「なんか、ドキドキするかも」 最後に唇を一舐めして、羽鳥は悪戯っぽく笑んだ。
「何が」 冷たかった舌は同じくらいになっていて、離れ難くて困る。 「や、ありがちだけど色っぽいだもん。吐息熱いし目潤んでるし?」 甘えるように肩口に顔を埋めた羽鳥の、クスクスと笑う息が耳に掛かって少々こそばゆい。 こそばゆくて、耳の奥がざわめく。 「羽鳥・・・・・」 「呆れてようがなんだろーが、掠れ気味の声もいい感じ」 笑みは収めないまま、身を起こした。 「喉痛いの知った上で、もっと呼んで欲しくなっちゃうから・・・・・・この辺で水でも持ってきますか」 離れる体温が、惜しくて。
「ん?」 今度は意識的に袖を引いた。 だって。外はもう殆ど日も落ちかけて、これから暗くなる一方で。
「水の他に欲しいものあるの?」 「あ・・・・・・」 もういい、病人なんだ。だから認めてやる。 「・・・・・・・・・飛鳥ちゃん?」 名を呼ばれたいのは、こっちも一緒。 欲しいと、いうなら。 「なぁ」 「うん、何?」 袖を引いて、逆らわず近付いた耳元に、
「うつしても、いいか」 ビクリと羽鳥の肩が跳ねた。 「えっ・・・と?」 「嫌か?」 問いながら、羽鳥の作務衣の結び目を解いた。 ちょーこと暮らすようになってからは一度も無かったとはいえ、意味は通じる筈。 現に、面食らったようではあるが、探るような目線を向けられる。
「・・・・・・・・誰かにうつすと直るってのは迷信だよ?」 「知ってる」 「汗掻くといいってのは、もっと程度の軽い場合に限った話だと思うし・・・・」 「嫌なのか?」 「人恋しい?」 「多分な」 肯定すれば、羽鳥は2、3度瞬いて、 「・・・・・・・・・いーよ」 再び唇を寄せてきた。
何度か啄ばむようなそれを繰り返していた合間に、 「あんま動けないんじゃない?僕が抱く方向でいい?」 優しくするよ?と言われて少し考える。 そっちに回った事はない。だからといって、怖いとかではなくて、 「・・・・・・嫌だ」 「あ、そ・・・」 言われた通り、腕を上げるだけでも億劫だ。 だけど、受け入れて欲しいのだと思う。そんな、ちゃちな我侭ごと、全て。 だから身を起こそうとして、クラリと眩暈を感じて布団に沈む。 ・・・・・・・・・泣きたくなってきた。 「ああもう!わかったよわかったから、そんな不安そうな顔しない!」 「羽鳥ぃ・・・・」 ゆるゆると手を伸ばせば、ちゃんと掴んでくれたのでホッとする。 「そーとー熱回ってんなぁ・・・・・・大丈夫かな。ちょっと可愛いけど」 呟いて、飛鳥のその手を布団に縫い付けて、覆いかぶさった。 「やっぱり、抱くよ。飛鳥ちゃんはそのまましてて」 「それは、嫌だって・・・・」 「大丈夫。包み込んであげるから」 全部ね。 羽鳥の夜着を肌蹴ながら、羽鳥が安心させるように笑ったから、飛鳥もつられて頷いた。
「っ!?」 ツ・・・・と冷たい物が肌を滑ってぎょっとした。 「あーごめん、やっぱこーゆーの嫌?」 「いや・・・・というか何・・・」 「熱そうだったし、折角あるんだから、氷プレイ。一回やって見たかったんだよね」 えへv 幼子のように愛嬌たっぷり笑ってみせるが、やってる事は到底子供らしくない。 しかも、嫌かと聞いておきながら、返事の返る前にさっさと再開している。
宵闇に白く浮く肌の上、舌で転がせて、滑るのを追う。 「・・・・・・くっ、う・・・・・・・・・っ!」 刺すような冷たさが胸の突起を掠めて、体が勝手に大きく跳ねた。 「堪えないで。喉痛める」 「・・・っア!」 カリ、宥めるように喉を甘く噛まれて、素で声が洩れた。 その声があまりに情けなくて、じわりと視界が滲む。 「大丈夫。いーんだよ風邪引きなんだから。病人は何やっても許されるもんだから」 ・・・・・・ね?囁きながら眦を吸われて、滲んだ視界が少し晴れた。
「ん・・・・・ふ、あっ・・・・」 冷たく硬い氷の後に、少しぬるくて柔らかい舌が滑っていく。 時折留まっては吸い付き、甘く噛む。 空いた手は火照った体を宥めるように融けた水気を塗り込めて、その冷たさはそうと認めてしまえば心地いい。 「ちょーっと水商売みたいだけど・・・・・」 「あっ!?」 先程まで額に当てていたものだろうか、よく冷えた布の感触を下肢に覚えて驚いた。 「あっ、あ・・・・」 柔い布地に包まれて、急激にそこに血が集まるのが分かる。 「う、くぅ・・・・・!」 息が荒い。熱くて喉が焼ける。 呼吸が整わなくて、苦しくて意識が不連続に飛びかけている。
「やば・・・・・・急き過ぎた?」 「あ・・・・・・?」 ぺちぺちと頬を軽く叩かれて、薄っすらと瞼を持ち上げた。 「大丈夫?やっぱ抜くだけにしといた方が良くない?」 「・・・・・・ぃ、や・・・だ」 上手く声にならないのがもどかしい。 「・・・・・・はいはい、もう聞かないからね。悪化すんの覚悟しときなよ」 そう言って、ようやく自分の袖を抜いた。
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風邪薬にかこつけて妙なクスリでも飲まされていないか心配です飛鳥ちゃん。
そして何続かしてんのか、自分が心配です。オマケ要素のくせに。
この時点まで読んで、当サイトの羽鳥は受だと思ってくれる方はどの程度いるのだろうか。私なら先入観無しに読んだら絶対信じない。