こんな時間が続けばいいのに。

 そんな事を思いながら笹茶を啜ります。

 

 この親友の存在は稀少です。

 昔はもっと友達がいました。否、皆今でも友達と言って差し支えは無いでしょうが、分け隔て無く、とは言えなくなってしまいました。

 小さな頃は対等でした。ですが、村長の家が屋敷になりーー村長は長いこと固辞しましたが、偉い人が訪ねてくるようになった以上、代表者の家がボロ家ではいけなかったようですーー村が発展してくるにつれ、その豊かさをもたらしたのが誰なのか、子供ながらに感じ取っていきました。

 誰も、意識して遠ざけようとしたのではありません。でも、気後れしてしまうのは仕方のない事でした。

 そんな中、前と変わらず接してくれる、この緑の髪の親友は、とてもとても有り難かったのです。

 

 じきにこの村は、どこかの貴族の物になるでしょう。そうしたら、村長は村に残るでしょうが、自分はその貴族の娘の屋敷へつれて行かれる事でしょう。金銀を見つけだす時だけ帰って来て、しかしゆっくり滞在する事なく、ほとんどを都で過ごすのでしょう。

 友が常にそこにいて、あの少女が遊びにきてくれる、この村を離れたくなんてないのに。

 

 

「都で聞いた噂話が、もうひとつ」

「・・・・・・ん?」

 もの思いに耽っていたので、反応するのが少し遅れました。いけないいけない。

「帝が、この村に興味を持ったらしい、ってさ」

「まさか」

 反射的に否定するような言葉がでましたが、ありえない話ではないかもしれない、とも思いました。

 帝だったら、今までの貴族のように、娘と添わせて身内に引き入れたりするような、まどろっこしい手順を踏まなくても良さそうです。

 だったら、村を離れないでいられるかな?

 と、思ったのですが、

「帝の、お世継ぎの話は知ってるよな?」

「え。それこそただの噂だろ?」

 

 帝は、信じられないような話ですが、もう1000年も一人でこの世を治め続けてきました。1000年、ひとたびたりとも代替わりする事なくです。

 現世に降りてきた女神(ええ、女帝です)なのだとか、世界そのものの声を聴く巫女だとか、いろいろ言われてはいますが、実際のところはわかりません。

 そんな帝が、後継者にする為に養子をとったという噂があがりました。もう10年近く年前の事です。 

 帝が本当に1000年治世していたならもちろん、あるいは本当は世代交代しているのをそう装っていたとしたなら猶の事、後継者など必要ありません。

 

 なので、ただの噂話だろうと思っていたのですが、

「正式に発表があったそうだ。娘だって」

「へぇえ!」

「御名はまだ知らされてないけど、年明けに巫女としてお披露目されるらしい」

「へー。あ、巫女として、なんだ。ふーん・・・・・・・・・国が揺れそうだなぁ」

「そうだな」

 この村は大丈夫かな。ある意味一触即発状態なので心配です。

 

「で、さっきの話なんだけど」

「え?どれ?」

「帝がこの村に興味を持った、っていうやつ。正確には、「次の帝」が「輝夜の君」にご執心らしい、という話になってる」

「は?え、それって・・・・・・」

「お前、次の帝に求婚されるかもしれないな」

「えええええ!? じょ、冗談だよな・・・?」

「そんな噂があるのは本当。俺には何とも言えない」

「そんなぁ・・・」

 友人はさらりと言いますが、もし本当にそうなれば大事です。

 

「そうなったら、断れない・・・・・・よな」

「だろうな」

「・・・お前、最近冷たい」

 少し前までは、一緒に思案顔してくれていたのに。

 いえ、困らせたくはないのですが、軽く応えられると少し寂しいというか。別離を嫌がっているのはオレだけかよというか。難しい年頃です。

 

「そうでもない。ちょっと思う事があるだけ」

「思う事、なに?」

「まだ確証がないから。多分合ってるとは思うんだけど」

「えー、気になるだろー」

 駄々をこねれば、友人は大丈夫、と言って微笑みます。

「心配しなくていい。悩まなくていい。それが本当に合っていたら、そう悪い事にはならない筈だから」

 根拠のない口だけの励ましなどしない親友が、優しく笑ってそう言うから、少年はなんだか本当に大丈夫な気がしてきました。