「きび?」 「うん」 「って、きび団子とかの?」 「正確には、たかきび。もしくはミートミレット。聞いたことない?」 そっちなら、あるような気もする。 「それにしても……何かは知らなくても、肉じゃないって事くらい、食べてわかんなかった?」 「悪ィ、流し込んだ」 「そ、そっか。………見た目懲りすぎたかな」 「オムレツってのは?」 「豆腐とトロロ芋。玉蜀黍の裏漉し混ぜるとパッと見それっぽく見えるようになるんだ」
精進料理だったらしい。洋風だけど。 無駄に神経すり減らしてしまった。
「そーいや、肉駄目な理由って?」 「ん……自我のある生き物は、感情の残り香みたいなのがちょっとキツくて」 「はあ?」 「や、こっちは分かりにくいかな。感覚的なものだし。 他の理由としては………うち、基本的に土葬なんだけどさ」 「あ?」 また話題がぶっ飛んだものだ。 「病死の場合は火葬になるわけで、でも設備なんてないから、火を着けたらしっかり肉の焼けるニオイが」 「ストップもういい」 「あ、やっぱり」 なるほど、食事時に聞きたくない話だ。詳しく話されたらこっちまでしばらく肉が食えなくなりそうな。
「理由はわかったけど、お前らんとこ皆そうなのか?動物性タンパク質全く出てこねぇの?」 「ちょーこが居た間は食べてたけど、元々食事自体ほとんど取ってなかったからなぁ。 拘らない人が殆どで、拘るにしても僕は精進料理で似非肉のバリエーションに凝ってたし……」 「食事取ってないって、え?」 「外から栄養摂取する必要がないんだよね。水分は要るけど。 あ、あと日光当たんないと調子悪いかな僕は」 眼の色薄いから強い日差しはやっぱり駄目なんだけど、と苦笑する羽鳥を呆然と眺める。 人とは違うと、知ってはいたけど。 水と、日光?それって、動物よりも、まるで、 「植物みてぇ……」 「近いものかも」 「へ?」 「ご想像にお任せします」 そう言うと、投げるように肩を竦めた。
「いやお任せって……」 「何の話だ?」 納得できなくて言い募ろうとすると、後ろから良く似た声が割って入る。 「あ、飛鳥ちゃん。ちょーこは寝た?」 「ああ。これから茶を淹れるけど、飲むか?」 珍しく、ちょーこ以外にも気が回るじゃん。 「ん、よろしく」 「じゃあオレも」 分かったと、頷いて飛鳥が台所に消える。 のは、いいんだが……
「なぁ……何で飛鳥、植物用栄養剤なんか持って行くんだ」 「さぁ?僕に聞かれても」 「え?だって植物って、あ?」 いやいやまさか、軽く混乱している京太に対し、羽鳥はニコニコしている。 「飛鳥ちゃん、ちゃんと薄めて使ってるかな?原液だと植物でも枯らしちゃうタイプの奴だよね、さっきの」 「……植物『でも』って何だ、でもって」 「人には毒だよねぇ。ま、死にはしないだろーけど」 「………」
しばしして、淹れてもらった茶を前に、京太が再び神経をすり減らす事は言うまでもない。
何で減ってんだよ植物用栄養剤!
「何が気に入らないんだアイツは」 「あはは。飛鳥ちゃん、奥さんに庭木の世話頼まれた?」 「ああ。他に何に使うんだ」 「何だろーね。………僕と違って冗談言うタイプじゃないからこそ、怖かったんだろーなぁ」 「何の話だ?」 「タイミングが絶妙だったんだよね。狙ってもないくせに」 「……何したんだお前」 「僕じゃないってば。 僕はただ、せっかく気合入れて作ったのに味わって貰えなかったんで、ちょっぴり煽っただけ」
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割と実話。私ら姉妹のジョークは遊びに来た友人に結構ビビられます。
ところでミートミレットは食べた事ないので実際の所は知らないのですが、肉に似せた豆製品って本格的なのだとかなり騙されますよ。台湾で試食しまくってビックリしました。
……今、思音さんに突っ込まれました。味噌汁、鰹節のつもりで書いてましたが、精進料理の出汁って言ったら昆布や干し椎茸であって、回収は容易でしたね……。まさかでろんと昆布が入りっ放しな事はないだろう。それはさすがに生臭い。
つか、寺生活ならともかく、弥栄家の食事を普通に取ってたなら、出汁まで気にしてはいないと思うのですが。食う物無くなるわ。
私はそんな事より、買出しに行ってないのにどうしてたかきびなんてものがあるのかの方が気になるが。子鞠山で栽培してたんか?
ところでこのお題で当初考えてた没ネタ見ますか?