「くどい。油っぽい。硬い。そのくせクリームはゆるい」

 砂糖入れすぎとか、泡を潰さないように手早く混ぜろとか。

 具体的な事は一切省いて、感想だけを。

 

 あ、撃沈気味。

 言うだけ言ってチラリと様子を窺ってみると、表情はあまり変化しないものの、纏う空気が重くなっている。

 まぁ、でもしょうがないよね。羽鳥は笑みを噛み殺す。

 この位でへこたれるような弟でもないし。

 飛鳥がアドバイスを突っぱねた以上、歯に衣着せぬ物言いでないと始まらない。いや、終わらない?

 

 

 案の定、わずか30秒程で吹っ切ったらしい飛鳥が、ボウルに向かう。

 その様子をニコニコ見守っていたら、

「しばらく好きにしていいぞ」

 出来たらまた呼ぶからと、いつまでも場を離れない僕に。

 

「邪魔じゃないなら、見てたいな」

 笑って言うと、訝しげな気配。

「見てて楽しいものでもないだろう?」

「楽しいよ、すごく」

 凄く、ね。

 どうしてかは言わないけど。

 

「・・・・・・・・・滑稽でか?」

 わぁ、すっかり卑屈になっちゃって。

「やだな違うよ」

「じゃあ何だ」

「かわいいなーって」

 一生懸命な姿が微笑ましいなって。とまでは言わないでおいた。

 もっとも、ここで止めても全部言っても、言われた方にしたら腹立つんだろうけど。

「出てけ」

 ホラね。

「ヤダ」

 さっきと違って、言葉だけで本当に疎ましがってる様子じゃないので、こちらも簡単に拒絶できる。

 

「邪魔だ」

「話しかけたりしないから」

 まー、見てるだけでも気が散るかもだけど。

 基本的には僕に対しての『邪魔』はイコール『煩い』だからこう言った。

「無理だろ、それ」

 うわ即答?

「そう思うんなら賭けようか。喋ったら出てくよ」

「・・・・・・・・・万が一喋らなかったら?」

 万が一、という言葉は引っ掛かるものの、こういう返しは僕のペースに持ち込む絶好の好機だったりする。

「見学させて?」

 

「・・・・・・・・・お前に不利じゃないか?」

 少し考えてから、この返事。

 不利もなにも、結局それまでは見てていいって事になるのに。

 むしろ僕のペナルティが甘過ぎるって事。

 正直というか素直というか、気付いてない。

 ってゆーか、例え本当に不利だったにしたら、指摘する事ないのにさ。

 この実直さは、兄として愛すべきか正す(っていうと変だね)べきか。

 

 とりあえずこの場は利用させてもらうけど。

「それは快諾と取っても?」

「・・・・・・・・・いいだろう」

「やったね」

 

 

 

 

 僕は時計を手に取り、続ける。

「じゃー、1分後からね。それまで話し溜めー」

「好きにしろ」

「うん、ありがとう」

 

 

 では、一分計り始め。

 折角なので、気恥ずかしい事も言ってしまえ、と決めた。

 どうせいつもの軽口に紛れてしまう筈だから。

 

 残り、五十秒。

 あのさ、と話しかけると、返事はなくても聞いてくれてる気配が結局のところ、優しい。

 

「何もしなくても、見てるだけでも。この事で時間を使いたいんだ」

 唐突な語り口に、窺うような視線を感じるけれど、時計を見る振りで流す。

 

 残り35秒。

「そうすれば、少しだけでも手伝ったような・・・・・・・・・二人で」

 ここで、10秒ほど消費してしまった。

 さすがに図々しいかなって思ってしまって。

 

 深呼吸と呼ぶほど深くも無い、吐息を一つ。

 残るは15秒。だけど大丈夫。言いたい事はもう一言だけ。

 

「二人で、一緒に頑張れたような気がするから」

 

 

 

 実際には、ただの自己満足だ。

 結局アドバイスは出来なかったし(期待通りではあったのだけど)、味見しかしていないのだから。

 後はせいぜい事後フォロー?住職に何か言われたら、言い訳くらいしてあげる。

 

 

 あと5秒。後は言い訳でいい。

「勝手でごめん。言ってるだけだから気悪くしないでね」

「はど・・・・・・」

「もう黙るから」

 

 ジャスト一分。

 いい逃げ御免。

 後は野となれ山となれ。

 黙ってるから、許して?

 

 

 

 

 

 

 しばしの沈黙の後、粉を振るう音が聞こえた。

 やっぱ僕が黙ると静かだねぇ、とその背に向けて笑みを零すと、

 

「俺は、協力しろと言った筈だ」

「・・・・・・・・・・・・・・?」

 背中越しに掛けられた言葉に、咄嗟に意味が掴めない。

 

 

「・・・・・・・・・充分だ」

 

 

 

 ・・・・・・・・・不意打ち、だよ。

 

「・・・・・・・・・・飛鳥ちゃ・・・・・・あ!」

 思わず感激してしまって、うっかりと。

 口を閉ざしてからまだ一分も経ってない。

 

「え・・・・・・何、嵌めた?」

「人聞きの悪い事言うな」

 もしかして追い出したかったのだろうかと、その返答からじゃ故意かそうでないかは判断つかないけれど、

 どちらにしろ負けは負け。大人しく退散しますかと腰を上げかけたところで・・・・・・

 

 

「少しくらいは、いい。お前が静かだと薄気味悪い」

 

 

「・・・・・・たっ、たいした言われ様だねー、僕ってば」

 どもってしまった事くら見逃して欲しい。

 だって、それって、さっきの全部許容って事だよね?

 

 わーもう飛鳥ちゃんてば天然タラシの素養バッチシだね!

 そう言ってやりたかったけど、今振り向かれたら困るので自粛。

 

 

 ・・・・・・・・・せめて、赤くなってるだろうこの顔の火照りが引くまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこで切ったらいいのかわかんなくなりました。終わって良かった・・・・・・・・・。

どうにもカップリングの無い話は締め方が分からない。

カップリング・・・・・・無しのつもり・・・・・・つもり・・・・・。例え天然タラシに赤面しようとも。

 

えと、目標は「かわいい話v」だったんですけど、達成できてます・・・・・・よね?