Wind Climbing ]U

 

 

 

手を、出したり引っ込めたり。

触れたと思えばまた離す。

 

一体、自分のケータイ掴むのになに躊躇ってるんだか。

 

モチロン、正確には掴むのに、じゃない。掛けるのに、だ。

 

しばらくかかって、やっとボタン操作するまでに到るまでの苦労ったら何なんだよ。

 

家の番号なんかソッコーで削除してやったから、メモリダイヤルどころか短縮で1発な番号だってのにさ。

 

液晶に光るのはたった4文字の名、それがこんなにプレッシャーを与えてくるものとはね。

 

 

 

ああもう馬鹿らしい。

だいたい何を話すってゆーんだか。

現状報告・ゴンは天空闘技場でヒソカに借りを返しました。念の基礎をマスターして、今はゴンの家でお世話になってます。もうしばらくしたらヨークシンに向かうつもりです。

とでも?

そんなの差し迫って今言うことでもないし、メールで充分。

 

はぁ、とため息一つ。

「やめた」

 携帯を放り出して、ベットに転がる。

 この番号は、用があればかけろと教えられたもの。

つまり用が無いならかけるなと。

そして今、用と呼べるほどの用を持っていない。

 

何を、話そうとしたんだろう?

 

 

寝返りを打った拍子に頬が痛んだ。

回復が早くて、痛みに慣れてる自分。

ありえないよ。

一般人に叩かれただけで、時間をおいてまだズキズキと痛むだなんて。

 

 

再度、携帯に手を伸ばす。

ミトさんに叩かれちゃったよ。

ねぇ、アンタなら手負いの獣をどうする?

密猟者に撃たれたキツネグマ。

助かりそうになかったから、早く楽にしてやろうと思ったんだけど。

どうもこの考え方は普通じゃないみたい。

アンタは、どう思う?

 

 

少し、うたた寝ていたらしい。

携帯を握ったままだったせいであろう、夢をみていた。

 

「どーせなら答え聞いてから起きりゃ良かったのに……」

もっとも、想像できるような答えならいらないけど。

 

またころん、と転がると窓から満月が見えた。

おお、見事な真ん丸。なんかマヌケ。

にしても人が珍しく傷心なんだから、もう少し遠慮して光っててくれない?

色といい気が利かないトコといい、そっくりなんだから。

 

…………って、誰に。

月にあの人の面影を見出して………なんて少女漫画じゃあるまいし。

にしては貶しまくってたようなところがまだ救いか。

 

気分を変えよう。

鞄をさぐると以前クラピカから貰った飴が出てきた。

これまたお月様色、なんてことは気にしない事にした。

 

ゆっくり広がる甘さが、じんわりと染み渡る。

頬の痛みが引いていく気がした。

くれた本人もこれくらい控えめだったらいいんだけど。

 

そりゃね。

死に行く者にも少しでも長く生きられるようにって気持ちも理解できる。

でも結局どっちにしたってエゴだ。

見ている側の勝手な押し付け。

それで怒られるっていうのなら。

もう少し好き勝手してみようかな。

結局あのキツネグマは助かった訳だしね。

 

とりあえず、身近にいる、死出の旅にと全力疾走な人にでも。

邪魔はするまいって思ってたんだけどね

今度会ったら足引っ掛けるくらいの妨害はしてやろう。

 

もうひとつ、飴玉を口に放り込みながら。

良く判らない結論を下すキルアであった。

 

 

スッキリしたから階下のキツネグマの様子でも見に行こうっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

]Tがクラピカだったので対で。

結構難産。これでも。

キツネグマのエピソードはアニメ及びキャラブックより。

キルアの行動は彼なりの優しさだと思うので、ちょっと可哀想に見えたものです。

 

 

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