Wind Climbing Z

 

 

ゴンが医務室に運ばれた時、奇妙な不安感に襲われた。

悪い予感ばかりが当たるのも世の常で。

それでも彼が居さえすれば、悪い方向には進まないという根拠の無い自信。

だから、早く、戻って来い。

君がいなければ。

私では、他の者では、代わりは勤まらない。対処できない。

最悪のシナリオが進行してしまう。

 

 

 

 

 

 

血臭が、部屋に充満する。

濃厚な血と、迫りくる死の気配。

 

キルアを、追わなければと思う。

彼が出て行った扉を見つめ、それでも足が動かない。

レオリオが彼を追って出て行ったのが見えた。

ああ、お前はいつもそうだな。

初めて会った時にも、お前が動いたから私もどうすべきかわかった。

今回もそう、お前に続いてキルアを追わなければと思うのに。

今追わなければキルアは2度と戻らない。

そして、今のキルアを止めようとすればレオリオも危ない。

判っている……なのに!

 

死臭が、私を捕らえている。

それは過去の恐怖。

それは今死ぬわけにはいかないという言い訳のような使命感。

卑怯者、卑怯者!

2人を、見捨てようとしている。

仲間を見殺しにする。所詮は それが 私。

 

 

永遠に近くも感じた1瞬の刻。

金縛りを破ったのは1つの声だった。

 それは、被害者自身のうめきだったかもしれないし、

 周りの者が発した看護の声だったかもしれない。

 とにかく、即死ではない。そう思った途端に私は走り出していた。

 

 

 

 

 クラピカが2人に追いついた時、肩をつかもうとしたレオリオに、振り下ろされる爪を見た。

 必死で突き飛ばした為空振った手を認め、確信した。

 これは、キルアだと。

 

「危ねえ……!やっぱコイツ正気じゃねえ!」

 そう言うレオリオにクラピカは首を振った。

「今のは、間に合わなかったよ」

「ああ?」

「あのタイミングでは避けられるものではなかった。……キルアが加減しない限りな」

 もっとも、正気でないのは確かだろうがな。

 そう言い残して駆け出す。

 キルアを追い抜き、正面に立ちはだかる。

 先には行かせないと言うように。

「クラピカ!?」

 危険 危険

 頭の中でシグナルが回る。

 それでも、ここで引くことはできないのだよ。

さあ、再び振り上げられた手と、その瞳と、

どちらを見ていた方が安全だろう?

 

 

 パシッと、軽い音をたてて受け止めた。

 悪いな、さすがに何もせずにいられるほど私は信用できていない。

それでも、

「お前が本気なら、無理だった筈だな」

 だとしたら声は届くはず。

振り払われる前に何とか言葉を紡ぐ。

「殺してない。ボドロ氏はまだ生きてる、死んでいない」

 掴んだ腕がピクリと震えた。

「お前に意思が無いなら、完璧な暗殺者なら。これはありえない失敗だな?」

 ひどい言い方だが、反応が返れば上出来だ。

「戻れ。やったのは他の誰でもない、『お前』だ。傷つけたのなら、最後まで見届ける義務がある。

 逃げるな家に甘えるな。少しでも自立する気があるならば戻れ!」

 焦点の合っていないような瞳が揺れた。

「…………戻ろう?キルア。きっと、何とかなるから。何とかできるから」

 無責任な事を言っている自覚はあるが、本心でもある。

 私にできるのはこの位だけれども、きっと。

 きっと、彼なら…………

 

 

「無理だよ…………」

 一瞬浮かんだ意志の光は、ひどく傷ついたものだったから。

 突き飛ばされたと気付いたのは、背を壁にしたたかに打ち付けてから。

 衝撃に息が詰まった。

 私が咽ることもできずにいるうちに、キルアが再び歩み始めてしまう。

 行ってしまう。

 行ってしまう。

 呼吸ができない。いやそれより今は声を。

 でも、何を?

 

「………ゴン……は………」

 途切れ途切れの、絞り出すような声は、果たして届くだろうか。

 もう私には止める事はできないから。

「きっ…と、………迎え、に……行く……だろ、う…から」

 全ては彼に委ねられた。

「チャンスは……与え、られた。…その時…まで、に……………お前…が、選べ!!」

 

 

 それが限界だった。

 それきり私の意識は遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背中強打すると息できなくなるんですよね。私昔やって、数十秒まともに息吸えなくて死ぬかと思いました。

ぜーぜーひゅーひゅーやってたので周りが心配してたけど、声出す余裕なんざねえ!というのが心情でした。

いや、気絶はしてませんが。ってそんなことどうでもいいし。

キルアとクラピカ二人の会話でないとテンポが悪い。

はやく復活してくれキルア。

 

 

 

8に続く

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