Wind Climbing ]T
蜘蛛を捕らえる鎖が欲しい。 ただひたすらにそのことだけを願った。
ハンター証は手に入れた。裏試験とやらにも合格した。 しかし、私は未だ挑めるだけの力を得ていない。 私の、憎しみ 私の、怒り 奴らを討つべく形となれ
意識が無くなるまで修行するのはよくあることで、時には近くの川に落ちることもある。 気が付くと裏試験の試験官に引き揚げられていて、ひたすら悪態をつかれることとなる。
「ったく、せめてぶっ倒れても問題のないところでやろうとか思ってくれりゃあ、少しは仕事が減るんだけどな!」 「ならば早々に立ち去れば良い。貴様の仕事は終わっているのだろうが。」
背後で何か喚いているのを聞き流して、いつもの修行場へ向かう。 罵詈雑言らしき言葉の無意味を悟った、独り言の様な呟きだけが耳に響いた。
「何だって水辺に拘るんだよ。」
さあ、何故だろう。 ただ私のイメージ修行には、流水が似つかわしい気がするのだよ。
今日も水面を眺め、いや、むしろ睨みつけながら念の具現化を試みる。 何が、足りぬのだろう?
何も得ぬまま、今日もオーラを出し尽くし体が傾ぐ。
おや、今回は身体よりも意識がもったのか。 そんな事を思いながら水面が近づいた時、そこに映った満月に気が付いた。 勢い良くぶつかった私に、揺れて朧な月はそれでも冷たく、硬かった。
肺に残る空気を出して行くと、人というのは沈むものだと再確認する私の余裕はどこから来るのやら。 たいして深くも無い水底にたどり着く頃にはいつの間にやら身体は反転していて、先ほどの丸い月と今度は正面からまみえた。 水面越しの月は、穏やかな銀で形作られていた。
「またかこの馬鹿弟子!」 そんな声と共につかまれた右腕。 引き揚げられる際にも水面はやはり硬かった。
「お、今度は起きてんのか?だったらさっさと上がれよ。」 言いながら1人川から上がる背中を見、そしてもう一度月を見上げた。 瞳に残る、銀の残滓
「・・・・・・・・・ルア・・・」
「何してんだ、早く来い。」 言葉と同時に投げつけられたタオルはまだ乾いたもので、私は少しだけ笑いたくなった。 「ったく、たまには言う事聞けってんだ。師を少しくらい敬おうって心掛けがあったってバチは……」 文句はそこで途切れる。私が素直に川から上がったからであろう。
「師匠。」
目を見開いて驚く、未だずぶ濡れの我が師を見据えて。 果たしてこの男がいなければ私は何度水泡と帰していたことだろう?
「いつもすまない。とても、感謝している。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「どうした?」 理由はわからなくもないがな、頭部を押さえて樹と親しくなっている我が師よ。
「オマエ、熱でもあるんじゃねぇか。」 伸ばされた手を避けようとは思わないが。 仮にあったとしても今まで水に浸かっていた私の体温が、額に触れただけでわかると思うのか。
「別段、異常は無い。」 もっとも、その部位ははこれから熱を持つかもしれないな、と師のぬくもりを感じながら思う。
「ただ」 なぜなら、
「月が、優しかったから・・・」 私の額は、あの銀色に触れられた場所だから。
「ほーう、オマエにもそんな情緒があったとはな。」 「・・・そんなものではない。」 「なら、何だってんだ。」
悟られぬうちに、師の手を振り払う。
「既存の言葉に全てを当て嵌めようとするのは多分に愚かな行為だと思われるが?」 「・・・いつものテメエに戻ったな・・・」
殊勝なのは1瞬だけかよ、と愚痴る師に気付かれぬ程に薄く、私は雲に陰り始めた月に向かって微笑んだ。
元気で、いるか? 笑えて、いるか?
しばしの安らぎを得たよ、ありがとう
また、会いたいと、思う まだ、会いたいと、思える
今夜くらいは私が祈っているから 私が ずっと 願っているから
どうか 安らかな眠りを
おやすみ 銀の月
師匠初書き作品二本の内の一本。いつ書いたんだっけ? しかしこのシリーズで今までで一番キルクラしてる?キルア出てないくせに。 (私の)クラピカみたいな奴に、何もなしに思い浮かべられたりするのはスゴイ進歩です。 ところで私、例の(師クラで有名な)CDまだ聞いてないです。売り切れてるし
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