Wind Climbing Y

 

 

「私もレオリオも お前がいたからここまでこれたんだぞ」

「本当に 感謝している」

 

 いつもこちらが励まされるほど元気な子供を、慰める、励ます。

 それでもそれは、まぎれも無い、私の本心。

 

「オレの方こそ ありがとう」

 

 

 面談を行うとの船内放送。

 まず、呼ばれたのはヒソカ

「オレ達も行っといた方がいいかな」

「そうだな、行くか」

 クラピカは答え、足を出しかけてふと止まった。

「……番号順ならば我々はあとの方であろうし、顔を洗った方がよくないか?」

 泣いた形跡の残るゴンに言う。

「あ、そっか。じゃ、ちょっと待っててねー」

 言うが早いが駆けて行くゴンを見送り、その逆側の角を見やる。

 

「出てきたらどうだ」

「バレてたか」

 姿は現さず、声だけが返る。

 幼い声。この船にいるもう1人の子供、キルア。

「鋭いね」

「どうせ本気で隠れてないだろうが」

 つかつかとそばまでいって、それでも角は越えずに壁にもたれる。

「私も、慰めるのは苦手だし、できれば出てきて欲しかったのだがな」

 声も気配も近いのに、姿は見えない。背中合わせでもない、奇妙な距離。

「だってなー…………」

「何だ?」

 珍しく、歯切れが悪い。

「できれば、見られたくないもんだろ?」

 泣き顔ってものは。

「………へえ………」

「何だよ」

「いや……………」

 ひょいと、壁越しに顔を覗かせて。

「やさしい、な」

「え……ええっ?」

 赤くなったのを見て、姿勢を戻す。

 さすがに、笑ってはいけないと思ったから。

 それでも笑う気配とは気取られるもので、

「そーゆーアンタこそ」

 不機嫌そうな反撃がきたりする。

「何だ」

「もっと、クールな方かと思ってた」

 

 ふむ、と正面の窓の外を眺めながら頷く。

 雲が早い。風が強そうだ。

「そう、目指してるのだけどね。中途半端が一番嫌だ」

「あっそ」

 

「……………私は、『生かされている』という考え方は認めない。『生きている』んだ」

「ふぅん、多少なりとも裏世界を垣間見てるアンタにしては意外なお言葉で」

「選択肢はある。例えどんな時であろうとも。 他人に出来るのは、道を増やす事や誘導する事で、

どの道を歩むか、いや、歩くかどうかすらも己にしか選ぶ事はできない。

最悪、生きるか死ぬかを選ぶことくらいはしながら皆、生きている」

 

まあ確かに、とキルアは思う。

生命維持装置が付けられているような状況でもない限り、その2択くらいは残されているのかもしれないけど。

よく「死ぬことすら許されていない」とか言ってる奴も、何で死ねないのかの理由をきっぱり無視すれば自由はある。ただ無視できないだけ、それなら生きると選んだ事にもなるだろう。

ただ、普通の奴はそんな風に考えながら生きちゃいない。なんとなく生きるだけ。

 生死の境界に程近いところで育ったオレだって、いちいち生きる事を選んでるだなんて考えない。

 でも、コイツは違うんだ。

 死ななかったから生きてるのでなく、同胞の為に死ねないのでもなく。

 自分で、生きる事を選んで生きている。

 毎日、何時でも?

「……………………………………」

 それは、間違った感想かもしれないけど、オレから見て、

 それは、カッコ良い生き方かもしれない、と思った。

 カッコ良くて、それから悲しい。

 可哀想だなんて、自分で選んだ道を進むこの人に誰も言う権利なんて無い。

 ただ、悲しい。

 

「殺すか生かすか、もし生かそうと思っても、その者自らが死を選んだ時、果たして生かすことが可能か?

 だから、ヒソカはゴンを生かしておくことなどできていない。彼は生きているんだ」

「……なんでそれをオレに言うかな。それこそゴンがさっき聞きたかったことじゃねーの」

「これは私の持論だからな。彼がどんな答えを出してくるのかに興味がある」

「いーい性格」

「今更気付いたか?」

 

「……他人からの解答など意味が無い。純粋に自分で出したものでなければ長くは残らないさ。

 その際に、私からの影響などあって欲しくない」

 大した意味など無いのかもしれない。

 けど、それは微かに儚い印象が付きまとう言葉だった。

「オレに話す意味は?」

「そうだな………さし当たってこの件を問題にしてない人物、というか……。

 意見が欲しいのではなく、肯定して欲しいのでもない。

 ただ、自分が何を考えているのかを聞いて欲しいと思う時がある。ただそれだけのことだ」

「そんなもん?」

「時々、な」

「……そっか」

 

とりあえず、と右手の窓を眺めながら思う。

過去形でなくて良かった……かも。何となく、だけど。

ああ雲が早い。風が強そうだ。

船内放送が、53番を呼び出すのが聞こえた。

 

 

「意外と、聞き上手なのだろうな、君は。私にとって」

「………アンタオレの事嫌いなんじゃなかったのか?」

「部分による。全部好かれてたらかえって恐いだろうが」

「そりゃ……って、論点ずれてるし」

「あとは比重の問題。これは日々刻々と変化する」

「………さよーで」

答える気あるのかコイツ?

 

「嫌いと言わせる要因は中途半端な立場に身を置いているところ。

 気に食わないのはそれでも全体として嫌われない気質」

「はあ…………?」

 

「最たるはそれを毛嫌いしながらも妬ましく思う己に気付かせるところ」

 

 さっぱり判らない。

 あまりオレ自身を貶されてはいないようだけど……?

「………つまり?」

「はじめに言ったろう。半端なところが嫌いだと」

 そんな話だったかな。

 

「半端ってどーいう意味だよ?」

「未だ、心の1部を家に置いてきている。拾うか切り捨てるかしてこい」

 判らないなりにもカチンときた。

 一応、全てを捨てるつもりで家を出た。

 もう2度と帰らない。そう決めたのに。

「アンタに何がわかるって?」

「愚かな質問だよキルア。ここでよくわかるとでも言われたら腹立たしいだけだろう」

「そうしたら、心置きなくアンタを馬鹿にできる」

「そんな機会は与えてやらない。しかし、私はあくまで私の価値観でのみ物を言っているだけだ。

 君も、君の判断基準で私を軽蔑するなり嫌悪するなりするのは自由だ」

「それでできるなら、こんなにムカついてない」

「成る程」

 奇遇だな、という呟きが聞こえた。

 

 

「ではムカつきついでに続けさせてもらうとすれば、全て捨ててきたのなら何を恐れる?」

「はあ?」

「言いたいことがあるのなら、言えるうちに言っておいた方がいい」

「何の………話だよ」

「別に。心当たりがないのならそれでいい。私の思い違いだろう。

 ただ、勘違いなりに言わせてもらえば、ゴンは信用できる。それは、わかってるだろ?」

 本当は、とクラピカは思う。私が言うことではないのだけど。

 急かす必要もないのだけど、何故か胸騒ぎがしたから。

 何もなければ良いのだけど、という思いが口を動かした。

「私に言わなくていい。ただ、1度は口に出しておかないと、自分が何を求めていたかも判らなくなる」

「………………………オレは」

 角から、力を失った手が覗かせたので、軽く触れてみた。

「オレは、さ…………」

「無理に、私に言わなくとも良いのだよ?」

 無意識にか、私の手は握りこまれた。

「ん、いや。多分……アンタだから」

「そう、か」

 

「オレは、友達がほ―――――」

 惜しむらくは

「お待たせクラピカー!」

 その目的語に当たる人物の帰ってくるタイミングとかぶった事。

 あわれ。

 

「ゴメン、遅くなっちゃった」

「いや、話してたから」

 キルアが逃げようとしているが、残念私と手を繋いでいる。

「?誰と?」

 いい加減出て来いとばかりに手を引くと、角からキルアがまろび出る。

「あ、キルア」

「…………おう」

 

 

引いた拍子に離れた手で、軽く背中を叩いてやる。

それが私の精一杯の激励

「え、と………ゴン。ちょっと話があんだけど……」

「うん、どうしたの?」

「あのさ、オレと、友――――――」

 

 それでも、

 運が悪いというか何と言うか。

『受験番号99番の方、99番の方。第一応接室までおこしください』

 船内放送は無情だった。

 

「…………………………………」

「…………………………………」

「ごめんキルア。聞こえなかった。もう一回言ってくれない?」

「…………………………………」

 問い返すゴンに、しかし何も言わない。

 

 くるりと振り返り、勢い良く指をさす。…………私に。

「お前なんか嫌いだ!!」

 一言言って駆けていく――――――2度目。

「って私の所為か?!」

「うっさい、お前が全部悪い!!」

 あっという間に見えなくなった姿は紛れも無く、ガキ。

 

「今のは………何?」

 唖然と見送ったゴンが聞く。

 そうだろうとも、と思いながらも何と言って良いものか。

「多分………キルア本人から聞いたほうが良いと思う。

 それでも聞きたいのなら私から言っても良いが、どうする?」

「ん………なら、いい。クラピカがその方が良いと思うんならキルアから聞く」 

「うむ、それでは我々も行くか」

 

 

 意外に間の悪いあの子供がどんな顔して部屋から出てくるか。

 悪いとは思いながらも少し楽しみだったりする。

 

 世間は風当たりの強いもの。

 この程度で根を上げていては話にならないよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回に引き続きキルアで遊んでる私。

今回クラピカが告白してるように見えた方。きっぱり気のせいです。ウチのクラピカは告白するんならあんな回りくどくなく、堂々と言います。

第1部はYまでの予定だってけど、あと2つ3ついるなぁ………。2部だって控えてるのに。

いい加減タイトルの曲紹介くらいしたい……。

 

 

 

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