落日・前編
第1回
『帰国』
正月休みには少し早い12月の中旬。今の時期の空港はそれほどの混雑はなく、 旅行者の姿もまばらな午後、ロンドン発の日本航空機から1人の女が関西空港に 降り立った。旅行帰りにしては荷物も少なく、小さなショルダーバッグを1つ肩 に掛けている。年のころは27、8才くらいだろうか、身の丈は180センチに 近い大柄だが、ジーンズに黒のセーター、白のハーフコートを羽織った姿はそれ ほど目立つ存在ではなかった。到着ロビーに姿を現すと1人の年老いた老人が近 づいて声を掛けた。 「瑞希(みずき)お嬢様、よくご無事でお帰りになられました。お待ち申しており ました」老人はうやうやしく手を握ると嬉しそうな顔で女を見つめた。 「圭爺、久しぶり。5年ぶりだけどよく私が分かったね」瑞希と呼ばれた女も老 人の手を握り返しながら優しく微笑んだ。
「お嬢様、忘れる訳がありませんよ。まだまだ老いぼれてはいませんよ。長旅で お疲れと思いますがもうしばらく我慢してくださいよ」老人は笑いながら先に立 って歩きだした。瑞希も微笑みながら老人の後について外に出た。直ぐに四輪駆 動車が2人の前に止まると中から若い運転手が出て来た。 「お嬢様、運転手の森下です」老人が名前を言うと、若い運転手は森下ですと頭 を下げた。瑞希は一瞥すると老人の顔を見つめた。 「お嬢様、ご安心ください」老人が瑞希に微笑んで車に乗り込むと、瑞希も老人 の後から車の後部座席に乗り込んだ。森下と名乗った運転手が乗り込んで車を発 進させると、少し離れて止まっていた黒のセダンが静かに動き出した。2台の車 が走り去るのを、空港の建物のガラス越しに見ていた2人の外国人女性に気付い た者は居なかった。2人の外国人女性は顔を見合わせて頷くとタクシー乗り場に 向かった。
森下は空港連絡橋を抜けると阪神高速湾岸線を走り、大阪市内で環状線から空港 線に入ると、豊中IC(インターチェンジ)から名神高速道路に入った。 青木様。森下が声を掛けた。 「分かっている。空港に行く時から着いてきていた車みたいじゃな。心配いらん から普通に走れ」青木と呼ばれた老人は目を瞑ったまま森下に言った。森下は名 神高速道路の養老サービスエリアで休憩し、小牧JC(ジャンクション)から中央 自動車道路に入ると恵那峡サービスエリアでもう一度休憩すると、中津川IC(イ ンターチェンジ)で中央自動車道路を降りて国道19号線に入った。養老サービス エリアでも恵那峡のサービスエリアでも、四輪駆動車から少し離れた場所に黒の セダンが止まっていた。時計の針はすでに午後8時を少し過ぎている。
「お嬢様、大丈夫ですか?」青木と呼ばれた老人が声を掛けると瑞希は微笑みな がら頷いた。車は19号線を北に向かって走り続けた。黒のセダンは着かず離れ ずしながら相変わらず着いて来ている。森下は上松(あげまつ)という町を通り過 ぎると左に折れて御嶽山(おんたけさん)を目指した。三岳村(みたけむら)の役場 を過ぎたあたりから道路に雪が増え、夜の冷え込みで凍結しつつあった。後ろの セダンとの距離が離れ始め、バックミラーに映っていたヘッドライトの明かりも 見えなくなった。森下は途中から開田高原の標識に従って車を走らせた。 「セダンでこの道は無理でしょう」森下がバックミラーを確認しながら誰にとも なく呟くと、開田高原にある1軒の山荘に車を入れた。山荘の入り口には『花岡 産業山の家』という看板が掛かっていた。森下が無線式ガレージのシャッターを 開けて車を入れると、直ぐにシャッターが閉まってガレージ内の電気が点き、森 下がガレージから建物へのドアを開けた。
「お嬢様、長旅でお疲れになったでしょう。今夜はゆっくり休んでください」青 木という老人が車を降りると瑞希に声を掛け、瑞希も車を降りると建物の中に入 った。 「瑞希お嬢様、お久しぶりです。よくまぁご無事で」ホールに入ると数人が待っ ていて、年老いた老女が涙を零しながら瑞希の手を握りしめた。 「芳江婆や、久しぶりだね。爺にも負けないほど元気そうだね」瑞希は年老いた 老女を抱きしめて懐かしそうに顔を覗き込んだ。 「お嬢様、年寄りをからかわないでくださいよ。さぁどうぞ」老女は笑いながら ダイニングルームへ案内した。 「瑞希さん、お帰りなさい」ダイニングルームに居た若い女が声を掛けた。瑞希 はその女の顔をまじまじと見つめた。 「奈緒子?ほんまに奈緒子なん?」と確認するように聞いた。 「瑞希さん、大阪弁は直ってないんやね」奈緒子と呼ばれた女は嬉しそうに頷いた。
「さぁさぁ、積もる話もあるでしょうけど暖かいうちに食べてくださいな」芳江 と呼ばれた老女が声を掛けた。奈緒子と瑞希が並んでテーブルに着くとすぐに暖 かいシチューとワインが出された。 「ねぇ、浩貴(ひろき)は?浩貴の顔が見えないけど元気?」瑞希がワインを飲み ながら聞いた。 「はい。浩貴様は年末にこちらに来る事になっています。運転手の森下はご存知 ですね。こちらは工藤健治と佐伯優子。工藤にはこの山荘の維持管理を、佐伯に は賄いの方をしてもらっています」芳江という老女が紹介すると、2人はよろし くお願いしますと頭を下げた。工藤は40過ぎくらいだろうか屈強な感じがする。 佐伯の方は30前くらいに見える。
「ところでお嬢様、お友達が2人お見えになるというお話でしたが」芳江がワイ ンを勧めながら聞いた。 「明後日の列車で来る事になっているわ。松本やなくて木曽福島に迎えに行く事 になっているから。婆や、列車の時間は分かる?」瑞希が聞くと直ぐに佐伯とい う女が時刻表を持って来た。瑞希はページをめくり 「この列車だね。木曽福島着が12時22分のしなの9号。だけど今日の車と森 下は顔を知られているから、佐伯か奈緒子に迎えに行ってもらう方が良いね。多 分木曽福島や塩尻、松本には張り付いていると思うから」瑞希が奈緒子と佐伯を 見た。 「分かりました。私がお迎えに行ってきます。お嬢様、写真か何か顔が分かるも のをお持ちですか?」佐伯が聞くと瑞希はバッグから写真を取り出して佐伯に渡 した。
「2人とも日本語は堪能だから心配しないで。右がナターシャで左がアイリーン。 くれぐれも気をつけてね」 「分かりました。今日の車は見られているから別の車の方がいいですね」と言い ながら写真を見つめている。 「お嬢様の荷物は3日前に着いてお部屋に運んでいます。長旅でお疲れでしょう から今夜はゆっくりお休みください」食事の後の紅茶を飲み終わると、芳江が立 ち上がって2階の部屋へ案内した。部屋は10畳くらいの洋間でエアコンで暖か く保ってある。壁側に大きなベッドがあり、窓には厚手のカーテンが引いてある。
「こちらがバスルームでお荷物はこちらに入っています」芳江がバスルームとク ローゼットのドアを開けて案内した。バスルームの湯船にはすでにお湯が張って あり、クローゼットには送っていたトランクから出された洋服が掛かっていた。 「お嬢様、久しぶりの日本だからお茶を用意しておきました。お風呂上りにでも 召し上がって下さい」芳江がベッド横のサイドテーブルに用意している茶器と電 気ポットを指差した。 「ありがとう婆や」瑞希が芳江の手を握ると、お休みなさいと嬉しそうな顔で部 屋を出た。空港でもこの山荘でも、誰も父の死の事は一言も口に出さなかった。 瑞希はその心くばりが嬉しかった。瑞希はクローゼットからバスローブを出すと バスルームに向かった。湯船に身を沈めると長旅で疲れた体に暖かいお湯がまと わりついてくる。ロンドンから関空まで約12時間、関空からここまで6時間弱 と、鍛え抜いた瑞希の体も疲労の極致にあった。ベッドに入ると死んだように眠 り込んだ。
*
9時過ぎに目を覚ました瑞希はベッドから出るとガウンを羽織ってカーテンを開 けた。窓の外はどんよりと雲が厚く小雪が舞っている。瑞希はお茶を入れると窓 辺の椅子に座り、久しぶりに日本のお茶を味わいながら窓の外を眺めていた。 「瑞希さん、起きてる?」ドアの外から奈緒子の声がした。 「奈緒子、起きてるわよ。入って」瑞希は窓の外を眺めたまま声を掛けると、お はようと言いながら奈緒子が入って来た。 「どう、疲れは取れた?」奈緒子は笑いながら瑞希の向かいに座るとまじまじと 瑞希の顔を見つめた。 「どうしたん奈緒子、顔に何かついてる?」瑞希が笑いながら聞くと奈緒子も笑 いながら首を振った。 「瑞希さんに会うのは5年ぶりだもん。あの頃に比べると随分変わったね〜。街 で出会ったらきっと分からないと思うわ」奈緒子は目の前でお茶を飲みながら、 窓の外に向けた瑞希の視線に鋭利な刃物を思わせるような冷たさを感じ、思わず 身震いしながらも懐かしさが胸の中に広がっていた。
「ねっ、朝食の用意が出来てるよ。行こ」奈緒子は立ち上がって瑞希を促した。 瑞希も優しい微笑に戻るとガウンを脱いでクローゼットを開けた。素肌の体に下 着を着け、シルクの白いシャツを着ると黒のジーンズを穿き、赤い色のセーター に袖を通した。奈緒子はバスローブを脱いだ瑞希の、鍛えられた体の背中に残る 無数の傷跡を見て思わず叫びそうになった。 「瑞希さん、それは・・・・・」奈緒子は言葉が出なかった。 「奈緒子、背中の傷の事は内緒にしといてや。圭爺や婆やに余計な心配掛けたく ないから」瑞希はセーターを着ると奈緒子に笑いかけた。奈緒子は頷きながら、 この5年の間に瑞希の身に何が起こっていたのか聞くのが怖かった。 「奈緒子、奈緒子がそんな顔をしてたらばれるやん。さぁ、何時もの奈緒子に戻 って」瑞希が奈緒子の頬を撫ぜると、奈緒子の顔に笑顔が戻った。
「お嬢様、おはようございます」瑞希と奈緒子が下に降りて行くと佐伯が2人を テーブルに案内した。時刻はすでに9時半を回っていて、瑞希と奈緒子以外はす でに朝食は済ませているようだ。佐伯が茶粥を2人の前に運んで来た。 「茶粥かぁ・・懐かしいなぁ。良く私の好きな物が分かったね」瑞希が不思議そ うに佐伯を見た。 「奥様に伺っておりました。瑞希様は小さい頃から茶粥が大好きで、朝食を少し だけ食べると直ぐに青木様のお部屋に行って茶粥を食べていたと仰っていました。 お味は奥様がお付けになりました」佐伯は微笑みながら茶碗によそって瑞希の前 に差し出した。
「婆やが?そういえば子供の頃、何時も婆やの部屋で茶粥を食べていたなぁ」瑞 希は茶粥を食べながら時折顔を上げると、遠くを見つめるような顔で何かを思い 出しているような表情を見せた。 「そういえば瑞希さん、中学の頃から婆や、お粥頂戴ってよくお部屋に来てたね。 お婆ちゃんの茶粥は私も大好きで何時も一緒に食べてたもんね」奈緒子も思い出 すような顔で瑞希を見つめた。 「爺は ?」 「だんな様は工藤と松本までお出かけになりました。奥様は森下と買い物に行か れています。直ぐそこですからそろそろお帰りになるでしょう」佐伯は空になっ た瑞希の椀に茶粥を入れながら返事を返した。
*
翌日の昼過ぎ、佐伯優子は木曽福島の駅に来ていた。駅前のタクシー乗り場には 数台のタクシーが客待ちをしている。駅舎の横の方に誰かを待っているような素 振りの男女が居たが誰も気に留める様子はなかった。やがて列車が到着したのか 大勢の人が改札口から出て来た。誰かを待っているような素振りの男女は、駅舎 から出てくる人を確認するように見ている。佐伯は車を出ると駅前の広場を横切 り、駅舎に近づくと人波の最後に金髪の外国人女性が姿を現した。1人は皮のパ ンツにグリーンのセーター、白色のコートを着ている。もう1人はジーンズに白 のハイネックのセーター、皮のジャケットを着て大きなショルダーバッグを持っ ている。2人とも180センチを超える大柄な女性だ。
「アイリーン、ナターシャ」佐伯は2人に近づくと小さく声を掛けた。2人が頷 くと佐伯は英語で話しかけ、止めているワゴン車を指差した。駅前で人待ち顔を していた男女は、金髪女性を珍しそうに見ていたが直ぐに駅舎内の方に視線を戻 した。佐伯は2人を車に案内すると駅前の坂道をゆっくり走った。坂道を降りる と直ぐに左に曲がり、橋を渡って右に曲がると、木曽福島の町の中を走りながら バックミラーを確認した。町の中の信号を左に曲がって361号線を走り、渡合 という所で361号線を離れて山道に入った。さすがにこの時期はこの道を走る 車はほとんどいない。それでも佐伯は時々後ろを確認しながら山道を走り続けた。 地蔵峠を過ぎると下り道になり、正面に雪を冠った御嶽山が見える。
峠を下りきって暫く走り、旭町で再び361号線に合流した。暫く走って361 号線を離れると開田高原の『山岡産業山の家』に車を入れた。電動シャッターの ガレージに車を入れるとシャッターを閉め、車から降りると建物へのドアを開け て2人の女性を案内した。 「ミズキ」2人がロビーで待っていた瑞希に声をかけると、瑞希も嬉しそうな顔 で2人と抱き合った。 「大丈夫だった?」 「はい、怪しげな2人が駅に居ましたが、外人の2人連れという事で気に留めな かったようです。それでも用心して地蔵峠の方を通りましたから着いて来る車は 居ませんでした」佐伯は瑞希に微笑んでダイニングに入ると、すでに昼食の用意 が出来ていた。
「優子さん、用意は奈緒子と済ませましたからね。ご苦労さん」芳江が笑いなが ら言うと、有難うございますと頭を下げた。 「優子さん、ご苦労さん」奈緒子も佐伯を労うとロビーに出て3人に声を掛けた。 「瑞希さん、用意は出来ているから食べましょうか」奈緒子の声に頷いてダイニ ングに入るとパスタが用意されていた。奈緒子は一緒にパスタを食べながら、2 人の外国人女性と瑞希の関係がどういうものか気になったが瑞希に聞くわけには いかなかった。食事の後、話があるからと3人は部屋に閉じこもったまま夜まで 出てこなかった。
☆
菊池奈緒子は25歳で青木圭三夫婦の孫にあたる。青木圭三夫婦の娘、響子の子 供で両親の離婚後、響子が病死したため圭三夫婦に引き取られていた。奈緒子が 一之宮家の離れに住んでいた圭三夫婦の元に来たのは小学校4年生の時で、瑞希 が中学1年、弟の浩貴が小学4年生の時だった。初めの頃は中々馴染めなかった が、瑞希は毎日のように遊び、勉強を教え、弟の浩貴と同じ学年という所為もあ ってか徐々に心を開き、小学校の6年生になった頃には同じ家族のように暮らし ていた。瑞希が大学を卒業してロンドンへの留学が決まった時、奈緒子も一緒に 留学したがったが、大学を卒業してからという圭三夫婦と瑞希の言う事を素直に 受け入れた。浩貴は防衛大学に進んでいた。
瑞希の母親は病弱で、浩貴が生まれてまもなく亡くなり、芳江が乳母として瑞希 と浩貴を育てた。青木圭三が一之宮家に来たのは瑞希が生まれて間もない頃で、 どういう経緯で一之宮家に来たのかは瑞希も知らなかった。 青木圭三の経歴は、ブラジルを始めドイツやイギリスの大使を務め、仕事の勤勉 ぶりは各国の政府要人にも認められていたが、次官の不祥事で責任を取り政府の 仕事から手を引いていた。これほどの人物がなぜ一之宮家に来たのか、瑞希の父 と圭三以外は誰も知る事がなかった。
3年の予定で留学していた瑞希の下(もと)に、父の死亡の知らせが届いたのは2 年目が終わろうとしていた時だった。帰国の準備を急いでいた瑞希の下(もと)に イギリス政府の要人が現れ、父親の死亡は計画的な殺人らしいと知らされて愕然 とした。 日本の警察は証拠不十分で事故死と断定したらしいが、今帰国すると瑞希の命も 危なくなると知らされ、圭三の配慮からイギリス政府の口添えで他国に姿を隠す 事になった。弟の浩貴は防衛大学からそのまま自衛隊に入り姿を隠していた。 イギリス政府の要人は青木とは常に連絡を取れるようにしているからと言ったが、 瑞希は政府要人にある事を頼んだ。要人は驚いた顔を見せたが、瑞希の悲痛な頼 みを断りきれずに受け入れた。その日を境にその要人と他に数人、イギリス政府 の人間以外に瑞希の居場所を知る者はいなかった。
それからの2年、瑞希にとってまさに地獄の日々が続いた。最初の半年は基礎体 力を付けるために30キロの荷物を背負って砂漠を走った。何度も倒れ、血反吐 を吐きながらも父の非業の死を思って自分を奮い立たせた。格闘技、武器や爆薬 の扱い方、狙撃、軽飛行の操縦とありとあらゆる事を学んだ。特に狙撃と格闘技 には力を入れて重点的に学んだ。同じ訓練を受けていた女が12人居たが1人が 倒れ又1人が倒れ、あまりにも厳しい訓練に脱落するものが相次いで4人だけが 残っていた。瑞希は残った3人の仲間と励ましあって訓練を続けた。3人の仲間 はアメリカ人のアイリーンとジェシカ、ロシア人のナターシャだ。2年間の訓練 の成果を試す指令が下ったのは3月の終わりで、これから暑くなるハムシーン (砂嵐)の時期に入っていた。
4人への指令はガザへ侵入し、パレスチナ過激派幹部の抹殺だ。人間として命を 尊ぶ気持ちを黙殺して機械的に人命を奪う、イスラエルの特殊機関モサドの外部 組織で訓練を受けた4人の女への指令だ。パレスチナに潜り込んでいるスパイの 手引きでガザに潜入した4人は、標的の抹殺には成功したが正体が割れて銃撃戦 が始まった。応援の戦闘ヘリと地上部隊の助けを借りて脱出を図ったもののアメ リカ人のジェシカが倒れ、瑞希もナターシャを庇って手榴弾の破片を無数背中に 受け、瀕死の状態でアイリーンに担がれて脱出を果たした。ジェシカも応援部隊 に助け出されたがすでに息絶えていた。半年間イスラエルの病院で治療を受け、 傷が回復すると体力を取り戻すために砂漠を走った。病院で治療を受けている間 に、日本へ帰って父の仇を討とうと心に決めていた。
アイリーンとナターシャが同行を願い出たが、個人的な事だからと断ったものの 是非にと言われ、瑞希は2人の手を握りしめて涙を零した。アイリーンはアメリ カの同時テロで両親と兄、姉の家族を亡くし、ナターシャもチェチェン紛争に絡 んだテロで家族を亡くしていた。 困った時に連絡すれば助けが得られるからと渡された指輪とメモ用紙には、日本 に潜伏しているモサド要員の名前と住所が書かれていた。モサドからイスラエル 政府、イスラエル政府からイギリス政府へと話が通り、12月の半ばにロンドン ヒースロー空港に3人が姿を現した。政府要人の手配で預かってもらっていた荷 物はすでに日本に送られていた。青木圭三からの詳しい伝言を聞き、3人は日本 行きの飛行機に乗り込んだ。
続く
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