葦

 

 

 脳内リフレインON、ぼくたちいますずみやさんこうにんなんですよ。

 聞き間違いではないっぽい。

「………そりゃまた、いつから」

「僕たちが交際を始めて、すぐですね」

「なんでまた」

「僕が報告しましたから」

「………へぇ」

 

 ちょっとした衝撃だったのだが、それで古泉の罪悪感がなくなったというのなら、歓迎するところかもしれないな。本格的に俺が世界崩壊のきっかけになるという説も否定されたようで、ホッとした面もある。

 最近順応性高いなー、俺。

 

「最近ハルヒの機嫌がいいのは? 団員が幸せそうだからとかいう理由なら驚きだせ」

 最近はいい団長ではあると思ってるけどな。

 首をひねりつつ尋ねると、にこぱっとした笑顔(この表現もいかがな物かと思うがこの辺が一番妥当なんだよ)で古泉が答える。

 

「ああ。それは、涼宮さんがしたいと渇望されていた事を悉く僕が行っているからです」

「………は?」

 すまん、意味がわからない。

 

「涼宮さんはあなたに笑いかけたいと思っている」

 古泉はふわりと笑う。付き合いだすまでしなかった笑い方で。

「涼宮さんはあなたと手が繋ぎたい」

 古泉は俺の手を取り、指を絡める。

「涼宮さんはあなたとキスがしたい」

 整った顔が近付き、唇に柔らかい感触が残される。

「涼宮さんはあなたと恋人になりたい」

 くすくすと耳元で笑い声。背中に腕が回される。

 

「彼女は、あなたが好きだから」

 

 なんだ、これ。

 

 これほど古泉が何を言ってるのかわからない事も稀だ。

 それに何だろう、この纏わり付くザラリとした違和感は。

「まだそんな事言ってんのかお前、だったらあいつがあんなにご機嫌な筈がないだろう」

「いいえ。だって僕は」

 裏のない笑顔。以前の古泉からは考えられなかったような、そんな笑顔で古泉は言う。

 

「僕は、彼女のものだから」

 頭を殴られたような心地がした。

 

 

「こ、古泉……?」

「僕らはもともと彼女の理性。彼女の、相反する願いを遂行する為のモノ」

 ハルヒは願う。こんな世界無くなってしまえばいい。この世界を失くしたくはない。

 その為に、神人は居る。古泉たち超能力者が居る。

「僕は、彼女の一部なんです。彼女の奥深くにある願望を叶える為の。だから彼女は、僕に投影ができる。僕だけに。僕たちだけが、宇宙人も未来人も真似できない、彼女の手足になれるから」

 

 色の薄い瞳が俺を映す。トロリとした視線は俺を捕らえていながら、俺を見てはいない。

 複雑な何かを命一杯内包していた古泉のまなざしはそこになく、純粋と言っていい真っ直ぐな子供みたいなその目。

 真っ直ぐすぎて、俺を突き抜けて、神を見る。

 

 これは、誰だ。

 俺はこれが、本当に古泉の素なのだと思って喜んでいたのか?

 こんな、太陽みたいな(ハルヒみたいな?)子供の表情が?

 

 いつからだ?

 いつからとって変わられた?

 

「お前は、どこにいる」

 ハルヒの代理ではない、古泉一樹の意思は。

 古泉は、少しは俺の事を好きだった?

 

 いやだなぁ、と笑う。

「僕は、僕です。言ったでしょう?今までの僕ではいられないと」

 わらう。わらう。

 

「追加です。彼女は、あなたに愛を囁きたい」

 満面の笑みで、古泉はそれはそれは楽しそうに。

「僕はあなたが好きですよ?愛しています」

 それはおそらく嘘じゃない。

 だけど、それは、誰の想いだ。

 

「ええ。心より愛していますよ、キョンくん」

 無邪気な笑みを浮かべた古泉が、今まで一度も呼ばなかった俺の渾名で俺を呼んだ。

 

 

 

 

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