風が、吹いてる。

そう、思った。

 

 

Wind Climbing

 

 

 冷静に考えたら、今いるのは地下100階、風など吹いているはずがない。

 だからキルアは気にせず近づくことにした。

 向かい風の中に身を投げたような感覚とともに。

 

 

 ゴンと会った時の印象はそんな感じで、未だにそれは継続中だ。

 傍にいると楽しいんだけど、離れると疲れていたことに気付く。

 風に向かって立っているように。

 馴染まない、と思う。

 オレの場所じゃ、ない。

 だって、と未だ変形させたままの右手と、数秒前まで動いていた肉塊を見つめる。

 断面から溢れる夥しい血はいずれ勢いをなくし、見開かれた瞳ももう光を通すことはない。

 ほら、ね?

 あのジイさんからボールを取れなかったくらいでこうなるのは、普通じゃない。

 我が家の、普通だ。

 イラつく。

 殺して、頭が冷えるとあの家の癖が抜けない事が腹立たしい。

「チッ……!」

 くるりとそれに背を向け、走る。気配を殺したままに。

 誰に見られるかわかったもんじゃないから。

 殺した後は、速やかに撤退する事。

 ああこれもあの家の教えだ。

 そう気付いて足を止めた。

 ゆっくり歩きだしたと同時、人の気配を感じた。

「…………キルア?」

 角から姿を現したのは、ゴンの知り合いの一人。

 なんていう名だったっけ、そういえばちゃんと紹介もされてない。

「疲れたから寝てるんじゃなかったの?」

「目が覚めてもお前達が戻らなかったから。」

 だから、探しに来たというのか。

「戻る、なんて言った覚えないけど?」

「それはそうなのだが………怪我でもしていないかと。」

「はあぁ?」

 保護者じゃあるまいし。いや、それにしたって過保護すぎだろう。

「……キルア、どこか怪我でも?」

「オレが、んな簡単に傷つくかよ」

「……そう、か……」

 おや、と思った。1瞬複雑そうな表情をみせたから。

「どしたの?」

「ゴンは?」

 質問に質問で返された。

「あっちで会長のジイさんと遊んでる。」

「そうか……なら、あちらにシャワールームがある、流した方が良い。」

 どの辺が『なら』なのかわからないが、まあ汗だくだし、シャワーはありがたかったので素直に従う事にする。

「サンキュ、アンタはどーすんの?」

「また眠るさ。無事のようだからな。」

「そ、んじゃオヤスミー。」

 

 

「っはよー。」

「あ、キルアおはよー。」

 結局眠らないまま夜を明かし、朝食をとりにいけばもう3人とも揃っていた。

「あれ?」

 近づくと、ゴンが声を上げた。

「なんだよ。」

「キルア、どっか怪我した?」

「え?」

 昨夜も、同じ質問をされた。

「してねーけど、なんで?」

「あれー?血の匂いがする気がするのに……?」

 ギクリとした。

 コイツ、ホントに鼻が良い。

シャワー浴びたのに、洗い流せなかったらしい。

浴びていなければどうなっていたのやら。

「クラピカもだよ、ホントに怪我してない?」

そうだ、クラピカだ。コイツの名前。

コイツからも、血臭が……?

「どこも。……昨夜、死体が見つかったろう。先ほどその通路を通ったからな。

 その時に移ったのだと思う。」

 お前もそんなところでは?と言ってキルアの方に顔を向けたクラピカの、その髪が僅かに濡れているのが見て取れた。

「おー、あれな。」

 答える前に口を開いたのはおっさんだった。

「運ばれてくの見たけどよ、目を閉じてたってことは寝込みを襲われたってことだろ?

 ゾッとしない話だよな。」

 目を閉じてた……?

いや、確かに見開いていたのを覚えている。

ならば。

誰かが閉じさせたのだ。

誰か……いや、決まっている。

湿った髪、ついた血を流して来たのだろう。

バカな奴、血、苦手そうなのに。

怪我をしているかと訊いた。

わざわざ探しに来たのも、血臭を感じてのことだろう。

2人とも無傷と知ると、ならば流して来いといった。

浴びろではなく、流せといった。

『オレがやった』のなら、『ゴンに気付かれる前に』『血を』流せと。

この分なら、自己紹介を避けたのは、たまたまではないだろう。

クラピカ

もう、この名を忘れそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイトルとあってねー

ま、これはシリーズ第一作目だけどね。

これから明るくする予定。

 

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