に対して, より負荷に近いところでバッテリーよりも効果的に脈流電流を供給する手段として,ECU周辺に大容量のコンデンサを配置することを考えている. 具体的には数Fのスーパーキャパシタと1万μFの電解コンデンサ数個をECU周辺に配置してECUの電源ラインに接続する. 数十Hz以下の低周波成分はスーパーキャパシタが受け持ち,100Hz以上の成分は電解コンデンサにまかなわせようというわけである. これによりイグナイタやインジェクタといった周辺回路のドライブ能力は格段に向上するのではと考えている. 特に,これにより下記のバッテリー移設の際に生じうるドライブ能力低下を,かなり穴埋めできるとも思われる.

スーパーキャパシタについて調べなおしてみたところ (製造元の株式会社トーキンの製品情報から 「スーパーキャパシタ」を選択),現在,市販されているスーパーキャパシタは低電流のバックアップ用であり, 内部抵抗が高いため電源の平滑コンデンサには使用不可ということであった.残念. 大容量の電解コンデンサを並列につないで対処することになりそうである.使用する電解コンデンサは自動車内ということもあり, できれば105℃グレードがよいのだが,店頭で調べたところ,105℃品は容量の小さなものしかない. ECU自体は室内のグローブボックス裏にあり,エンジンルームよりは条件がよいと思われるので, 85℃品で構成しても悪くはないような気もする.寿命は少し短くなるだろうが,安いので数年ごとに交換してやればよいだろう. いちおう100万μFほど設置するつもりにしている.ちょっと高価になってもいいから性能を追求する場合は, オーディオ用の電解コンデンサを使うという手もある.

最終更新日:2002年5月4日

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