「入れてよぉ・・・・・・・・・」

 

 弱々しいその声は、反則だと思う。

 

 親とはぐれた迷い子か、見限られた雛鳥か。

 

 俺が見捨てたみたいで、非常に後味が悪い。

 

 

 気にする事ない。

 羽鳥の事だから、扉一枚向こうで、この声と一致する表情を浮かべているとは限らない。

 絆されて開けてみたら、いつものようにニコニコと・・・・・・・・・ならまだしも、ニヤニヤ笑っていたりするかもしれない。そのくらいの声色は使う。

 本当だったとしても、つまりはアイツの日頃の行いが悪いと言う事で。

 

 罪悪感など、覚える必要ない。

 

 

 

「開けてよ、飛鳥ちゃん・・・・・・・・・」

 それなのに、

 ちくちくした痛みが胸を苛む。

 

 

 ・・・・・・・・・わかってる、これはただの八つ当たり。

 

 自分で決めた事が達成できなかった。

 先程羽鳥が言っていた「まともな食材とレシピがあってどうしてこうなるの」

 ・・・・・・・・・こっちが聞きたい。

 

 だからきっと、羽鳥は悪くない。

 

 ただ、何に関しても器用にこなすあの兄なら、こうはならないだろうと思っていた所だったので、無性に腹がたっただけ。

 

 

「僕も、祝いたいよ・・・・・・・・・」

 

 それも、知ってる。

 楽しそうに配置や段取りを語っていたから。

 

 

「手伝わせてよ・・・・・・・・・」

 

 限界。

 

 そうだ、誰かを祝いたいのなら、祝う側は提携していた方が良いに決まってる。

 そう、だから、ちょーこの為に。

 

 戸を開ける。

 

 どこかホッとしたような笑顔が印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パクリと口に入れる。

 咀嚼して、嚥下。

 息を詰めてその一連の動作を見守っていると、羽鳥はニッコリと微笑んで、

 

「マズイね」

 

 ・・・・・・・・・だったら笑うな。

 時々、本気で殺意が湧く。

 

 

「で、どーする?」

「あ?」

 レシピを手に取り眺めながら、羽鳥が続ける。

「多分だけど・・・・・・どこが悪かったのか、おおまかに予想付くよ」

 ピラピラとレシピを揺らしながら、口端を上げた。

「アドバイス、必要かな?」

 瞳が挑戦的に煌めく。

 

 挑戦的に・・・・・・いや、そのもの挑戦だ。

 

 極端な二択。

 半端に協力を請うた俺の、軽く傷ついたプライドを、

 楽をして、粉々に砕くか?

 馬鹿な意地を張り、だけど修復するか?

 

 2つに1つ、さぁ選べと。

 

 

「・・・・・・・・・・いらない。美味いか不味いかだけ言えばいい」

 

「うん、それでこそ」

 満足げに微笑む。

 どうやら期待通りの反応だったようだ。

 どういった期待かはわからないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次はまたしても羽鳥視点。

・・・・・・・・・なーんでこんなに長引くかなー?