Wind Climbing W

 

 狩るか、狩られるか?

 そんなの、オレにとっては日常だ。

 試験の間、だなんて限定された刻ではなく。

 いつでも、どんな時でも。

 ホント言うと、オレに限った事じゃあない筈だけどね。

 自分は安全、なんて根拠の無いこと思ってやしないよね?

狩る気がなくても狩られる可能性をいつでも考えていないとね?

 

 Are You Ready ?

 

 

 

「暇だなぁー。」

 ヒマー、ひーまー、暇暇暇ー!

 

 受験生の中でも、こんなこと言っていられる奴は一握りだろう。

 幸か不幸か――――普通に考えれば紛れも無く幸の方なのだろうけれど―――――キルアはこの一握りの人種だった。

 もっとも、暇つぶしに来ている本人にとっては不幸この上ないことらしいけれども。うらやましい悩みだことで。

 

 自分が引いた番号が、一体誰の番号なのかもわからないため積極的に狩りにも行けず、自分を標的とする者は尾行バレバレの超・小物だ。

 さっさと片付けてもいいのだけども、どうせ1点だろうし、だったら荷物になるのはうざったい。

 なにしろ家出する時だって持ち物はスケボー1つという徹底ぶり。あんな小物、ポリシーを曲げてまで相手をする価値も無い。

 あっちが襲ってくる時までほっときゃいい。

 ああ、退屈だ。

 

 喉が渇けば水辺に行き、腹が減ったら―――――

 とりあえず、今は木の上で何かの果物を物色中。

 暇を持て余しながら5つ目の実に噛り付いたところで、暇つぶし発見。

 つっても、人の気配を感じただけ、なんだけど。

 

 キルアを尾けてる奴なんかとは違って、なかなかの隠れっぷり。

 これは、遊べるかも?

 

 木の上から様子をうかがっていると、姿を現したのは、

「……………………あ……」

 呟きが聞こえたらしい彼と目が合った。

「…………キルア」

 

「1人か?標的は捉えたのか?」

「まだ。かったるくて。

 ………あ、アンタこれ誰かわかる?」

「へぇ………」

 チラリ、とクラピカはキルアの後方の茂みに1瞬目をやる。

「お前は運がいいな」

「てーことは」

 オレを狙ってる奴が?

「いや違う」

 何が言いたいんだアンタは。

「機を待て。風は君に向いている」

 やっぱりよくわからない奴だ。

 

「ところであんたの方も――――」

 つけられてるよな。無論、試験官とは別に。

「わかっている。………ところで、その残骸はお前が?」

 キルアの足元に散らばる果物の食べかすを指して、問う。

「うん、アンタもいる?」

 返事も待たずに1つもぎ、放る。

「っと………!」

 反射的に右に持った刀で叩き落としかけ、慌てた様子で左手に収める。

しばし逡巡した後軽く齧った。

 

「で、アンタの標的は?」

「こいつだ」

 とプレートを見せられたけれど。

「……誰だっけ?それ。」

 見覚えがある気はするけど、と言ったら呆れられた。

「先ほどこの辺りを通った筈なのだがな」

「多少なりとも強そうでないと興味向かないし」

「成る程。…………なあキルア」

「何?」

「私と、組まないか?」

 

「へ……………?」

 かなり意外な申し出だった。

 オレはそーいったことを言われたためしが無い。

 1人でこなせる自信があるから。他の奴は邪魔にしかならない。

 そしてコイツも、ある程度の事なら単独で乗り切れるだけの力はあると認める。

 なにより、オレに頼るなんてのがこのプライドの塊の選択とは思えない

「アンタは、オレが嫌いなんだと思ったけど?」

「まあな」

 ……………こうまで即答する奴も珍しいよな。

 

「だったら何で」

「そろそろ単独では厳しいのだよ。嫌ならいいが」

「どーいった経緯でそーゆー気持ちになったのか知りたいんだけど?」

 いつもの誇りとやらはどこ行った?

「そうだな………とりあえず今は――――――」

 言いながらクラピカは手にした実を持ち替え、傍になっていた熟れ過ぎかと思われる実を捥ぎ取った。

 と思うといきなりクラピカの後方に位置する茂み―――キルアの指摘したクラピカを狙う者―――へ投げつけた。

 

 茂みから躍り出た男は、実を軽く叩き落とすが、熟し切った果肉は果汁を撒き散らす。

「気付いていたとはな。小癪な真似を………」

 顔に被った果汁を拭い、舐めとりながらクラピカに凄みをきかせる男。しかし、

「それで、理由なのだが……」

 当の本人、思いっきり無視してキルアの方を向いていたりする。

 立つ瀬ないなぁ、とちょっと男に同情してみたりして。

 

「馬鹿にするのもいい加減に…………!」

 怒りに顔が赤く染まり…………そして青くなった。

「この実には」

 どうっ、と男が倒れた。

「毒性がある」

 あくまで冷静なクラピカの声。

 

「まあ、あの程度ならば死にはしない。だがお前の方は致死量を遥かに越えている」

「…………鍛えてるから」

「そのようだな。だから、仲間に欲しいと思ったのだ」

 

「アンタも齧ってなかった?」

「私も少しなら、耐性をつけている」

「何で食べたのさ」

 キルアにとっては何てことのない毒。

 だから何も考えずに渡してしまったが、あまりにも感じが悪いではないか。

「…………純然たる好意だと思ったから、受けておこうかとな」

 いつもより、やや白い顔色で。

 まっすぐに見つめてくる。

 

「……………………………………」

 罪悪感を覚える必要は、無い。

 オレの気持ちを汲んで?

 馬鹿らしい。

「キルア、返事は?」

 きっと、わかってる。

 そうすれば相手は断りにくくなること。

 だから、乗ってやる義理なんか、無い。

 

「………………………………………」

「そうか…………」

 沈黙を、否定ととってクラピカが引く。

「お前には言う必要も無いだろうが、幸運を祈る」

 軽く左手を振って、背を向けた。

 ………左手?

 

 ああそっか、もしかすると。

 オレなんかに声かけたのは。

 

「オイ」

 呼びかけと同時に、キルアはそばにある未だ青い実を、投げつけた。

 

「……っ!」

 先程と同じ。

反射的に上がりかけたのは右手。しかし払ったのは左。

やっぱり、ね。

 

木から飛び降りると、警戒したような気配が伝わってきた。

「アンタ、右利きだよな?」

「…………わかるか」

「そりゃね、不自然さを見つけるのは得意技」

 なのにさっきから左しか使ってない。

 間違いなく痛めてる。

「痛みは?どのくらい動く?」

「………それほど。だが肩より上がらない。」

「この状況だときついハンデだな。………いーよ。直るまで付き合ってやる」

「無理強いはしないが」

「別にアンタが狩られようが知ったこっちゃないけど、オレの所為だってゆーならゴンに合わす顔が無くなるから」

 

「お前の所為では、ないよ」

 3次試験の、あのちょっとした諍いで。

 キルアが掴みあげた右肩は、完治する前に負担をかけた。

 重い武器持って壁破壊などやっていれば悪化もしよう。

 ここまで気付かせなかったコイツもそーとーな強情張りだが。

 このままではさっきの奴程度の敵にもあんな小細工を使わなければ危うくなる。

「いーって。直るまで、だからな」

「…………充分だ」

 

 

 かくして、妙なコンビが出来てしまった。

 4次試験終了まであと6日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うーむ、今回は終わってない感じだなぁ。どー考えても4次試験でもうひとついるね。あああどんどこ長くなる。

いやだって、こうでもしないと4次試験中会わないしこの人達。

寄稿したテニプリ文とかすかにかぶってる気もするが、まあ私の受けキャラは毎回こんな感じだしなぁ。

まだまだ仲は悪い模様。でも相性は良いって感じかな。

 

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