・概要
ステアリングギヤボックスは,ハンドルの回転を水平方向の動きに変換してタイヤに伝えるとともに,
油圧回路を内蔵していてハンドルの回転に応じたパワーアシストを行っている.このパワーアシストの動力源としては,
パワステポンプで発生する油圧が使われるわけだが,この油圧は最大で約80気圧にも達する.
ステアリングギヤボックスにはこの油圧がかかっているので,長期間経つとオイルシールが劣化してきて,
特にフロントの重い大排気量の車ではオイル漏れが起きやすい.X80系も例外ではなく,
私の周囲でもかなりの車でオイル漏れがあるようである.中には数ヶ月毎にフルードを注ぎ足さないといけない人もいるが,
私の場合は滲んでいる程度でフルードが減るという感じではない(下の写真).
写真は右側(運転席側)であるが,反対側も同じような状態であり,たしかにラックエンドブーツ周囲がオイルで汚れている.
まぁ,この程度であれば無理に交換・オーバーホールする必要はないのだが,
たまたまオークションで新品未使用のギヤボックスが安く(送料込みで1万円以内.ちなみに定価は8万円以上する)
買えたので交換することにした.副次的な効果としては,ギヤボックスを支えているゴムブッシュも必然的に交換となるので,
ハンドリングの感触がよくなる,といったこともある.
・準備
まず,修理書の図の確認.→(こちら)
ただし,図中の「ステアリングダンパ」は前期GX81・MX83のみの装備であり,JZX81等の後期車には存在しないので注意.
ギヤボックス交換時に最低限必要なのは,パワステの高圧ホースのつながる部分のガスケットと,
タイロッドエンドの固定に用いられるコッターピン,それにパワステフルードくらいであるが,
あと10万kmくらい走ろうと考えた時に(ちなみに現在の走行距離は約17万km),
ボールジョイントが用いられているタイロッドエンドと,ギヤボックスを支えているゴムブッシュは交換した方がよいと思われた.
あと個人的な好みとして,主要部品が新品になるので,タイロッドエンドのロックナットとキャッスルナットも新品にしてみた.
別に再使用しても何の問題もないものだが,値段も安いし新品の方が気分的にいいので,そうしている.
なお,パワステフルードはほぼ完全に抜けてしまうので,ある程度の量が必要である.
JZX81の場合はパワステフルードの総容量は約0.9リットルなので,カー用品店で売られている補充用のパワステフルード
(約300ミリリットル入り)では少し割高になりそうだったため,トヨタ純正パワーステアリングフルード
(4リットル入りで約3500円)を準備した.ちょっと量が多いが,余った分は来年の交換用としても使えるので,
無駄というわけではない.
使用する工具としては,通常の3/8の工具でだいたい事足りるが,柄の短いラチェットと,
タイロッドエンドセパレータがあればなおよい.リターンチューブ取り外しには,
できればフレアナットレンチを使いたい.タイロッドエンドの長さ調整にはモンキーレンチが必要になる.
・実際の作業
交換作業は,フロアジャッキでも不可能ではないが,リフトがないとちょっと難しいだろう,
とのことで,リフトの借りられる場所での作業となった.
最初にエンジンルームを開けて,スライディングヨークがインターミディエイトシャフトにつながる部分のボルトを緩めておいた.
エアクリーナボックスとエアダクトを取り外すと,ここはかなり簡単にアクセスできる.
(実際にやった感想としては,ここでスライディングヨーク全体を外しておいた方がよい)
あと,新PPSのソレノイドバルブへの配線のカプラもはずしておく.
| ○内のボルトを緩めておいた.
○内のボルトと両方を抜くと,スライディングヨーク全体がはずせる.
また,左手前に伸びている青紫色の配線が,ソレノイドバルブへの配線である.
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次にリフトで車を持ち上げる.車が持ち上がったら,
まずプレッシャーフィードチューブが接続されている部分のユニオンボルトを緩め,パワステフルードをできるだけ排出する.
| | 右上の,オイルが垂れているボルトが,プレッシャーフィードチューブの接続部.
その左側の3本チューブがつながっているうちの,いちばん上がリターン側のチューブで,前方のオイルクーラーへ向かっている.
左下にある,ステアリングラックを固定しているブラケットと,それに固定されているチューブの接続ボルトの向きに注意. |
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続いて両方の前輪をはずす.車は持ち上がってしまっているが,インパクトレンチを使ったので簡単に外せた.
それからタイロッドエンドをナックルから切り離すため,コッターピンをペンチで抜き,
キャッスルナットを取り外す.タイロッドエンドを切り離すには,通常は専用のタイロッドエンドセパレータを用いるのだが,
用意してくるのを忘れたのと,今回は取り外したタイロッドエンドを再使用しないので,
ちょっと乱暴だがハンマーで叩き出した.
ステアリングラックを固定しているブラケットを取り外す前に,
このブラケットに取り付けられているプレッシャーフィードチューブASSYの固定ボルトを外し,
チューブを自由に動かせるようにしておく.この固定ボルトは上側から差し込んであるので,ちょっと回しにくい.
それからステアリングラックのブラケットを取り外すのだが,この固定ボルトは4本中3本が上側から差し込んであり,
周囲にスペースがほとんどなくて非常に苦労させられる.特に運転席側が大変で,
最初にスピンナーハンドルで少し緩めておいてから短いラチェットハンドルで残りを緩める,
という手順でやったが,ラチェットの首振り角が一回に1〜2歯分くらいしかとれず,かなり苦労させられた.
運転席側のラックの裏側(進行方向前側)のボルトだけは,メーカーもさすがに上からでは無理と思ったのだろうか,
下からボルトを通してあったが,これは非常に簡単だった.他のも下からにしといてくれたらよかったのに,
と思ってしまった.
| ブラケットの固定ボルトを緩めているところ.このように,上側から緩めないといけない.
プレッシャーフィードチューブの固定ボルトも同じようにして緩める.
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あと車体とつながっているのは,ハンドルコラムからのスライディングヨークの部分である.
見えているので下から外そうとしたのだが,これが思ったようにうまくいかない.
しかたなく,いったん車を下ろしてボンネットを開け,上側からスライディングヨークを取り外した.
というわけで,最初に上から取り外しておく方がよかったようである.
ただし,もしかするとターボ車の場合はスペース的に上からでは難しいかもしれないので,
その場合には下から取り外す必要がでてくることもありそうだ.あと,今回は新品交換なので必要ないのだが,
オーバーホールなどで再取り付けを行う場合には,スライディングヨーク取り外しの前に合わせマークを付けておいた方が,
再取り付け後にハンドルセンターがずれないのでよい.
| スライディングヨークを下から見上げたところ.これが意外と取り外しにくい.
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これでステアリングラックは完全にフリーになったはずなので,取り外しにかかったが・・・
これがなかなかスポッと簡単には抜けてくれない.左右に揺すったりねじったり,と,二人がかりでいろいろやっているうちに,
どうやったらうまく抜けたのかはわからないが,とにかく抜けてくれた.ほっ
ギヤボックス取り外しに悪戦苦闘中
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