「のぞみの日記・夏休み」

第3回



「翔、行くで〜」玄関で翔を呼ぶと走って来ました。翔は赤地に緑のタータンチェ
ックの半ズボン。白のシャツに赤の蝶ネクタイ、白のベレー帽をかぶり、黒の靴を
履くとママとの〜のを見て笑っています。翔はの〜のと繭子が行っていた橘幼稚園
で、制服は男の子だから半ズボンに帽子が白に変わっています。冬にはグリーンの
ジャケットを着ます。の〜のの小学校は橘小学校で幼稚園と同じ敷地内にあります。
の〜のは小学3年生で繭子は小学2年生、翔が幼稚園の年中組で菜々美は年少組で
す。みんな同じだけど翔と菜々美は幼稚園の送迎バスで、の〜のと繭子は小学校の
スクールバスです。幼稚園の送迎バスが止まる所に菜々美と繭子、繭ママが居まし
た。

「まゆ〜、おはよう」の〜のが声を掛けると繭子もの〜のと手を振っています。
暫くすると幼稚園のバスが来ました。翔は菜々美と手を繋いでバスに乗ると、窓か
らママに手を振っています。翔はお家に居る時はママやパパ、の〜のに甘えている
けど、菜々美と一緒に居る時は男気ぶって菜々美を可愛がっています。菜々美も翔
と居る時は嬉しそうな顔をしています。翔と菜々美のバスが出て暫くすると、の〜
のと繭子が乗るスクールバスが来ました。
「の〜の、繭子、気ぃつけてな」繭ママが笑いながら声を掛けました。の〜のも笑
いながら
「ママ〜、イェ〜イ」とママに向かって両手でVサインを出すと、ママも笑いなが
らVサインを出しています。今日からママのお店が開店です。

の〜のは学校が終わると大急ぎで帰って来ました。今日からママの店が開店で、ど
れくらいお客さんが来ているのか気になっていました。の〜のは家には入らずにお
店の方のドアを開けました。
「いらっしゃ・・・の〜の、お帰り〜」香織姉ちゃんが笑いながら振り向くと、マ
マもカットの手を止めて笑いかけました。お店のソファーには2人の女の人が週刊
誌を読みながら順番を待っていました。
「ママ〜、お姉ちゃん、ただいま〜」の〜のはみんなに声を掛けてロッカールーム
の方からお家に入ると、繭ママがおばあちゃんとお話をしていました。

「おばあちゃん、繭ママ〜、ただいま〜」の〜のは2人に挨拶して2階に上がると、
お部屋に翔は居ませんでした。
「おばあちゃん、翔は?」下に降りておばあちゃんに聞くと
「お庭で菜々美と遊んでるわ」と繭ママが笑って言いました。
「の〜の、お店は大繁盛やで。今日は開店初日やから暫く様子をみらんと分からん
けど、午前中は予約の電話が鳴りっぱなしやったわ。ママは暫く忙しいと思うから、
の〜のと翔ちゃん、パパとおばあちゃんでママを助けてやるんやで」繭ママは優し
く言うと、台所に立ってジュースとロールケーキの用意を始めました。

          *

「お疲れさ〜ん」お店が終わって少し遅い夕食が始まると、ママは香織姉ちゃん、
奈央姉ちゃんとグラスを合わせ、パパとグラスを合わせて嬉しそうです。今日はお
姉ちゃんたちも一緒にご飯を食べています。
「ママ〜、お疲れさ〜ん」の〜のと翔もジュースのグラスを合わせました。
「希、翔、ありがとう。ご飯の時間が遅くなってごめんな」ママは優しく言いなが
ら美味しそうにビールを飲んでいます。
その日の夜、翔との〜のは自分たちのお部屋で寝ました。翔は寂しがっていたけど
「翔、今日からママはお仕事で疲れているから、ゆっくり寝んねさせなあかんねん
で。翔が寂しいんやったらお姉ちゃんが一緒に寝てやるからな。お姉ちゃんと寝よ
うな」夕方、繭ママと菜々美が帰って翔に言うと
「お姉ちゃんが翔と一緒に寝るん?」と嬉しそうな顔をしていました。

ご飯の後、香織姉ちゃんと奈央姉ちゃんが帰るとママと翔とお風呂に入りました。
翔と一緒にママの背中を洗うとママはありがとうと嬉しそうな顔をしていました。
ママの嬉しそうな顔を見るとの〜のも嬉しくなります。パパとママ、おばあちゃん
にお休み〜と言ってお部屋に入ると2段ベッドで翔と一緒に寝ました。何時もは翔
が下での〜のが上で寝るんだけど、暫くは翔と一緒に下で寝る事にしました。ベッ
ドに入っての〜のが翔を抱いてやると、ニコニコしながらの〜のを見ています。
の〜のも翔を見て笑うと安心したように眠りに着きました。

          ★

「の〜の、の〜の」耳元で囁く声に目を覚ますと、ベッドのそばで典子姉ちゃんが
優しく微笑んでいました。典子姉ちゃん、と叫びそうな声を我慢して翔を見ると、
翔は気持ち良さそうに寝ています。翔を起こさないようにそっとベッドから出てク
ッションに座わると、典子姉ちゃんはの〜のを優しく見ています。
「お姉ちゃん、長い事逢いに来てくれなかったね。の〜のは逢いたかったんだよ」
の〜のは典子姉ちゃんを見つめました。
「ごめんね。あれからお姉ちゃんもいろいろあって中々来れなかったけど、の〜の
やパパ、ママ、翔の事はちゃんと見ていたんだよ。あれからの〜のも翔も良い子で
居てるし、パパとママも頑張ってお家を建てて、ママがお店を開いてお姉ちゃんも
嬉しかったんだよ。さっき、パパとママとお話して来たよ。パパとママはの〜のと
翔が良い子で居るから喜んでいたよ。ママはお店で忙しいから、これからも良い子
でママを助けてやってな」典子姉ちゃんはの〜の手を握って優しく言いました。

「パパとママとお話したの?」の〜のは嬉しくてつい大きな声を出してしました。
「お姉ちゃん、誰とお話してるん?」の〜のの大きな声で翔が目を覚ましてしまい
ました。
「翔、こっちにおいで」の〜のが呼ぶと翔はベッドから降り、目を擦りながらの〜
のの足の間に座りました。
「お姉ちゃん、この人はだ〜れ?」翔は目の前の典子姉ちゃんを不思議そうに見て
います。の〜のが、4年前にパパが死にそうになった時に助けてくれたお姉ちゃん
だよって言ったけど、翔は小っちゃかったからよく覚えていないようでした。
「翔、このお姉ちゃんは典子姉ちゃんって言うんやで。時々パパとママがお話して
いたから名前は知ってるやろ?」の〜のが翔を抱きしめて聞くと、翔は目を擦りな
がらじっと典子姉ちゃんを見つめています。
「ママとパパが時々お話している典子姉ちゃん?」翔は幼いながらも何かを思い出
そうとじっと典子姉ちゃんを見ています。典子姉ちゃんも微笑みながら翔を見てい
ました。

「お姉ちゃん、典子姉ちゃんってあの時光ったお姉ちゃん?」翔は幼い記憶をたど
りながら、あまりにも強烈な印象だったためか、ぼんやりと記憶の中の一部を思い
出したようです。
「翔ちゃん、思い出してくれたんか?」典子姉ちゃんが翔の手を握ると、翔は嬉し
そうな顔で典子姉ちゃんを見ています。
「お姉ちゃん、パパとママが言っていたけど、典子姉ちゃんは死んだって言ってた
よ。死んだ人が居るってお姉ちゃんは幽霊?」翔はの〜の手を握りしめるとちょっ
と怖そうな顔をしました。典子姉ちゃんは翔の幽霊と言った言葉に笑っています。
「翔、典子姉ちゃんは幽霊じゃないよ。典子姉ちゃんはパパやママ、お姉ちゃんや
翔が困った時や嬉しい事があった時に逢いに来てくれるんだよ。今日は新しいお家
やママがお店を開いて嬉しいから逢いに来てくれたんだよ。パパとママともお話を
したんだよ」の〜のが優しく言うと翔は頷きながら典子姉ちゃんを見ています。

典子姉ちゃんがもう一度翔の手を握り
「翔ちゃん、お姉ちゃんが幽霊やったら冷たい手だけど、お姉ちゃんの手は暖かい
やろ」典子姉ちゃんは優しく笑いながら翔を見ています。翔は握られた手を見なが
ら嬉しそうな顔で頷きました。
「翔、典子姉ちゃんの事は誰にも言ったらあかんねんで。パパとママ、おばあちゃ
んはいいけどほかには言ったらあかんねんで。典子姉ちゃんと約束するんやで」
の〜のが言うと翔は典子姉ちゃんを見ながら頷き
「うん、翔は約束するよ。パパやママ、お姉ちゃんとおばあちゃん以外には言わな
いよ。お姉ちゃん、菜々美にも言ったらだめ ?」
「うん、菜々美や繭子にも話したらあかんねん。繭ママは典子姉ちゃんを知ってい
るから話してもいいけど、繭や菜々美はあかんねんで。いいな、約束やで」

「うん、翔は男の子だから約束は守るよ。パパが男の子は約束を守るんやでって言
っていたから翔は守るよ」翔は典子姉ちゃんの手を握ったまま嬉しそうに言いまし
た。
「翔ちゃん、ありがとう」典子姉ちゃんが優しく言う、翔も嬉しそうな顔で大きな
欠伸をしています。
「翔、眠たいんか。じゃぁ典子姉ちゃんにお休みを言って寝んねしようか」の〜の
が翔の手を握ってベッドに行くと、翔はお休み〜と言って眠りに着きました。の〜
のも典子姉ちゃんを見ながら眠くなってきました。典子姉ちゃんは優しくお休みと
言ってくれました。

          ☆

6月の後半に梅雨に入り毎日蒸し暑い日が続きました。ママのお店は開店以来、順
調にお客さんが増えて来ているそうです。開店してから2週間くらいした頃、1人
のお姉ちゃんがアルバイトで来るようになりました。開店から夕方までお店で働い
て、夕方から理容学校に行くそうです。7月に入るともう1人お姉ちゃんがアルバ
イトで来るようになりました。このお姉ちゃんは昼間理容学校に行って夕方からお
店に来ます。昼間来ているお姉ちゃんは慶子という名前で、夕方から来るお姉ちゃ
んは沙耶という名前です。2人ともの〜のと翔を可愛がってくれるんだよ。
夏休みに入る少し前の日曜日、の〜のがお勉強をしていると翔も机に座り、パパが
買ってくれたお絵かきボードに絵を描いて嬉しそうに笑っています。

お勉強が終わってリビングに行くとパパの姿が見えませんでした。下に降りるとお
ばあちゃんも居なくて、窓から覗くとおばあちゃんがお庭でお花を植えていたので、
の〜のと翔もお庭に出てお手伝いをしました。お花植えが終わるとおばあちゃんが
お昼の用意を始めました。
「おばあちゃん、パパは何処かへ行ったん?」パパの姿が見えないのでおばあちゃ
んに聞くと、パパは直ぐに帰ってくるよと笑っています。12時半くらいにママが
お昼ご飯に来ました。の〜のと翔、おばあちゃんと一緒に冷やしうどんを食べてい
るとパパが帰ってきました。ママがパパの冷やしうどんを用意すると、家族みんな
で冷やしうどんを食べました。

ご飯の後パパとママがの〜のと翔をリビングに呼びました。リビングに行くとパパ
が紙袋から携帯電話を2台出しました。
「これが希の分、こっちが翔の分やで。最初にここを押して、次に1を押してここ
を押したらパパの電話に繋がるからな。2がママで3がお家の電話、4がお店の電
話で5が翔やからな。翔の分は5がお姉ちゃんやで。繭子にも買ってやるって言っ
てたから、繭子の番号が分かったら入力するからな」パパが電話の使い方を言いな
がらの〜のと翔にくれました。の〜のは嬉しくてパパ〜と抱きつくと、翔もママに
抱きついて嬉しそうです。
「パパ〜、使ってみてもいい?」パパに教えられたとおりにボタンを押し、5を押
してもう一度ボタンを押すといきなり翔の電話が鳴りました。翔が嬉しそうな顔で
携帯電話を見ています。

「このボタンを押したら話せるんやで」パパが言うと、翔はボタンを押してもしも
し、と嬉しそうな顔をしています。今度は1を押すとパパの電話が鳴りました。
「学校や幼稚園に行ってる時は使ったらあかんで」パパとママは、電話を使っても
良い時と悪い時を話しました。の〜のと翔はちゃんと聞いていました。
「香織姉ちゃん、携帯電話を買ってもらったよ」ママと交代で香織姉ちゃんがお弁
当を食べに来ると、の〜のと翔は携帯電話を見せました。
「携帯を買ってもらったんか。最近は子供への悪戯や誘拐が増えているから買って
くれたんやな。パパとママはの〜のと翔ちゃんが大好きやし、2人もパパとママの
良い子にしてるからやで。良かったな〜」香織姉ちゃんは優しく言うと抱きしめて
くれました。

午後からお庭にビニールプールを出して遊びました。水着に着替えてプールで遊ん
でいると、パパが笑いながら水撒き用のホースでシャワーをしてくれました。翔は
キャーキャー言いながら嬉しそうに笑っています。パパがサチにもシャワーをする
と、サチはワンワン吼えながら嬉しそうに尻尾を振っています。サチが体を振って
水気を切ると、翔は声を上げて笑っていました。
プール遊びの後、翔はパパと一緒に昼寝をしています。2階のリビングで、絨毯の
上に花ゴザを敷いて気持ち良さそうです。の〜のもパパの横に寝ると、暫くパパの
寝顔を見ていたけどそのまま寝てしまいました。

おやつだよ〜とおばあちゃんが起こしに来ました。の〜のが起きると翔とパパも目
を覚まして、翔の顔を見るとゴザの痕がギザギザに付いていて思わず笑うと、翔も
の〜の顔を見て笑っています。顔を触るとの〜の顔もギザギザになっていてパパも
笑っていました。でも、パパの顔にはギザギザが付いていませんでした。
「ゴザで寝ると気持ちが良いけど、顔がギザギザになるからクッションを枕にして
寝てたんやで」パパは笑いながら翔との〜ののギザギザを見ています。
「パパ〜、ずる〜い。じゃあこれからはクッションで寝よ、なぁ翔」と翔を見ると、
翔は顔のギザギザを触りながら面白そうに笑っています。



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