Wind Climbing U
「人殺したこと ないんでしょ?怖いの?」
「殺しを怖い怖くないで考えたことはない」
ウソだ、と思った。
いや、本人は本当のつもりなのかもだけど。
そんなに、簡単なものじゃあ、ない。
……気に入らない。
「さっきの技はどうやったんだ?」
訊かれたので、右手を操作して見せると黙った。
敵にまわしちゃいけないとでも思っているのか。
……気に入らない。
「そーゆーアンタは?」
「何の話だ。」
「さっきの、赤いのもっかい見たいな。」
途端に強張るのが見て取れる。
「見せようと思って見せられるものではない。」
「あ、そ。
まーいっか。生でクルタ族見れるだけでも貴重な経験だし。」
今度こそ、平静を装うのはやめたらしい。
本気で睨みつけられる。
「あれ?キルアどーしてクラピカがクルタ族って知ってるの?」
そういうゴンの声は、場違いに呑気なものだったけれど、
その程度ではこの険悪な雰囲気を破るには足らず、また、破らせる気もない。
「あー、やっぱ知らなかったの俺だけなのな。
んなもん緋の目見りゃ一発じゃん。」
「緋の目って?」
「あれ?それは聞いてねーの?緋色になる眼はクルタ族の特質だろ?
全滅したってことになってるから、プレミアついてて両目そろって数億から数十億。
頭部とセットだとそれ以上♪」
「その辺に、しておけ。」
怒りを押し殺したような声がする。
「……全身なら、いくらになんだろーなー。」
「黙れと言っている!!」
緋の目になるほどではなくも、なかなか良い殺気だった。
「聞く義務ねーし。」
「ちょ、ちょっとキルアー。」
別に、ホントに緋の目が見たいわけじゃない。
ただ、コイツにとっての強みであり、何よりの弱みであるものをおさえておきたいと思っただけ。
油断ならない奴だと思うから、いざって時のカードは多いほうがいい。
でも、
不安定だった瞳の色が、オレが注目してるのを見て取ったか急速に冷めて行く。
さすがに、場慣れしてるか?
「この御曹司さまは随分と、好奇心が旺盛とみえるな。」
声質、氷点下。
茶色い瞳は絶対零度ってとこか。
冷気に当てられたゴンとオッサンが凍ってたりするけど、その程度の眼力、オレには日常茶飯事なんだよな。
それよりも、明らかに勝てるとわかる相手なら、馬鹿にされれば挑発だって乗りましょう?
「なんか言いました、生き残りのお姫サマ?」
「逃げたくなるほどご立派な家のお子様に言えることなどなにも?」
全然他愛ない応酬だし、ポイントはオコサマの部分だったんだろうけど、
今のオレには家から逃げた、というのは地雷だ。
ダンッ!!
見開かれた瞳は音のためか、いきなり至近距離にいたオレの所為か?
「なっ・・・・・・」
「取り消せ」
左手で肩を壁に縫い付けながら告げたオレの声にか力にか、ビクリと震えたのを感じ取る。
「取り消せ、オレは、逃げたんじゃない。」
それでも、いっそ賞賛するほどのコイツのプライドの高さは1瞬浮かんだ恐怖を跡形も無く霧散させた。
「・・・・・・何でも、力で押さえつければ思い通りになると信じている程世間知らずではなかろう?お坊ちゃん」
・・・いー度胸だとは思う。ただ、明らかに場が悪いだろーが、どっちが世間知らずだよ!
ムカッときたオレは思わず手に力が入ったか、かすかな苦痛の表情を見てとった。
そのとき
「いーかげんに、しろー!!!」
ついに怒鳴ったゴンのでかい声のおかげで、その場は打ち切り。
「ホラ、2人とも謝って。仲直りしてよ。」
直る程の仲がどこにあったよ。
「できない。」
「同じく。」
なんだよ、気が合ってるじゃねぇか、と言うおっさんを一睨みして黙らせて、
この50時間の監獄が早く過ぎるよう、とにかく願った。
前半と後半に随分時間が空いたので、もう何を書こうとしたのかよくわからん状態だったよ・・・。
しっかし仲が悪い事。クラピカはこういう挑発はしないと思うのだが、こうでもせんと接触が全くなくなってしまうので。