Wind Climbing V

 

何の 夢を 見たの?

 

目を開けると闇。

でもそれはキルアにとって日常のことで、どころか普段に比べたら明るい方かも、とすら思える。

同じ部屋に自分以外の気配があるというのも滅多無い事で、それで現状を思い出す。

与えられた五十時間というものは、早々消化できるものでもなくて。

眠って過ごそうかと思えばこうして夜中に起きてしまった。

夢を、見たのか。

覚えてはいない、思い出せない。その程度のことの癖に。

この、後味の悪さはどういうことか。

一体何の夢をみたものか、判らないなりにもその要因に心当たりはある。

昼間のうちの、軽い諍いが後を引いてる。正確には、その際にアイツが言った言葉が?

襲いくる、抜け出たはずの闇、闇。闇!

…………そっか、覚えてないんじゃなくて、暗すぎて認識できなかっただけか。

イライラしてきた。ムカついてしょうがない。

ああもう、全部アイツのせいだ。

「畜生、あの仏頂面へ理屈ヤロー………」

 

「……誰のことだ」

「へ?」

呟きに、返って来てしまった声。

起き上がると椅子に座ったアイツ―――クラピカの姿が見て取れる。

「何してんの?」

「見て判らないか」

いつにも増して愛想が無いのは多分あっちも昼間のことを引きずってるんだろう。

「何飲んでんのって聞いてんだよ。こんな夜中に」

言いながら手の中のカップの中身を覗き見る。

軽く湯気をたてる白い液体。

「ホットミルク?」

「まあな」

「ふーん、結構ガキっちいもん飲んでんのな」

「………夜中にうなされて起きる奴に言われることではないな」

 相変わらずの言い方だけど、

「………うなされて?」

「うむ」

 ……たのかオレは………。

「何の、夢を?」

「………言う必要が―――」

「無いな」

言葉尻を奪って自分で否定して、クラピカは軽く笑って見せた。

「良ければ」

 示されたもうひとつのカップを、キルアは意外なものを見たように眺めた。

 何故、カップが2つ?

「誰か……話途中に寝たとか?」

 言いながらこれは違うなと周りを見渡した。

みな熟睡しきってる。湯気が残っているような時間で寝入ったとは思えない。

「いや?」

「供え物とか……」

「そういった習慣はない」

「んじゃ、2杯飲む気だった?」

「………そうかもな。別に飲まないでいいぞ。

 気が付いたらうなされてる奴がいて、ただ意味も無く作りすぎてしまっただけだ」

 ……最初からオレ用ですか。

「普通、起こすとかなんかしない?」

「下手に近寄ると命に関わると思ったのだが?」

「………懸命なご判断で」

 ありがたく頂いておきましょう。

 

「甘い、何?」

「蜂蜜」

そんなのあったっけ?と思いながらもその仄かな甘みと、湯気の消えたやわらかな温度はピリピリしてた神経を和らげてくれるもので、余裕ができると何か言わなきゃという気がしてきた。

「えっと、昼間は、その……………」

「私は謝らないからな」

 人が殊勝な気になったところで突き落とすな。

「………謝らない、から、お前も無理に言うな。それで、良しとしないか?」

 お互い帳消しに?

………ま、ね。確かに悪いと思ってる訳でもないのだし。

 キルアは、何も言わずに残りのミルクを飲みきり、席を立った。

「ごちそーさま。サンキュな」

それだけ言って、さっさと自分の寝床に戻る。

 クラピカの軽く驚いている顔を視界に入れながら。

 

「おやすみ、キルア」

 少し間を置いて、そんな呟きが聞こえた気がした。

 いい夢が見れそうな予感に目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ仲良くなってくれんと別れまでに間に合わない。

なんか夜中に温かい飲み物飲んでるイメージがあるもので。

真夜中で夢とホットドリンクな話はもう一つストックあり。UPするかどうかは謎。

 

 

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